私の一枚

原田芳雄さんとの思い出と、いまも守り続ける約束 松尾貴史

  • 2018年6月4日

1998年の年の瀬。原田芳雄さん宅での餅つき会で杵を握る

ちょうど20年前、原田芳雄さんに撮っていただいた写真です。毎年、年末になると芳雄さんの家で餅つき会があって、たくさんの方が集まっていました。そのすべての方たちに、芳雄さんがお餅を振る舞っていたんです。

出会いは、まだ僕がデビューして間もない頃。当時東京・四谷にあった、業界人御用達のバーでした。僕がひとりでカウンターで飲んでいると、後ろのボックス席から聞き覚えのある声がして、見てみると、大物女性歌手と大物男性タレントと芳雄さんがいました。

芳雄さんは黒いタンクトップにサングラスのハードボイルドな姿で、その男性タレントさんがそれをおもしろがって芳雄さんの脇の下をくすぐったり、芳雄さんが「やめなさい」なんて言い返していたりして。

「素敵な大人たちだなあ」なんて思っていたら、芳雄さんが「君、関西だろ」って声をかけてくれたんです。どうやら僕のことを認識してくれていたようで、「こっちで一緒に飲もうや」って言ってくれたのが最初でした。

その時、芳雄さんが「今度、お腹が空いたらうちにおいで」と言って、コースターの裏に自宅の電話番号を書いて渡してくれました。後日、真に受けて電話をしてみたら「ちょうどよかった。うちで天ぷらパーティーをやってるからおいで」と。

行ってみたら、芳雄さんは前掛け姿で粉まみれになって天ぷら鍋に向かっていて、ほかには松田優作さん、桃井かおりさん、林海象監督、若かりし頃の佐野史郎さんもいました。

これはすごい世界だなと思いつつ、芳雄さんが揚げた天ぷらに、「まだ生揚げだ」なんて文句を言ってみたり、ある俳優さんが嫌いだという意見で満場一致して盛り上がったり、ああここは僕と気が合う人たちが集まる空間なんだって、すごくうれしかったですね。

芳雄さんは読書量もすごかったし、論理でもまったくかなわなかった。ものすごい知力でした。歴史、哲学、思想に加えて、土着信仰や宗教学の本もたくさん読んでいましたね。でも芳雄さん自身は非常にニュートラルで、全方位的な批評眼を持っていた。

芳雄さんの言葉は、いまも僕にとって、何か行動をする時のひとつの尺度になっています。例えば、舞台について、「お前も表現者として、お客さんが足を運んでくれる場所で何かを表現する場をコンスタントに持つように」と芳雄さんに約束させられたことがあるんです。それ以来、年に1~2回は必ず舞台で演じるようにしています。

芳雄さんも、病気で入院中以外は、必ず舞台を観に来てくれて、時には辛口のコメントをいただいたこともありました。

もうすぐ亡くなられて7年。早いですね。最後に会ったのは、亡くなる4日前でした。「キッチュ来たよ、キッチュ来たよ」って奥さんが声をかけてくれたけど、もう夢うつつというか、半分以上寝ているような感じだったので、帰ろうと思って廊下を歩き始めたら、後ろから付き人の人が「キッチュさん、芳雄が呼んでます」って。

慌てて戻ったら、ほとんど声が出ない状態なのに「死ぬなよ」って言うんです。「志ん五みたいに死ぬなよ」って。その前の年に亡くなった古今亭志ん五さんのことなんですが、芳雄さんは、志ん五さんは働きすぎて亡くなったと思っていた。

「いやいや、今は芳雄さんが死にかけてるんだから、芳雄さんが死なないでね」って返したら、ちょっとニヤッと笑ったような顔をして。自分が危ない時にね、こっちの気遣いをしてくれる方でした。

昔の僕は貧乏だったせいかコンプレックスもあって、もうかる仕事優先みたいなところがありました。でも芳雄さんは、例えば少ない予算の中でなんとかして作品を作りたい若手の監督がいると、必ず1回はノーギャラに近い状態で付き合うんです。純粋に表現したいと思っている人を何とかサポートしたいって。あの四谷での出会いでも、そんな気持ちで、まだ若造だった僕に声をかけてくれたのかもしれませんね。

テレビや舞台からカレーショップ経営まで多彩な才能で活躍する松尾貴史さん

まつお・たかし 1960年、兵庫県神戸市生まれ。大阪芸術大学芸術学部デザイン学科卒業(グラフィック・デザイン専攻)。1984年より「キッチュ」の芸名で活動開始。TV・ラジオはもとより、映画、舞台、エッセイ、イラスト、折り紙等、幅広い分野で活躍する他、東京・下北沢と大阪市福島区でカレーショップ「般゜若(パンニャ)」を経営。

◆定期的に舞台への出演を続ける松尾さん。最新の出演作となる『ザ・空気ver.2 誰も書いてはならぬ』では、保守系大手新聞社の論説副主幹を演じている。共演は安田成美、眞島秀和、馬渕英里何、柳下大。6月23日(土)~7月16日(祝)、東京芸術劇場シアターイーストにて上演の他、6月から9月にかけ埼玉、三重、長野、岩手、山形、山口、福岡、兵庫、愛知、滋賀でも開催。
お問合せは二兎社(電話03-3991-8872 http://www.nitosha.net)まで。

    ◇

僕以外の出演者の役どころは、保守系新聞社の若手記者、某公共放送の記者、リベラル系全国紙のキャップ、ネットメディアのジャーナリスト。フィクションですが、報道の現場で実際にあったことが物語の中に組み込まれているなど、取り巻く事象や関係性はできるだけリアルに作られています。情報を受け取る側である我々のメディア・リテラシーの必要性についても考えさせられるような社会派の舞台です。

(聞き手・髙橋晃浩)

保守系大手新聞社の論説副主幹を演じる舞台『ザ・空気ver.2 誰も書いてはならぬ』

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