変化の時代の生存戦略論

「持続的な幸せ」は相対化してこそ見えてくる SHOWROOM前田裕二の視点

  • 尾原和啓×SHOWROOM前田裕二
  • 2018年5月31日

  

AIが人間を超えていく時代における幸福とは、何か? 

IT評論家・尾原和啓さんが、”変化の時代の生存戦略”をテーマに、あらゆる業界のプロフェッショナルを迎え、議論します。

今回のお相手

SHOWROOM代表 前田裕二さん

早稲田大学政治経済学部卒。UBS証券に入社後、NYにて北米の機関投資家に対するエクイティセールスに従事。帰国後、DeNAに入社。仮想ライブ空間「SHOWROOM」を設立、事業をスピンオフしSHOWROOMを設立。近著に『人生の勝算』。Twitter:@UGMD

親世代の働き方を避ける今時の若者

尾原 SHOWROOMはアーティストやアイドル、タレントなどがリアルタイムで配信する映像を無料で視聴、応援できるインターネットのライブ配信サービスです。ファンは出演者に対し、バーチャルでギフティング(視聴者がギフトと呼ばれるバーチャルアイテムをプレゼントすることで配信者の報酬になる仕組み)をすることができるので、出演者のなかには月1200万円以上を売り上げるケースもあります。

出演者が表示される画面より、ファンの空間の方が広い。出演者とファンだけでなく、ファン同士でも「コメントログ」にてやりとりができる。(画像提供:SHOWROOM株式会社)

僕は、SHOWROOMは「新しい幸せの価値観」を提示しているサービスだと思っています。例えばこれまでアイドルといえば、「メジャーデビューして目指せ武道館!」が王道だったわけですが、SHOWROOMは誰でもすぐに生配信ができることから、たとえ歌やダンスがうまくなくても、出演者の人柄によって固定ファンが生まれ、それが新しいコミュニティーの形になったりしている。

これは、今後AIによって時代の変化が一層激しさを増していく中で、より持続的な生き方や、生きがいの見つけ方を示唆しているように感じるのです。そこで今回は、同社代表の前田裕二さんに、若者の新しい幸せの形についてお話を伺いたいと思います。

前田 ありがとうございます。僕は幸せについて考えるとき、よく、兄と自分の暮らしを対比しながら思考を深めます。兄は僕より10年上で、今も昔もずっと東京都葛飾区に住んでいる。地元密着かつ地域の仲間や家族にとても大きな価値を置く、いわゆる「マイルドヤンキー」ですね。

僕の地元の同級生を見渡してみても、葛飾に残ったままの友達は多い。家族の生活も完全に葛飾のローカル文化や雰囲気に根ざしています。例えば、いまだに実家に帰ると、兄がチラシを見ながら「あれ、今日きゅうりめっちゃ安いじゃん。買い行こ!」みたいなやりとりを家族としていたりします。これ、すごく幸せな感覚だと思っていて。

以前海外の記事で読んだのですが、最近は上昇志向のある若者が、世界中で減少してきていると言われています。以前ならアイビーリーグに行って、投資銀行に入ってバリバリ働く、みたいな人生の理想のコースがあったけれど、今は定時に家に帰って、Netflixを見たり、プレステをやったりするような、収入は多くなくても家族や友達と楽しくやれたら幸せ、といった新しい価値観の若者が増えている。

こういった子たちは、バリバリ働く親世代やひとつ前の世代の働き方を、意識的か無意識的か知っていて、あえて逆をやっている傾向があるように思っています。「そんな働いてどうすんのよ、家でNetflix and chill(家で映像コンテンツなど見ながらくつろぐ)していた方がハッピーだわ」というような。この、「逆サイドを知っているから自分の幸せを客観視できる」という構造は、SHOWROOMにおける人気者にも通じるところがあると思っています。

尾原 面白い指摘ですね。SHOWROOMで人気が出るアーティストはどんなタイプの方が多いんですか?

前田 色々な切り口があるのですが、ひとつは「一度はメジャーデビューをしたけれど、メジャーの世界に見切りをつけて足を洗い、地道にネット側でファンを増やしている」というタイプ。より理解を深めるために、4象限で図解します。これは、演者と呼ばれる人たちを二軸で分類するためのもの。縦軸がファンと演者の距離感で、下にいくほど身近。横軸は純粋にファンの数で、右に行くほど多い。で、仮に右上をメジャーの世界とします。

(画像提供:SHOWROOM株式会社)

一度、地上波テレビの音楽番組に出たり、武道館など大きなハコでライブしたりしたことのある人は、右下に降りてきたときにものすごいモチベーションを発揮するケースが多いんです。

例えば、もともとメジャーの世界で活躍していたミュージシャンが、楽器を弾いたり歌を歌ったりする音楽配信をSHOWROOM上で積み重ね、多くの固定ファンをつけたりしています。実際、彼らがライブをやったら何十人、何百人のファンがきてくれる。

また、毎日自宅でのピアノの弾き語りで、1000人以上のファンが見にきてくれる人もいるなど、ファンベースが1000人以上の規模になっている人もたくさんいる。ネットでここまでの努力を投じることができるのは、いい意味で「メジャーなるものへの諦め」があるからだと思っています。

尾原 しかも、「その人の曲が聴きたい」ってわざわざ来て、お金払ってくれる人がいるってことですもんね。

前田 その通りです。音色や歌声、演奏技術や歌唱力など、「狭義のコンテンツ(モノ・コト)」に対してお金を払っているわけじゃなくて、その人のたたずまいや日々の成長のような、「広義のコンテンツ(ヒト)」を楽しんでいる。誰かの裏側にあるストーリーに共感してお金を払っている。

