インタビュー

佐藤可士和さんの哲学とブランド構築論 変化の時代に新しい価値を生み出す方法

  • シリーズ『価値を創る』
  • 2018年6月29日

  

「これから生まれてくる子たちは、基本ネットしか見ないでしょう。彼らは『朝日新聞デジタル』の記事を見ながら、『そもそも“新聞”って何?』と思うかもしれませんね」

さりげない指摘に、ハッとさせられた。インタビューが終わり、帰り際の立ち話。緊張も解けていたところへ、佐藤可士和さんが投げかけてきたのは、取材のテーマにからめた新聞社への提言だった。

「これからの時代も質の高い情報に対する世の中のニーズが失われることはないでしょう。ただし、その価値を示す方法は、“新聞“という形態ではなくなっていくのでは?」

自社の未来を予言されたようで、筆者の気持ちは一気に引き締まった。

変化の激しい時代における価値の創造―――。

それが、今回のインタビューテーマ。スマートフォンやSNSの普及以降、消費者のライフスタイルは大きく変わり、世の中で求められる「価値」も変化している。

しかし、クリエーティブスタジオSAMURAIを率いる佐藤さんは、企業や自治体、各種サービスなどのブランディングを引き受け、いずれもその価値を向上させ続けている。

この混沌(こんとん)とした世の中で、なぜブランドを成長させることができるのか。

佐藤さんがこだわり続けているのは、「哲学と価値の届け方」だった。

佐藤可士和(さとう・かしわ)
1965年、東京都生まれ。博報堂を経て、2000年にクリエーティブスタジオSAMURAIを設立。クリエーティブ・ディレクター、アートディレクターとして数々のブランディングを手がける。主な実績として、国立新美術館、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルのロゴデザインやブランドクリエイティブディレクションのほか、有田焼創業400年事業「ARITA 400project」における作品制作、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。慶応義塾大学特別招聘教授、2016年度文化庁・文化交流使に就任。

ネット普及によって情報の価値が変わった

――佐藤さんは90年代からこれまで、時代に応じたクリエーションを提示されています。クリエーティブ・ディレクターとして、いまの時代をどう捉えているのか教えてください。

佐藤可士和(以下、佐藤) ひと言で答えることは難しいテーマですが、あえて特徴を挙げるとすれば、「個人による発信力の獲得」ですね。90年代まではマスメディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など)の時代でしたが、インターネットの登場以降は、ブログやSNSの普及によって個人が発信力を獲得し、さらに情報がネット上にアーカイブされ、いつでも接触が可能になりました。この環境の変化によって、情報の価値がガラッと変わってしまいました。

  

――価値はどう変化したのでしょうか。

佐藤 わかりやすく「一点物」を例に説明します。実はマスメディアの時代において、「一点物」はブランディングの戦略上価値の高い情報と見なされませんでした。なぜなら、モノがひとつしかなければ、それに触れられる人には限りがあるし、モノが売れたらそれで終わりです。

「ブランディング」とは社会における存在感を戦略的に高めることです。個人の体験が容易にシェアできなかった時代は、一点物は世間への情報拡散があまり期待できず、ブランド構築への貢献度が低かったのです。

しかし、今は個人が発信力を持ち、常に情報がつながっている時代です。興味を引くストーリーがあれば、未体験のことであっても、消費者はその情報を積極的にシェアしていく。だから、一点物が売れてしまっても、大量の情報はネット上に残り、そのうねりがブランドの醸成へとつながっていきます。

人工知能(AI)の進化の影響もあるかもしれませんが、今や「人にしか作れない」「この場所でしか出来ない」といった、複製や再現の難しいものほど、情報としての価値が高くなり、国内にとどまらず、海外まで広がるようになったと思います。

――時代に応じて情報の価値が変化するのであれば、例えば今と10年前ではブランディングの方法は異なるのでしょうか。

佐藤 当然変わります。最近の取り組みを例に挙げると、私が2016年にゲストクリエーターとして参加した「ARITA 400project」(創業400周年を迎えた有田焼を世界に向けて発信するプロジェクト)では、様々な窯元とコラボレーションをしてオリジナルの有田焼を十数点制作し、「メゾン・エ・オブジェ」(パリで開催される欧州最大級の国際見本市)で披露しました。ここ数年の情報をめぐる環境の変化から、「メゾン・エ・オブジェで一点物の有田焼を発表する」というアプローチは大きな話題になると思ったからです。

