私の一枚

“ジーナさん”は現実にいた。手嶌葵さんが憧れる、加藤登紀子さんのカッコ良さ

  • 2018年6月25日

かつて多くの芸術家や名優が集ったパリの「カフェ・ド・フロール」にて

2016年にパリへ行った時に、有名な「カフェ・ド・フロール」で撮った写真です。2階の席に通されたのですが、帰り際、ちょうどお客さんがさっと引いたので、「今だ!」とテラス席で撮りました。私、思いっきり笑うと目がなくなってしまうのですが、これも目がないですね(笑)。めちゃめちゃ楽しんでいる1枚です。

旅の目的は、加藤登紀子さんのコンサート。この年は「明日への手紙」という曲がドラマの主題歌に決まり、年明けから忙しくさせていただいていました。デビューしてからずっと福岡と東京を往復しながら仕事をしてきましたが、その頃はずっと東京で缶詰めの状況が続いていて、どこかへ旅に出て気分転換したいな、例えばパリとか……と思っていました。

この年はデビュー10周年でもあり、アルバムを作るにあたって、記念に大好きな登紀子さんに曲を提供していただこうという話になり、お会いしていろいろとお話をさせていただきました。その時、「今度パリでコンサートをするのよ」と教えてくださって。「これはもうご縁だ」と思い、事務所の社長にお願いして、パリに向かいました。

初めて登紀子さんを知ったのは、ジブリ映画の『紅の豚』。歌声はもちろん、ジーナさんという登場人物を演じていらしたその声が大好きになって、子供心に「素敵(すてき)すぎる。かっこいい」って思っていました。

ジブリ好きの友達はたくさんいましたけど、正直「そこ?」って言われることも。同級生が好きなのは、キキちゃんだったりナウシカだったり。もちろん、キキもナウシカも大好きですけど、私の中では一番はジーナさん。小さい頃に母が、フレッド・アステアの『トップ・ハット』とか、オードリー・ヘプバーンの『昼下りの情事』とか『ローマの休日』とか、昔のモノクロ映画をたくさん見せてくれていて、その中に出てくるちょっと艶(つや)っぽい女性に憧れがありました。

ただ、現実の世界にそんな人はいないよなって思っていました。そんな時にジーナさん、登紀子さんが現れて、「この人だ!」って。ジーナさんが本当にこの世に出てきたんじゃないかって思うほど素敵です。

最初にお会いしたのはデビュー直後。テレビ番組だったと思うのですが、「さくらんぼの実る頃」を一緒に歌わせていただきました。私は緊張しすぎて、その時のことをあまり覚えていません。でも、リハーサルで間違えてしまったり、歌うタイミングが遅れてしまったりしても、「大丈夫よ」って言ってくださって、かっこ良さだけではなく、優しい方だなって思ったことは、よく覚えています。

「テルーの唄」でデビューして12年。透明感ある歌声で聴く人を魅了し続ける手嶌葵さん

歌いかたのせいか、私が華奢(きゃしゃ)で背の小さな女の子だと思っているファンの方が多いみたいで、コンサートの後に握手会などをさせていただくと「意外と大きいのね!」ってみなさんおっしゃいます。

それもあってか、登紀子さんは「葵ちゃんには大人の女性の歌を作ってあげたい」と言ってくださいました。私も、登紀子さんには、ちょっと背伸びをした大人の女性の歌をお願いしたいと思っていました。出来上がったものは、ほんとうに希望にピッタリで、そして、ジーナさんの節で書いてくださったので、うれしくてうれしくて。

結局、1曲の予定だったのに2曲ご提供いただき、『青い図書室』というアルバムに収録させていただきました。そのうちの1曲「想秋ノート」には<女>という歌詞が出てきますが、そういう歌詞もそれまでの私のレパートリーにはなかったので、「葵ちゃんに<女>って言わせていいのかしら」っておっしゃっていましたけど、「歌いたいです!」って即答しました。

私は、この2曲に、いい意味で“昭和の歌”のイメージを持っています。それまでもCMで昭和の歌を歌わせていただくこともありましたが、体の中からぐっと持ち上がってくるような熱いものが昭和の歌にはあると思っていたので、そういう歌が私のオリジナル曲にもできたことがうれしかったです。

それまでは、懸命に、情熱的に歌うのはガラじゃないなと思っていたのですが、思い切り気持ちを込めてもいいんだなと思えるようになりました。

登紀子さんはフランス語で歌うシャンソンも素晴らしいですし、パリのステージでもフランス語でおしゃべりをされていました。才女ですし、行動力もすごい。昭和の時代に戦いながら歌ってきた、本当にスマートでかっこいい方です。私はぼんやりしているので、登紀子さんを見ていると恥ずかしくなります。

でも、この写真のフランスの旅では、やっぱり私も少しは登紀子さんのようにフランス語で歌ったり、話したりしたくて、いくつか言葉を覚えて、カフェ・ド・フロールでも店員さんに話しかけました。そうしたら意外と通じて、うれしかったな。いつになることやら、という感じではありますけど、いつかは全編フランス語のアルバムも、頑張って作ってみたいですね。

なかなか自分を変えることは簡単ではないですが、登紀子さんに少しでも近づこうと考えるうちに、思ったことをなるべくすぐ行動に移すようになれたと思います。どちらかというと「後でもいいかな」って思うほうだったので、そこは変われたかな。

    ◇

てしま・あおい 1987年、福岡県生まれ。ベット・ミドラーの「The Rose」を歌ったデモCDがスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーと宮崎吾朗監督に認められ、2006年公開の映画『ゲド戦記』の挿入歌「テルーの唄」および映画のヒロイン・テルー役の声優としてデビュー。2011年にもスタジオジブリ制作の映画『コクリコ坂から』の主題歌「さよならの夏~コクリコ坂から~」を歌う。最新CDは、テレビ東京系『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のエンディングテーマ曲「東京」を含む7曲入りEP『東京』。8月には、東京・有楽町に新たにオープンするヒューリックホール東京で「手嶌葵 Concert 2018~Quintet~」を行う。

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手嶌葵 Concert 2018~Quintet~
日時:8月26日(日)17:00開演
会場:ヒューリックホール東京
料金:6,800円(全席指定・税込み)
※ドリンク代別途、未就学児童入場不可
発売日:6月30日(土)10:00~
問い合わせ:SOGO TOKYO 03-3405-9999
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「手嶌葵 Concert 2018~Quintet~」は8月26日(日)、東京・有楽町 ヒューリックホール東京にて開催

8月のコンサートは、バイオリン、ギター、ピアノ、パーカッションの方と一緒にお送りします。私のコンサートとしては大きな編成なので楽しみです。これまで人前で歌うことがそれほど多くはなかったのですが、最近はツアーをさせていただいたりして少しずつ慣れてきました。昔は自分に合った歌いかたもできなくて、のどを壊しがちだったのですが、最近では自分の感覚や体調を冷静に見られるようになって、今の声が私の本当の声なのかなと感じています。

(聞き手・髙橋晃浩)

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