インタビュー

太賀&阿部純子「インドネシアの充実した時間が、映画作りの熱意や勢いを高めてくれた」映画『海を駆ける』インタビュー

  • 文・武田由紀子 写真・花田龍之介
  • 2018年5月21日

映画『海を駆ける』で共演した太賀さんと阿部純子さん

海は豊かで美しいが、時に脅威となり人をのみ込む。2004年のスマトラ沖大地震で津波により壊滅的な被害を受けたインドネシア最西端の街バンダ・アチェを舞台に描かれる、神秘に満ちたファンタジー映画『海を駆ける』が5月26日(土)から公開される。

主演は、俳優・ミュージシャンとしても活躍するディーン・フジオカさん。海から突然現れる謎の男ラウをミステリアスに演じる。ラウを見守る日系インドネシア人タカシを演じているのが太賀さん、日本から来るタカシの親戚サチコを演じるのが阿部純子さん。今をときめく若手俳優2人に、1カ月半に渡るインドネシアロケについて、また作品への思いを語ってもらった。会うのが3カ月ぶりという2人は「髪伸びたね!」(阿部)、「そう?」(太賀)と撮影時からリラックスした様子。昨年公開された『ポンチョに夜明けの風はらませて』に続く2度目の共演となった今作では、とても濃い時間を過ごしたようだ。

映画『海を駆ける』より (C)2018 "The Man from the Sea" FILM PARTNERS

「言語以上にインドネシア人としての説得力を持たせることを意識した」(太賀)「点と点をつなぐように作り込まずに演じました」(阿部)

監督は、『淵に立つ』の深田晃司監督。太賀さんは『ほとりの朔子』から3度目の深田監督とのタッグとなるが、阿部さんは初。物語は、インドネシアのバンダ・アチェの海岸で倒れていた謎の男ラウから始まる。ラウの身元を探そうと、太賀さん演じる日系インドネシア人タカシと鶴田真由さん演じるその母・貴子がラウを引き取る。そこに日本から阿部さん演じるサチコがやってくる。何を話しかけてもほほ笑むだけ、何も語らないラウの周りでは不思議な現象が起こり始める。

日系インドネシア人を演じるために、日本で2カ月、そして現地に入ってからも1カ月半のインドネシア語のレッスンを受けたという太賀さん。「難しかったです」と言いながらも、劇中では流暢(りゅうちょう)にインドネシア語を話し、現地の青年らしい健康的でおおらかな雰囲気を漂わせている。

映画『海を駆ける』より (C)2018 "The Man from the Sea" FILM PARTNERS

太賀「母親役の鶴田さんのインドネシア語と僕のインドネシア語はスタートが違う。まず鶴田さんよりうまくなきゃいけないという大前提があったんです。鶴田さんが上手なので『頼むから下手に言ってくれ』『あんまりうまくならないでください』って心の中で思っていました……半分冗談ですが(笑)。言葉以上に、日系インドネシア人である説得力をどう持たせるかを意識していました。目に見えるところでいうと、現地の人みたいな髪形にするためにインドネシアの美容師さんに切ってもらったり、肌を焼いて色を黒くしたりとか。ご飯の食べ方や所作もそうですね。吸収できるものは、何でも吸収するようにしていました。僕がインドネシア人に見えるかどうかという部分では、(共演したインドネシアの俳優の)アディパティやセカールらに引っ張られて、引き出してもらった部分が大きい気がします」

阿部さん演じるサチコは、亡くなった父の散骨のためにインドネシアを訪れる大学生。日本で何かあったようだが多くは語らず、少し影のあるサチコを印象強く演じている。

阿部純子(以下、阿部)「明らかにされてないところを引き継ぎつつも、サチコはなんとか自分で切り開いて行こうとあがいている気がしました。深田監督に『人生は他人から見て分かる単純なものではない。点と点をつなぐ間に何があったか、複雑なものを感じるくらいがちょうどいい』と言われて、あまり作り込まずに、サチコを演じました」

