ノジュール

<第60回>半世紀を超えて今なお情熱を傾け続ける男の「庭」とは

  • 2018年6月20日

「陽殖園」に咲くあじさいの花

フランス南部、オートリーヴに「シュヴァルの理想宮」というたいへん個性的な建築物があります。地元の郵便配達夫だったフェルディナン・シュヴァルが19世紀から20世紀にかけて、たったひとりで石を積み上げ、およそ33年の長い月日をかけて完成させた、まさに「宮殿」。それは後に著名な芸術家をはじめとする多くの人たちに賞賛されるものとなって、現在も多くの観光客を集めています。

建築物と庭園の違いはあるものの、今回ご紹介したい北海道滝上町にある「陽殖園」も、ひとりの情熱家の思いが見事に結実し、今ではたくさんの人の心を震わせる“作品”になっているという点で同じと言えるでしょう。JR旭川駅から北東に車で約2時間のところにある静かな町、滝上町。昭和16年、この地に高橋武市さんは農家の長男として生まれました。開拓民として入植した高橋家の暮らしは貧しく、武市さんが小学校4年生のときには、家計を助けるための行商に出ていたといいます。そして、そのことが後の花の楽園につながっていきます。

「陽殖園」を作り上げた高橋武市さん

当時は、朝2時に起床し5時に野菜を売りに出てから学校へ通う毎日。懸命に働く武市少年に希望をもたらしたのが一枝の花でした。父親が育てていたツツジが大株に育って花をつけたある日、そのうちの3本を取って野菜と一緒に売りに出ました。すると、それは野菜より高く売れたといいます。「花って軽いのに高く売れるんだな」と驚いた武市少年は、そのとき花を一生の仕事にすることを決意しました。中学を卒業した頃、ひとつの松の苗をもらったのをきっかけに、山にさまざまな植物を植えはじめ、それが現在の陽殖園の始まりとなりました。

色とりどりの花を見ることが出来る

「形にするまで50年はかかった」と語る武市さんが、こつこつと丹精を込めてつくり上げた花の庭は、今ではおよそ800種の植物で賑わっています。あくまでも自然の力に任せているために、花の見頃を案内するのは難しく、それだけに、いつも違った美しさを見せてくれる山を訪ねて、リピーターが後を絶ちません。ときに野生の動物も顔を出すこの山で、「花は生きる喜び」と話す武市さん。生きものたちと暮らすこの場所は、花の楽園として訪れる人たちに幸せを与えてくれています。

北海道の観光シーズンはこれからが本番。その旅のプランのひとコマに加えてみてはいかがでしょうか。

花や草木を楽しみながら散策してみては

ノジュール6月号では、巻頭で「一度は見たい! 列島・花景色」の大特集を展開しています。アジサイ、バラ、ユリやヒマワリなど、色鮮やかに咲き誇る花の姿を堪能できるモデルプランも充実の特集です。その他にも、美味で巡る北海道の旅のご提案や、話題のロシアの特集など、バラエティ豊かに旅の情報をお伝えします。


■ノジュール:鉱物学の専門用語で硬くて丸い石球(団塊)のこと。球の中心にアンモナイトや三葉虫の化石などの“宝物”が入っていることがある。

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