ありのままの20代

「あなたにとって20代はどんな10年?」 唯一答えられることは……

  • 文・白岩玄
  • 2018年6月29日

元画像:courtneyk / Getty Images

前回の羽田くんの回で連載としては終わりなのだけど、最後にちょっとしたあとがきのようなものを書きたいと思う。簡単な総括だと捉えてもらえればいい。

連載の中で散々過去を振り返っておいてなんだが、「あなたにとって20代はどんな10年でしたか?」と訊かれると、ぼくにはパッと答えられない。10年という長い年月を簡潔な言葉でまとめるのは難しいし、たとえそれをやったところで、こぼれてしまうものが多いというか、なんだか嘘になってしまうような気がする。ただ、それでも唯一「これだけは言えるな」と思うのは、20代のうちに得たもので、今の自分の暮らしが出来上がっているということだ。

まず私生活では、やはり妻の存在が大きい。結婚2年目になる妻とは、26歳のときに出会った。一度別れて30歳を越えてからよりを戻したのは、20代での2年間の付き合いがあったからだ。そのときに積み上げたお互いの人間性に対する信頼がなければ、ぼくらはおそらくやり直そうとは思わなかっただろう。

そして、やり直す際にも、時間をかけてあれこれ話し合ったおかげで、ぼくらは大抵のことを相談し合える夫婦として、ときおりケンカをしながらも、それなりに仲良くやっている。第8回で書いたように、20代を共に過ごした親友とはもうたまにしか会わなくなったが、今では妻が一番の親友になったと言えるかもしれない。

28歳のときに知り合った年下の子たちとの交流も未だに続いている。つい先日は、そのうちの一人が1歳の息子に会いに新居に遊びに来てくれた。

家族とその子ですきやきを食べに行き、その日はうちに泊まってもらって、翌日は半日二人で遊んだ。彼も新天地で仕事を頑張っているようだったから、もう昔のようには頻繁に会うこともなくなるだろうが、一緒にいるときの空気は全然変わっていなかったので、たぶん今後も付き合いは続いていくだろう。それに、もし疎遠になったとしても、ぼくは彼を応援したい気持ちはなくならないと思う。

それから仕事にかんしても、今関わっている人たちは、ぼくが20歳のときに小説を書かなければ出会えなかった人たちだ。同業者はもちろんのこと、デビュー当時からお世話になっている編集者などは、仕事のことのみならず、プライベートなことまでざっくばらんに話せるので、小説を書く上でもやりやすいし、本当に信頼しかない。

そして、仕事そのものも、20代の早い段階で就くことができたこの作家の仕事を、なんとか今も続けている。ぼくは決して多作な作家ではないけれど、これまで世に出してきたものについては納得しているし、思い入れのあるものばかりだ。見返すとどうしても若さゆえの青さと粗ばかりが目につくが、そのときそのときでベストを尽くしたのだから後悔はない。

それに、こういうことを言うと気持ち悪がられるかもしれないけれど、作品の登場人物たちは今でも特別な友達のように感じている。彼らはぼくの言語化できない大事な何かを託された存在であり、たとえその小説を書き終えてから何年経っていたとしても、どこかで生きているような気がしている(というか、そのくらいのつもりで書かないとキャラクターが死んでしまうのだ)。

友達が多い方ではない自分が、その割に他人とたくさんのものを交換してきたように感じるのは、彼らとの対話の時間があったからなのかもしれない。

あと6年で亡き父の年齢へ

そんなわけで、ぼくの私生活や仕事や精神性みたいなものは、見事なまでに20代で得たものによって成り立っている。出会うべきものには出会ったと思うし、あとはそれをどれだけ大事にして、壊さないようにうまく付き合っていけるかなのだろう。

今、ぼくは、20代で得たものを土台にして30代を生きている。今年で35歳になるのだが、30代の10年は、やはり妻や子どもとの関わりが大半を占めることになりそうだ。現にここ一年は、仕事をしながら育児に追われる毎日で、今後も夫や父として直面する様々な問題に悩んだりするに違いない。

それから、これは家庭とは関係ないけれど、40歳までの道のりは、ぼくにとって幼くして亡くした父との年齢差が徐々に埋まっていく10年でもある。前はそんなことを気にもしなかったのだが、自分が子どもを持ってみて、急にそこに目が向くようになってしまった。

41歳で他界した父と同い歳になるまで、あと6年だ。ずっと仰ぎ見ていた父の横に並び立ったとき、自分がどんなことを感じるのか、父の気持ちを少しは理解することができるのか、ぼくはそれが楽しみではある。

Nadezhda1906 / Getty Images

冒頭で、簡潔な言葉にはできないと書いたが、そう考えると、ぼくの20代は、なんだかんだ他人とは深くつながっていなかった「一人で生きていた時代」と言えるかもしれない。だけど、そういう時期があったから、今30代になって周りの人とのつながりを強く実感しているのだと思う。

余談だが、この連載の企画と担当をしてくれた編集者は、ぼくが20代半ばにツイッターを通して知り合った人だった。何度か食事に行き、少しずつ親交を深め、彼がこの朝日新聞デジタル「&M」の編集者になったことで、初めて一緒に仕事をしたのだ。

あのとき、どこに行き着くともわからなかった関係を大事にしなければ、今回の連載が生まれることもなかっただろう。人生はどこで実を結ぶ種を拾うかわからないものだ。

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PROFILE

白岩 玄(しらいわ・げん)

1983年生まれ。京都市出身。2004年、小説『野ブタ。をプロデュース』で文藝賞を受賞し、小説家デビュー。同作は芥川賞候補作になり、テレビドラマ化。70万部のベストセラーになった。著書に『空に唄う』『愛について』『未婚30』『ヒーロー!』など。Twitter(@gegenno_gen)

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