たたずまいやビジュアル、野性的なまなざし。ディーン・フジオカさんは主人公の“ラウ”そのものだった

ラウを演じたディーン・フジオカさん (C)2018 "The Man from the Sea" FILM PARTNERS

ディーン・フジオカさんは主演でありながらセリフはほとんどなく、少しの言葉と圧倒的な存在感でラウを演じている。ディーンさんにとって第二の故郷ともいえるインドネシアでの撮影だったこともあり、とても穏やかな様子でラウ、そして現場に臨んでいたようだ。

阿部「私たち4人(アディパティ、セカールら)がふざけていたのを、いつも見守ってくださっている感じがしました。ディーンさんの曲を楽屋で流したら、口ずさんでくれたりもしました」

太賀「ディーンさんと2人で話す機会もあって、いろんな話をしてくださいましたね。外国で仕事をすること、精通しているインドネシアでのこと。時々、一緒に歌を歌ったりもしたよね? 現地のスタッフにインドネシアの歌を教えてもらって、覚えて歌ったり。それをディーンさんも面白がって、一緒に歌ってくれて。演技は、淡々とされている印象でした。ディーンさんのビジュアルやたたずまいが、本当にラウらしかった。実態のなさ、ミステリアスさがはまっていると言うのが合っているかわかりませんが」

映画『海を駆ける』より (C)2018 "The Man from the Sea" FILM PARTNERS

阿部「画面でディーンさんを見た時に『あ、ラウだ!』と思うぐらい、野生的なまなざしをしていて、そこに引き込まれて行くような気がした。ドラマやライブでは感じられないディーンさんを見てしまったような気がします」

太賀さん、阿部さん、インドネシアの若手俳優アディパティ・ドルケン(クリス役)、セカール・サリ(イルマ役)。年齢も近く、同じ俳優業の4人は、すぐに意気投合し、撮影以外も多くの時間を一緒に過ごしたそう。海に遊びに行ったり、食事に出かけたり。とりわけ楽しかったのがジャカルタで見た演劇だったという。言葉は分からなかったものの2人の記憶に深く刻まれた経験になった。

クリス役のアディパティ・ドルケン(左)、イルマ役のセカール・サリ(右から2人目) (C)2018 "The Man from the Sea" FILM PARTNERS

阿部「2人ともインドネシア語がよく分からないのに五感で見よう!みたいな感じで(笑)。セカールがタクシーで連れて行ってくれたんです。現代劇のほぼ一人芝居で、過去の戯曲を現代バージョンに変えたもので王様の話でした」

太賀「五感を研ぎ澄まして見たよね。演出がすごくモダンだったし、舞台装置も建物も、劇場がとてもかっこよくて。開始のベルがドラで“バ~ン!バ~ン!”って、どでかい音を鳴らすと、みんなトイレから出てきて席に座る。日本では、なかなか味わえない演劇体験でしたね」

阿部「現場に勢いがあったのは、こういう時間があったおかげもあると思います。楽しい雰囲気が4人の絆を深めてくれて、それが大きかった。楽しみながらも、『ちゃんと仕事もしなきゃ』『いいものを作りたい』という熱意をお互いに再確認していました」

太賀「はっきり言って、充実した時間でした(笑)。僕は英語が全くしゃべれないから、阿部さんにとても助けてもらってたけど」

ロケの思い出話で盛り上がる2人

「太賀くんは現場のマスコット。みんなに愛されていた」(阿部)、「阿部さんのふとした優しさに救われました」(太賀)

ラウの身元を探しながら、4人の不器用な恋も進んでいく。サチコを気に入ったクリスは、気持ちを伝えようとするが、タカシが勘違いして教えた言葉“月がきれいですね”と告白してしまう(夏目漱石が“I LOVE YOU”を“月がきれいですね”と訳したとされるエピソードから)。サチコに思いは伝わらず、恋はスムーズには進まない。現地での撮影中、長い時間を共にした2人だから分かるお互いの魅力について、異性視点からの“胸キュン”ポイントを聞いてみた。

阿部「前作でもそうだったけど、太賀くんは現場のマスコットだった。みんなに愛されて、テーマソングができるくらいに愛されていました(笑)。言語の壁さえも飛び越えて。最初の日からそうでした。歌もうまいし、みんなの前で歌を歌ったりしてたよね?」

