大御所シェフのいつものごはん

ブランド感の高い素材が驚きの価格 仏料理の大御所が感嘆した目黒のビストロ

  • 文・畑中三応子、撮影・森カズシゲ
  • 2018年6月14日

  

「世界一グルメな国」とも呼ばれるようになった日本。このまれにみる豊かな外食文化を支えてきたベテラン料理人は普段、どんなお店でどんな食事を楽しんでいるのだろうか。卓越した技術・味覚・知識を持つプロフェッショナルが「日常食」を紹介する。

今回の大御所シェフ

山岡昌治さん

山岡昌治さん
今年で創業25周年を迎えたフレンチレストラン、「マッシュルーム」のオーナーシェフ。23歳で料理の世界に入り、27歳で渡仏。「トゥール・ダルジャン」など多くの名店で約5年修業。「キノコ博士」と呼ばれるほどその知識に精通し、1年を通してそれぞれの季節が旬の野生種、希少価値の高い栽培種を活用している。フレンチの枠を超え、全国からキノコ好きが集まる店としても有名。

山岡シェフがオススメ「立飲ビストロシン」

キノコ狩りが盛んなフランスで、野生キノコの魅力にめざめた山岡さんは、1993年に開いたレストランを、きっぱり「マッシュルーム」と名づけた。休日は山野を巡ってみずから採集する、料理界きってのキノコの使い手だ。

さらに生物学的知識はキノコにとどまらず、各地からすぐれた素材を探し求め、大胆かつ細密に使いこなし、独創的なフランス料理を展開している。

そんな山岡さんが、「よく、これだけの素材をそろえたものだ」と感嘆の声を惜しまないのが、目黒の「立飲ビストロシン」。しっかりしたビストロ料理と、リーズナブルでおいしいワインを気軽に楽しめる、立ち飲みフレンチの先駆けだ。

目黒のランドマークタワー「目黒セントラルスクエア」に構える「立飲ビストロシン サンテ」

現在、「立飲ビストロシン」が出している料理の数は、なんと180種類以上。値段はほとんどが1000円以下で、いちばん高い料理でも2000円には届かない。

今回うかがった3号店の「サンテ」はテーブル席もあるが、1号店と2号店は山岡さんいわく「太っている人はトイレに行くのも大変」なウナギの寝床風の居酒屋空間で、厨房(ちゅうぼう)も狭い。にもかかわらず、この料理数。扱う素材も、半端なく多い。

値段をおさえる必要のあるビストロ料理は、安い素材を使って上手に工夫し、手をかけて格上の味に仕立てるのが一般的な手法。ところがここは、メニュー名を見たらすぐ分かるように、まず「素材ありき」。ブランド感の高い素材がガンガン使われているのだ。

レバーのカルパッチョと胸肉タタキの「合い盛り」

たとえば、山岡さんがよく頼む鶏のレバーのカルパッチョと胸肉タタキの「合い盛り」には、朝さばきたての新鮮なレバーと、鳥取県産の銘柄鶏である大山鶏を使い、調味はオイルと塩味だけと超シンプル。まさに素材のおいしさなくしては存立しない。

目を疑った! 1000円台でシャロレー牛

「立飲ビストロシン」オーナーの高野信也さん

オーナーシェフの高野信也さんが考える、「立飲ビストロシン」の信条はこうだ。

・本物の素材を出す。二流のものは使わない。
・一流の素材を、シンプルに味わえる料理を作る。
・しっかりした量と、ちゃんとした味を、安く提供する。

その信条が端的に現れているのが、「シャロレー牛ハラミソテー」である。

野性味を感じさせる赤身肉。これぞフランスのステーキ

シャロレー種はフランス最古の肉牛で、日本でいえば松阪牛や近江牛にあたる格式あるブランド牛だ。日本への輸入が解禁されたのは最近で、出している店はまだ少ない。

以前はフランス料理好きにとって憧れの的だったシャロレー牛が、しかも180グラムもの量を盛りつけて、1250円。メニューを見て思わず目を疑った。

「ちょっと安く値付けしすぎたけど、いまさら値上げできないし」と、笑う高野さん。

しかし、メニューを見回すと、フランス産ウズラのロースト、エゾ鹿のハンバーグとパイ包み焼き、マグレ鴨(かも)胸肉のロースト、山ゆり豚のガーリックソテーと、名だたる銘柄肉の料理がすべて950円なのである。高野さんの本気度が伝わってきた。

店内には所狭しと掲げられているメニュー。全て高野オーナーの奥さんによる手書き

シャロレー牛の味わいはというと、伝統的に霜降りを好み、やわらかさと脂肪の甘味が尊重される和牛とは対極といってよい。ハラミとはいえ、脂肪はきわめて少なく、筋肉質な赤身なので、食感が素晴らしい。

