ローカルヒーロー

ローカルヒーロー 有高唯之編:まさに今「ここに生きる人」を撮る写真家

  • 文・写真 ミネシンゴ
  • 2018年6月12日

  

東京に住まい、東京で働くということ。いま、自分の暮らし方を考えて、朝晩ずっと東京に身を置くことに違和感を覚える人も少なくありません。美容師から会社員を経て、自身が編集する美容文藝誌「髪とアタシ」をはじめとした、カルチャー誌の編集者として生きるミネシンゴさんもそのうちのひとり。東京を拠点に仕事をしながらも、8年間住んでいた逗子から三浦へ移り住んだミネシンゴさんが、新しく出会う人や街の景色は、これからの暮らし方をそっと教えてくれます。

    ◇

三崎に引っ越して間もなく、写真家の有高唯之さんと出会った。彼のことは逗子に住んでいたときから名前だけは知っていた。一昨年、三崎の旧市場で、「三浦のひとびと展」という、漁師をはじめ、農家、医者、スナックのママまで幅広い人たちの「今」を捉えた写真展が開催された。この写真展を知ったのは、京急の駅構内で見たインパクトが大きなポスターだったと思う。マグロの首と包丁を持った男性が、力強い眼差しでこちらを見ている。こんな人たちが神奈川にいるのかと当時は思ったが、三崎にきてそれが本当だと知るのに時間はかからなかった。

  

はじめて有高さんと出会ったのは、この連載の第1話に登場した藤沢宏光さんの自宅地下スタジオ。缶ビール片手に、名刺を渡したのを覚えている。

「写真家」と聞くと、寡黙で張り詰めた雰囲気を持つ印象だが、有高さんは違う。くしゃくしゃになった笑顔で「よろしく」と握手をしてくれる。その姿勢に、「こうやって写真を撮っているんだ」と思った。

ポートレートを中心に文化人や芸能人も含め、数多くのポートレート撮影をしてきた有高さん。被写体の正直な表情や、その人「らしさ」がにじみ出る写真は、撮る人と撮られる人との関係性が浮き彫りになる。有高さんの写真をあらためて見たときに、その「間」と距離感に感動して、「一緒に写真集をつくりませんか?」と直感的に話を持ちかけた。三浦の人びとの「今」を捉えた写真集をつくりたい。三崎に引っ越してきてからの初本は三浦をテーマにしたい。それがぼくの使命だと、勝手に思い込んでいた。

  

今まで撮影されてきた写真を1枚1枚見せてもらい、写真集にするにあたって追加できる被写体や風景を話し合った。

有高さんが三浦の人々を撮り始めたきっかけは、東京から逗子に拠点を移し、三崎へ頻繁に来るようになって地元の人をなにげなく撮影したところから始まる。

カツオを片手に携帯で話をする漁師、トラクターに乗っている女性農家、麦を持つパン職人。その眼差しはどれもまっすぐに澄んでいて、この土地に住む“戦士”のように見えた。現代作家やミュージシャン、地元の合唱団に小学校の校長先生まで、撮影をしていくうちにだんだんと三浦の「顔」が見えてきた。

  

人口が減っていく「消滅可能性都市」とはほど遠く感じられる、人間の強さや生きるエネルギーに満ちた人たちの顔が、撮影をするたびに増えていく。「町は人でできている」ことを、写真を通して体現できるかもしれない。撮影のたびに有高さんと杯を交わしては、三浦の人々の顔を思い浮かべて、くしゃくしゃになって笑い合った。

  

アタシ社から刊行した写真集「南端」が発売されて1カ月が経った。発行にともない開催した写真展「南端」にはのべ1000人以上の方が来てくださって、地元の方々も数多くいらしてくれた。在廊中、よく耳にしたのは「知っている人ばっかり! これが三浦の顔だねえ」という声だった。被写体になっている人たちは三浦のローカルヒーローばかりだから、写真を見ている人たちもどこか誇らしげな顔をしている。

  

「どこそこの息子だね、この人は今元気かしら、この人には世話になった」

そんな声を聞くたびに、少し大げさかもしれないが、町がひとつになった気がした。

有高さんは今も逗子市民だが、こうやって写真撮影を通して三浦に関わりを持ち、今では数多くの知り合いができている。写真を撮り始めた頃は、どこか地元の人からも敬遠されていたと話すが、一緒に仕事をして、杯を交わす回数が増えてくると心が通じ合ってくる。

  

人間関係というのは「時間軸(期間)×密度(頻度)×深さ(深度)」で成り立っているとつくづく思う。SNSなど顔の見えない付き合いやコミュニケーションが増えていく一方で、面と向かって話し、五感をフルに使うコミュニケーションも最近は増えてきたように思う。

というより、やっぱり対話(ダイアローグ)しないとわからない部分が多すぎるのだ。言葉だけでは感じられない「なにか」をぼくたちは日々感じているはずで、ポートレート写真を撮るという行為は、まさに撮る人と撮られる人との人間関係の象徴みたいなもの。その関係性が垣間見えた瞬間を切り取っている。有高さんは写真を通して町の人と深いコミュニケーションを取っていたのだ。

  

アタシ社より刊行された写真集「南端」

写真集「南端」
(アタシ社)

筆者プロフィール

ミネシンゴ

ミネシンゴ

夫婦出版社アタシ社代表 編集者
1984年生まれ、神奈川県出身。
美容師、美容雑誌編集者、リクルートにて美容事業の企画営業を経験後、独立。
「美容文藝誌 髪とアタシ」、渋谷発のメンズヘアカルチャーマガジン「S.B.Y」編集長。
渋谷のラジオ「渋谷の美容師」MC。web、紙メディアの編集をはじめ、ローカルメディアの制作、イベント企画など幅広く活動中。
8年住んだ逗子から、三浦半島最南端の三崎に引っ越しました。
アタシ社の蔵書室「本と屯」を三崎の商店街で12月にオープンさせた。
・Twitter
https://twitter.com/mineshingo
・アタシ社
http://www.atashisya.com/

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