太賀「歌は死ぬほど歌わされたよね。歌え!歌え!とスタッフで言うやつがいて。俺、おもちゃみたいになってたよね? 阿部さんは、すっごく気い遣いなんですよ。そんな器用なタイプじゃないから、不器用ながらにすごい気を遣ってくれて、めちゃめちゃ優しい。ふとした時にかけてくれる優しさに救われていましたね。包容力があるから、つい甘えてしまうところもあって」

阿部「むしろ私は、太賀くんじゃなかったら最後までやりきれなかったと思う。そばにいてくれて、特に日本語でずっと話せていたことで精神的にとても助けてもらって。こっぱずかしいですけど(笑)本当に太賀くんと一緒で良かったと思います」

【動画】ディーンさん、鶴田真由さん、深田監督も登壇 『海を駆ける』完成披露舞台あいさつ(5月7日・高橋敦撮影)

「見終わってから、心が浄化されたような気がした」(阿部)、「今までに見たことがない日本映画ができたと思います」(太賀)

謎に包まれたラウは、一体何者なのか。何を伝えるために現れ、どこに行くのか。見終わってから、みなさんは何を思うだろう。感想はきっと十人十色、一人ひとりの心の中に大きな余韻を残すのは間違いない。

映画『海を駆ける』より (C)2018 "The Man from the Sea" FILM PARTNERS

太賀「脚本をいただいた時、『こんな脚本読んだことない』と思いました。どんな映画になるのか、どんな撮影になるのかも想像ができなくて、すごくドキドキしたのを覚えています。そして見終わった後、すごく興奮した。今までに見たことがないタイプの日本映画ができたなと思いましたね。脚本を読んで、現場に立って、そして映画が完成した時に違う感触だったというのも興奮した理由の一つです。一方で、深田監督らしい映画だなと思いました。深田監督の才能、作家性を味わうのに抜群の映画ですね」

阿部「インドネシアのアチェという場所の力を借りて作品作りができたからこそ、描けたテーマじゃないかと思います。実際に現地に赴いて見ると、戦争中に日本軍が使っていたトーチカが残されていたり、津波で運ばれた電力船が残されていたり、あちこちに歴史が刻まれている。カオスのようなアチェにしかない独特の雰囲気がある。そこで作った作品だからこそ、一言では言い表せないような不思議な魅力がある気がします。人生と言うとオーバーだけど、日々の暮らし、私たちの生活の中にもそんな不思議な力があると思うんです。そこを包み込むようにして作られたのが『海を駆ける』なんじゃないかと思います」

バンダ・アチェの人々と同じように、大きな自然災害を乗り越えた日本人だからこそ感じることが『海を駆ける』にあるのかもしれない。最後に映画の見どころを2人に伺った。

太賀さん(ヘアメイク:高橋将氣、スタイリスト:山田陵太)阿部純子さん(ヘアメイク:フジワラミホコ(LUCK HAIR)、スタイリスト:岡本さなみ)

阿部「この作品を見た時に、ちゃんと自分のことを振り返る時間ってあったかな?と思うくらい、自分の心が浄化されたような気がしました。良くも悪くも情報がすぐに手に入る今の時代だからこそ、映画館にいる時間くらい、自分の今の状態や過去を振り返って考える時間があってもいいんじゃないかなと思って。情報にもまれながら社会と戦っている方には、特に見ていただきたいです」

太賀「見終わった後、心で広がりを持っている映画だと思います。自分自身で咀嚼(そしゃく)して、これはどういうことだったかなあ、どういう感覚だったかなと、見終わってから広がってくるような気がする。それをじっくり味わって欲しい映画だと思います」

【動画】映画『海を駆ける』予告編 (C)2018 "The Man from the Sea" FILM PARTNERS

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『海を駆ける』作品情報
監督・脚本・編集:深田晃司
出演:ディーン・フジオカ、太賀、阿部純子、アディパティ・ドルケン、セカール・サリ、鶴田真由
配給:日活、東京テアトル
企画制作:日活
(C)2018 "The Man from the Sea" FILM PARTNERS
2018年5月26日(土)全国ロードショー
ウェブサイト:http://umikake.jp/

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