小川フミオのモーターカー

“自動”というより“安全運転”技術 キャデラックの「スーパークルーズ」を体験

  • 文 小川フミオ
  • 2018年5月22日

スーパークルーズは手放しで運転できるがドライバーは前方を見ている必要がある

自動運転はどこまで信頼できるのか。いま、クルマに関するなかで、会話に出てくる頻度が最も高いトピックスがこれかもしれない。

「ニューヨークからロサンジェルスまでステアリングホイール操作なしに米国を横断できました」

米国キャデラック(Cadillac)社の技術者がそう誇らしげに語るのは、同社が2017年9月に導入した「スーパークルーズ」なるシステムである。

「世界初の真のフリーウェイ向けハンズフリー・ドライビングシステム」とうたわれるこの技術を、ぼくも2018年3月末、ニューヨークで体験した。

スーパークルーズは、車載カメラとレーダー、ナビゲーションシステムの地図データ、それと「オンスター」で構成される。

オンスターは米ゼネラルモーターズが立ち上げた“衛星との通信システムを組み合わせた技術(日本導入未定)”で、ナビゲーションや情報提供に使われる。

システムが待機状態のときはライトバーがブルー

スーパークルーズをひと言で表すと「レーンキープシステム」だろう。車載コンピューターが自車のいるべき位置を認識する。

これとクルーズコントロールとの組み合わせで、運転者に代わってステアリングホイール操作と加減速を自動で行うのだ。

「このシステムの強みは人間によるデータがベースになっていることです」

ニューヨークのキャデラック本社でシステムの解説をしてくれたマーケティングマネージャーのエリック・アンジェローロ氏は言う。

ベースになっているのはライダー(LIDAR=レーザーレーダー)マップとよばれる三次元の地形データ。

ライダーのデータを活用できる技術を提供する「USHR」と、衛星を使い車両の位置を2メートルの誤差で把握する技術を持つ「トリンブル」が協力企業だ。

全米13万マイル(約21万キロ)の自動車専用道がこのシステムを使える場所だそう。

キャデラックの専門チームは実地検証しながらシステムを構築した、とアンジェローロ氏。

実際にフリーウェイで手放し走行に切り替え

マンハッタンのソーホー地区にあるキャデラック本社前でCT6に乗りこんだ

ぼくはニューヨークのキャデラック本社前でスーパークルーズを搭載したキャデラックCT6(現在このシステムが使える唯一のモデル)に乗ると、フリーウェイで郊外へ向かった。

ステアリングホイールのスポーク部分に設けられた作動スイッチと、作動を示すホイールリム上のインジケーターが備わる。

顔認識カメラと、ステアリングホイールに振動を与える警告装置もシステムの一部である。

走りだしてスイッチをオンにする。システムが使える状況になると、インジケーターがグリーンになって教えてくれる。

ライトバーがグリーンになると手放しで走行できる(自分で操縦していてもいい)

グリーンのときは手放しで走行可能だ。正直、最初はステアリングから手を離すことにビビった。中央分離帯に激突したら、隣りの車線のクルマに接触したら、と不安が次々に襲ってきた。

「地図の誤差はわずか5センチで、車両はつねにブルーラインと呼ばれる車線中央を走るように設定されています」

開発者の言葉を思い出し、意を決して、手を放してみた。

果たしてクルマは不安な挙動いっさいなしに、じつにスムーズに走行。コントローラーを上下に動かすことで走行速度が設定できる。

テスラの「オートパイロット」はあまりうまくないひとが操縦するスポーツカーみたいな動きだが、こちらはカーブを曲がる時も、ものすごくスムーズだ。

あまりに面白いので、iPhoneでメーター類の証拠写真を撮ろうとしたら、インジケーターがレッドに変わり、ブルブルと振動も出てビックリした。

ドライバーの注意が逸れたりドライバーが操縦する必要が生じたときライトバーはレッドになりシートも振動して警告する

ドライバーの状態をモニターしているカメラにより、システムが警告しているのだ。運転者は手放しをしていても常に前方を見ていることが要求される。

また、ミュージシャンのプリンスそっくりの米国人カメラマンが、iPhoneでアップ撮影した顔の画像をカメラの前にかざしてみたが、それでだまされるようなシステムではなかった。すぐレッド。

ステアリングホイールのコラムにドライバーの顔をモニターするセンサーが備わっている

走行しているうちにシステムに信頼がおけるようになってきた。クルーズコントロールは先行車追従型でありブレーキとも連動しているのでフリーウェイ走行での不安は少ない。

追い越しは運転者の操作だが、車線を移り、もとの車線に戻ったあとは、自動でシステムが再び動き出す。

ドライバーがスイッチを切らないかぎりシステムはつねにスタンバイ状態にある。ただし強引に作動することはなく、あらゆる状況下で人間の操作が優先される。

自動運転というと、昨今は「レベル3」(運転者の負担もある条件付き自動運転)だとか「レベル4」(高速道路など特定の状況で車両に運転を任せられる)などが取り沙汰される。

いつのまにか自動運転は、「どこでも車両まかせに出来るシステム」ととらえられるようになっている感がある。

今回体験した「スーパークルーズ」は、ある面では上記レベル3に近いのだけれど、歩行者や自転車がいない場所のみに作動条件をしぼっているのは、現時点では賢い選択だと思う。

現状ではスーパークルーズはキャデラックのトップモデルであるCT6にのみ搭載される

体験してわかったのは、車線をキープしながら一定速度で走るという“苦役”からの解放を助けてくれるシステムと考えたほうがいいということだ。事故防止にも役立つはずだ。

あいにく先述の「オンスター」を使っていない日本では、キャデラックCT6は買えるが、スーパークルーズは装備されない。

ぼくは結構、このちょっと地味だけれど信頼感のあるシステムが気に入っただけに、日本で使えないことを残念に思う。

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(写真はすべてCadillac提供)

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PROFILE

小川フミオ(おがわ・ふみお)

写真

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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