小川フミオのモーターカー

自動車デザイン史上、最も衝撃的で魅惑的な1台 マセラティ・ブーメラン

  • 世界の名車<第215回>
  • 2018年6月11日

アルミニウムとガラスをプリズムのようなラインでまとめているスタイリングはいまも魅力的(写真=Italdesign 提供)

自動車のデザイン史上で最も衝撃的なクルマ。確実にその1台といえるのが、1972年に発表されたマセラティ・ブーメランだ。

傾斜角13度という“超”がつくぐらい寝かされたウィンドシールドをはじめ、側面からみると鋭角な三角形のようなスタイル。「ウェッジ(くさび)シェイプ」という言葉を生み、60年代のフェラーリに代表される曲線美をいっきに過去のものとしてしまった。

全幅186センチに対して全高107cmという超がつくほど低い全高が迫力(写真=Maserati提供)

全高は107cmしかなく、車内に乗り込むのは至難のわざだったと、当時の本に記述されている。ぼくはこのクルマの大ファンで、実物を何度も見たけれど、乗りこむ勇気はなかった。

ベースはマセラティ・ボーラで、エンジンも4.7リッターV8というボーラ用を搭載(写真=Italdesign 提供)

スタイリングを手がけたのは、ジョルジェット・ジュジャーロとイタルデザイン。どうしてこんなスタイルを思いついたのか。直接的な答えではないけれど、ジュジャーロは自身のデザインの法則として「期待に応えること」を挙げている。

このインテリアはプロトタイプの段階で、円形メーターが環状に配される有名なデザインではない(写真=Italdesign 提供)

アポロ11号が69年に月面着陸した映像に人々が興奮し、アポロ計画が72年の17号でミッションコンプリートとなったころ、人々の意識には変革が起き始めていたように思う。

スポーツカーには、新しい「速さ」の表現が求められるようになった。その意識の変化をいち早く見抜き、すぐれたセンスで具現化したところがジュジャーロの偉業なのである。

サイドウィンドーも大きく寝かされている(写真=Italdesign 提供)

ブーメランはダッシュボードのデザインも秀逸で、ステアリングホイールの中心部に円形の計器が環状に並べられていた。アポロの司令・機械船(CSM)の噴射口のイメージなのだとか。あいにく、今回はそのダッシュボードの画像が手に入らずお見せできないのが残念だ。

くさび形がよくわかるプロファイル(サイドビュー)(写真=Italdesign 提供)

最初はショー用の外観モデルが、翌73年にはエンジンを載せて走行するモデルが発表された。マセラティはすばらしいデザインであると自ら誇ったが、このとき第一次石油危機が起こり、スポーツカーの開発には大きくブレーキがかかってしまった。

ジュジャーロはそのあとも、ウェッジシェイプを時代に合わせて洗練させ、ロータス・エトナ(84年)、アウディ・クワトロをベースにしたアスピッド(88年)、BMWナズカ(91年)など、多くの印象的なデザインを生み出した。

ただ、見る者をワクワクさせることを第一の目的にしたようなクルマは、その後はなかなか登場しなかった。その意味でブーメランは画期的だったのだ。

僕はいまでもこのクルマを見飽きることがない。それが大好きな理由である。

この写真をみると、ジュジャーロはブーメランを自動車を超えた乗り物ととらえていたように思える(写真=Italdesign 提供)

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PROFILE

小川フミオ(おがわ・ふみお)

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クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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