それってすごくサステイナブル(持続可能であること)だと思うんですよね。下手な曲を弾いても、「この人が弾くからいいんだ」と応援したくなる。

自分なりの幸せは「隣の芝」を知れば見えてくる

尾原 つまり、SHOWROOMでピアノを弾いて、メジャーではなくてもファンと交流していくアーティストと、葛飾で暮らす前田さんのお兄さんは、幸せに対する価値観が似ているんじゃないか、ということですね。

前田 そうです。要は「逆側を知っていると、現状や与えられた環境から幸せを感じやすくなる」ということです。もったいないのは、逆側を知らない状態。自分が知らない場所で成功している人の芝は、得てして、奇麗に青く見えるものです。

例えば左上とか左下にいる人たちは、メジャー(右上)の世界を見たいという思いがあるので、一度もテレビに出ないまま、たとえSHOWROOMで頑張ってファンをつけて右下にいけたとしても、あんまり幸せを感じなかったりします。

だから、それぞれが逆サイドをよく知るといいと感じるのです。兄が自分の幸せを確信しているのは、逆サイドにいる僕について、いいことも大変なこともよく知っているからだと思うんです。

僕の場合は、NYで働いて、人の何倍かの年収を稼いで、事業を作って分社化して上場、みたいな、いわゆる成果や社会に影響を与えることについて、相当強い意識を持っているわけです。一方で兄は、仕事も当然大事ですが、それ以上に家族が圧倒的なプライオリティ(優先事項)。

兄は、仕事から得られる物理的・精神的報酬に対して、そこまで期待をしていないんですよね。決して裕福ではなくても、家族で一緒に楽しくいられれば十分幸せなんです。逆側を知っていると、モチベーションの持続性も高まります。知らないと、4象限の右下にずっと留まっていて、「自分は何をやっているんだ。右上の世界はあんなにもきらびやかなのに、自分は一生そこにいけないんだ」と思ってしまって、エネルギーを保てなかったりします。

でも右上の世界を一度でも見ている人は、有名音楽番組に出ているアーティストでもバイトしている人がいることを知っているし、仮に一度稼げても継続性が伴うケースはまれで、右上の世界がそこまで甘くないということを知っている。もちろんトップオブトップはまた別世界ですが。

僕自身長らくバンドをやっている中で、同世代のバンドマンで武道館まで行った人は結構たくさんいますが、「あれ……こんな程度の景色なのか」と、がくぜんとしてやめちゃう人もいました。ここまできても、超大金持ちになれるわけじゃなく、むしろ割とつつましい生活をしなければならない、っていう現実を見てしまう。でも自分は生業としての音楽は続けたい。それなら、ひたすら右上の文脈で売れようとあがくのではなく、今いるファンと丁寧に向き合っていこう、とにかくファンを大事にしながらやっていこうと、右下に降りてくるんです。

尾原 確かにファンを仲間のように大切にしながら、自分たちの空間で楽しくやって行こうという姿勢は、葛飾の若者が仲間を大事にしながら生きていく空間に似ていますよね。SHOWROOMの面白いのは、「木更津キャッツアイ」みたいな、ローカルな空間をバーチャルに生み出すところだと思います。さらにここで大事なのは、右下の生き方のほうが持続的なのではないか、ということですよね。

前田 そう思います。ただ、繰り返しになりますが、そのためにはやはり逆サイドの事情や現実を知ることだと思うんです。そこがわからないままだと、いつまでも自分の境遇に納得がいかないので。あちら側の世界はさぞかし楽しいことだろう、と思ってしまうので。

人間誰しも、自分が今、実は手の中に持っている幸せに気づけないことってあると思うんです。僕自身、幼少期に「自分は不遇だ」と思うこともありましたが、よく考えてみたら、両親がいなくても、その欠けた愛情を補うように僕と過ごしてくれた兄との時間を思い出すと、純粋にすごく幸せだったなと思うんですよね。

当時……と言っても9歳とか10歳とかですが(笑)、もっと幸せに気づいてもよかった。そして、あの時に感じていた幸せと、今経験しているような目標達成や自己実現によって得られる幸せは、似ているようで違う種類のものです。

自分が人生を通じて感じるいくつかの幸福感を冷静に見つめ直してみて、果たして今人生のこの局面において、どの要素が自分にとってより大きな幸せをもたらすのか。これを深く内省して考えてみると、人生もっと楽しくなりそうだね、というのが僕の考え方です。結論、手の中にある幸せは、相対化してこそ、よく見えてくると思います。

尾原 そうですね。僕はインターネットの人間なので、そういった逆サイドの人生を追体験してみるのにも、ネットはいいツールだと思っています。SNSを追ってみるだけでも、その人の見ている景色がわかったりしますしね。前田さん、今日はありがとうございました。

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PROFILE

尾原和啓(おばら・かずひろ)

T評論家/Catalyst(紡ぎ屋) シンクル事業長、執筆・IT批評家、Professional Connector、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー。 京都大大学院で人工知能論を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなどで事業立ち上げ・投資を歴任。13職目を経て、バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディション、Burning Man Japanに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に「ザ・プラットフォーム」(NHK出版新書)「ITビジネスの原理」(NHK出版)。近著に「モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書」(幻冬舎)。Twitter:@kazobara

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