ガシッとしたかみ応えがあり、かんでいると肉汁がじわじわとにじみ出し、肉の風味が凝縮していて香りも高い。いまリーズナブルなステーキ専門店では、アメリカンビーフとオージービーフが主力商品だが、それらともまた異なるおいしさだ。

食料自給率(カロリーベース)が40%を割る日本に対し、フランスは127%を誇る食料品輸出国。シャロレー牛の貫禄のある味からは、農業国フランスの実力を感じる。いま、赤身肉や熟成肉にはまっているなら、ぜひ一度お試しを。新しい味覚の体験になるだろう。

自由な発想のなかに、フランス料理がしっかり入っている

青カビとキノコ、菌類同士で相性抜群のゴルゴンゾーラ・マッシュルーム750円

山岡さんが素材のほかに「立飲ビストロシン」を評価するもうひとつの理由は、「自由な発想のなかに、フランス料理がしっかり入っていて、ちゃんと真面目に仕事しているところ」。

聞けば、高野さんのスタートは、辻調理師専門学校のフランス校。フレンチを志す者にとってのエリートコースである。その後、イタリアン、日本料理、外食企業の商品開発とキャリアを積んだが、やっぱりいちばん好きなのは、フランス料理なのだという。

だから、フランス料理をもっと気軽に食べてほしいという思いが、高野さんの原点。

独立前は、安くておいしい日本各地のビストロをひたすら食べ歩いた。そうして学んだビストロ料理の魅力である庶民性をもっとも生かし、同時に日本でビストロを営むことの弱点を克服すべく編み出したのが、立ち飲みという新しいスタイルだったのだろう。

メニューにはパスタやご飯ものも豊富だし、和食やアジア料理のカラーが強いものも多い。また、つい肉料理に目が行きがちだが、春は山菜、初夏はアスパラガスといったように、高野さんの故郷である新潟・魚沼地方から産直で届く野菜の料理の豊富さもたいしたものだ。

みずみずしく、箸休めにも最高なクレソンとマッシュルームのサラダ550円

山岡さんへのリスペクトを込め、高野さんがメニューから選んだ「マッシュルーム&クレソン」は、生食できるマッシュルームの品質のよさはもちろん、クレソンのみずみずしい味と、清らかな香りを再認識させてくれるサラダだ。

赤・白・スパークリング合わせて30種以上が並ぶグラスワインの黒板メニュー

ワイン通が「おっ」と思うような銘柄もさりげなく用意している

それにしても、180品という料理数はすごい。もしかしたら、日本最多メニューのビストロかもしれない。「安いしメニュー名もおもしろいから、あれもこれもと思うけれど、1品のボリュームがあるので、そうそうは食べられない」と山岡さん。

ワインの数も輪をかけてすごい。グラスワインだけでも30種類前後、ボトルワインとなると300~400種類。山岡さんによると、「安くても、ちゃんとおいしいワインを厳選しているうえ、ワインに詳しい人が喜ぶレベルの銘柄もそろえている。逆にワインを知らない人でも恥をかくことなく、適当に注文すればぴったりのワインを選んでくれる」。

一流の素材とワインを居酒屋気分で。山岡さんの「マッシュルーム」がキノコという親しみやすい素材を入口に、フランスの料理文化を伝えてきたのと同じように、フランス料理の間口を広げているのが「立飲ビストロシン」なのである。

   ◇  ◇  ◇

■店舗情報
立飲ビストロシン サンテ
http://www.bistro-shin.net
東京都品川区上大崎3-1-1 目黒セントラルスクエア1階
JR「目黒」駅 徒歩1分
03-6450-4295
営業時間:
[平日]12:00~14:30(LO 13:30)/17:00~23:30(LO 23:00)
[土曜]12:00~14:30(LO 13:30)/17:00~23:00(LO 22:30)
定休日:日曜・祝日、他に不定休あり
(*休日の翌日はランチ休業)

■大御所シェフの店
恵比寿マッシュルーム(MUSHROOM)
https://www.mush.jp/
東京都渋谷区恵比寿西1-16-3 ゼネラルビル恵比寿西 中2F
JR、日比谷線「恵比寿」駅 徒歩3-4分、東急東横線「代官山」駅 徒歩6分
03-5489-1346
営業時間:12:00-15:30(LO 14:00)/18:30-23:30(LO 21:00)
定休日:月曜日 他に不定休あり

□PROFILE
畑中三応子(はたなか・みおこ)
編集者、ライター、フードジャーナリスト。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけるかたわら、流行食関連の研究や執筆も行う。著書に『ファッションフード、あります。――はやりの食べ物クロニクル 1970-2010』(紀伊國屋書店)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』(春秋社)など。

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