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名作絵画の中へ飛び込み、作品の世界を体感~アートとVR

  • 染瀬直人
  • 2018年5月28日

2次元の絵画の中に入り込み、立体的に作品世界を体感する――そんな空想のような出来事が、VRで実現する。

ダリが見た夢(?)の中をさまよう体験

スペインの有名画家、サルバドール・ダリの代表作の一つである『ミレーの晩鐘の古代学的回想』(1935年)を、ザ・ダリ・ミュージアム(米フロリダ州)とディズニーが、コンピューターグラフィックスによりVR化した作品『Dreams of Dali: 360° Video』がこちらだ。

【YouTube360】Dreams of Dali: 360º Video

『ミレーの晩鐘の古代学的回想』は、フランスの画家ジャン・フランソワ・ミレーが1857年から1859年にかけて制作した油彩作品『晩鐘』が原型。ミレーの作品は農民の夫婦の祈りの姿を描いた宗教的なモチーフの作品だが、幼少期にこの絵を見て鮮烈なインスピレーションを受けたダリが、後年独自のセクシュアルな解釈のもとに描いたと言われている。

VR版『Dreams of Dali: 360° Video』では、美術館に展示された『ミレーの晩鐘の古代学的回想』に、カメラ(視点)が吸い寄せられるように近づき、絵画の中に視聴者が没入していくところからスタートする。

荒涼とした寂しい砂丘に、長い影を落とした二つのヒト型の不思議な塔がこつぜんとそびえ立っている。その塔を遠くに仰ぎ、たたずんでいる2人の人影は、親子だろうか? シルクハットの紳士と手をつないでいる男の子は、幼少期のダリの姿かもしれない。

空撮のようなスムーズなカメラワークに導かれ、我々はその2人を追い越して、塔へと接近していく。地面にはせわしくアリがうごめき、空には三日月と無数の星が瞬き、不気味な黒い鳥が旋回している。塔の敷地には植えられた木々が生い茂っており、その葉は風にざわめくように大きく揺れている。ダリ自身のモノローグなのか、この異空間には終始、詩を朗読するかのような男の声が響いている。

向かって右側の塔の入り口に我々の視点が侵入していくと、そこにはなぜかロブスター型の受話器をした電話機が置かれていて、その呼び鈴はいつまでも鳴りやまない。砂丘の上でジャンプを繰り返すドレスを着た夫人をはた目に通過すると、今度はとても長い脚をもった数頭の象が、石塔のような荷物を背負いながら、ゆっくりと移動していく場面に遭遇する。

左側の塔の内部へ入っていくと、石壁に囲まれた部屋で座禅を組んで瞑想(めいそう)をする男のホログラム映像のような姿を目撃する。空間にはサイケデリックなロックの楽曲が鳴り渡っている。そして我々は石で積み上げられた外壁をはうように塔の天頂へと浮上し、旋回し、遠くの山々の姿を望む。

VR動画に現れる数々の奇妙なモチーフも、美術館に収蔵されているダリの作品に登場するイメージばかりだ。

ダリの脳内をさまようような5分10秒の時間。それはまさにタイトル通り、ダリの夢を共有するかのような体験である。

この作品は、ザ・ダリ・ミュージアムのダリ特別展『Disney & Dali: Architects of the Imagination』(2016年1月~6月) の一環として制作された。現在でも美術館で視聴できるほか、美術館に来られない人のために、YouTubeでも閲覧できる。またOculus RiftやHTC Vive用のインタラクティブ版のアプリでも配信されている。

美術館の観客にも大変好評で、来場者が37%増加したという。そして、広告賞・カンヌライオンズのサイバー部門のゴールドをはじめとする多数の賞を受賞した。

ゴッホ、モネの世界観もVRで堪能

同様の作品に、中国・上海のモーションマジック社制作の『The starry night Stereo VR experience~THE WORLD OF VINCENT VAN GOGH 星月夜』がある。これはオランダの後期印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホの『星月夜(糸杉と村)』(1889年)と、『アルルの寝室』(1888年)の世界を融合して制作されたVR作品。

【YouTube360】The starry night Stereo VR experience

モチーフとなっている作品『星月夜(糸杉と村)』は、ゴッホが精神病を患い、修道院で療養中に部屋の窓から見た夜明け前の情景が描かれている。そこではゴッホ独特の重厚な筆致で、彼自身の精神世界を表すかのように現実はデフォルメされて描かれている。

月や星に照らされたサン・レミ・ド・プロヴァンスの村。手前には巨大な糸杉が、また山々を背景に民家ととがったゴシック建築の屋根の教会が描かれている。VR作品では、月や星の周りを渦巻くように配置された暗雲がぐるぐると動きだし、ゴッホの世界観に巻き込まれるような迫力を演出している。そして終盤には我々の視点はゴッホ自身のアトリエでもあった寝室の空間へと侵入していく。

その他、ブラジルのGIGOIA STUDIOS社が制作した印象派の画家クロード・モネの『睡蓮の池』(1899年)や、オランダの画家ポール・ジョセフ・コンスタンタン・ガブリエルの『In the month of July』(1889年)をテーマとしたVR作品もある。

同社はゲームやVRの体験を通じて、教育に利用できるコンテンツを制作している会社だ。

【YouTube360】CLAUDE MONET #360video - A WALK INSIDE Bridge over a Pond of Water Lilies

【YouTube360】IMPRESSIONISTa WINDMILLS #360video | #rijksstudio | Walk inside a painting

VRやARの活用が進む美術館、博物館

昨今、美術館や博物館では、従来の音声やビデオ映像のみならず、VRやARを用いたガイドを取り入れているところが非常に増えている。また、それを目玉コンテンツとして位置付けた展示も見られるようになった。

2016年に、上野の東京国立博物館のTNM & TOPPANミュージアムシアターで公開されたVR作品『仁清が作った茶壺』のように、ヘッドマウントディスプレーを装着することで、一般公開していない江戸時代の色絵月梅図茶壺を内部から見るという、現実には不可能な視点による鑑賞を実現させた展示なども記憶に新しい。

また、今年4月に誕生したパリのデジタル・アート・センターのアトリエ・デ・リュミエールで開催されている「グスタフ・クリムトの没入型デジタル展」でも、画家グスタフ・クリムトやエゴン・シーレの作品をもとにつくられたデジタル映像が巨大な壁面や床にプロジェクションされ、評判を呼んでいる。

【Vimeo:Culturespaces】L’Atelier des Lumières - Expositions “Gustav Klimt” et “Hundertwasser”

これらの事象を見ていくと、アート作品の鑑賞の仕方が、VRやデジタル表現によって拡張され、多様化していく時代が、すでに我々の身の回りに訪れていることがわかる。それは改めて作家や作品のイマジネーションの源泉を見直すきっかけにもなるであろう。

また、もしダリやモネが現代に生きていたら、どのようなVR作品を制作するのか、想像してみるのも楽しいのではないだろうか。

(協力:ザ・ダリ・ミュージアム)

お手軽な360度VR動画の楽しみ方

Getty Images

段ボール製の簡易型VRゴーグルとスマホアプリがあれば、手軽に没入感があるVR動画の視聴を楽しめる。

YouTubeアプリのインストールはこちらから(iOS版, Android版

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