もしこの話を10年前にいただいていたら、限定品ではなく、より多くの人が見られるように量産できるものを作っていたと思います。そうしないと、きっと世界には広まらなかったでしょうから。

さまざまな窯元とコラボレーションして作った有田焼の限定品。スプラッシュペインティングが施されている(画像提供:SAMURAI)

――昔から消費者の口コミは存在していました。それと昨今の「拡散」とは何が違うのでしょうか。

佐藤 かつての口コミはよほどのムーブメントにならない限り、ブームが可視化されませんでした。街中が同じ髪形にしているとか、そのレベルになって初めて世間への浸透を実感できたわけです。

けれども今の時代は、テクノロジーの進化によって「消費者の関心」が比較的容易に視覚化されるようになった。それがブランディングというジャンルにも大きな影響を及ぼすようになった感があります。

――佐藤さんのデザインフィロソフィー「ICONIC BRANDING」(*)も、ビジュアル化が社会に与えるインパクトの大きさを踏まえての戦略でしょうか。

*ICONIC BRANDING(アイコニック・ブランディング)
企業や商品などが持つ強固なアイデンティティーを、効率的に社会に浸透させる手段として、ブランドの本質的価値をアイコン化し、消費者の記憶に植え付ける佐藤可士和のクリエイティブフィロソフィー。アイコン化する対象として次の6つの領域をあげる。

(1)ロゴ(2)プロダクト(3)空間(4)建築(5)街の風景(6)方法論

佐藤 いや、「ICONIC BRANDING」はもともとSNS時代を前提として作った手法ではありません。ただ、情報があふれ、その識別が難しくなった現代においても、最も効率よく、かつスピーディーに本質的価値を届けるためにはアイコン化が最適だと考えています。これは特に難しい話ではなくて、一般用語でいうと要は「インスタ映え」です。Instagramで映えるということは、被写体がアイコニックということ。これを作り手側の言葉にしたのが「ICONIC BRANDING」です。

佐藤さんが手がけた代表的なロゴデザイン(画像作成:朝日新聞社)

――ブランディングにあたってクリエーティブ・ディレクターがフィロソフィーを持つことは重要なのでしょうか。

佐藤 重要です。というか、プロならスキルはあって当然で、違いはフィロソフィーしかない。クリエーティブの力を何に使い、どのような形で社会に貢献しようとしているのか。そのスタンスや視点がブランディングに直接的に反映されます。

当然、クライアント側にも強固なフィロソフィーがないとブランドの価値は高まりません。僕の取り組みは、時代に合わなくなったクライアントのフィロソフィーの見え方を、本質を変えずに表現や届け方をリニューアルし、世間に浸透させること。そのために、スローガンを変えたり、社名を変更したり、新しくロゴをデザインしたりしているのです。

本質的な価値の訴求は年単位の時間がかかる

――佐藤さんはかねて「良いモノを作れば売れる時代は終わった。届け方を考えなくてはいけない」と指摘されています。情報を届ける上で気を付けていることはありますか?

佐藤 絶対に物事の本質を外さないことです。ブランディングというのは、「認知」「理解」「好感」の3段階で進んでいきます。この最初のステップである「認知」がなかなか難しい。時に目立つことが最優先になっているケースを見かけますが、これは正直よろしくない。本質から外れる形で認知されても、次のステップに進めず、後々困るだけ。それよりは、多少地味であっても、本質的価値を伝える努力を我慢強く続けるべきだと思います。

  

――本質の訴求より目立つことを優先してしまうのは、短期的な成果を求める弊害かもしれません。

佐藤 仕事の性質にもよりますが、僕の場合、ブランディングはだいたいひとつあたり3年くらいはかけます。最初の1年は、コンセプト、理念、VI(ビジュアルアイデンティティー)の作り直しから始めて、商標登録、アイテム開発、出店準備……などなど、スタート準備に費やします。次の1年でようやく世間にモノが披露できる状態になり、そこで一定の評価が得られたら、3年目でブランド認知のために新たな展開を仕掛けていく。

今治タオルのプロジェクトなんてスタートから今日まで10年近くかけています。瞬間的に認知度を高めるだけなら、旬のタレントを呼んできて、ブランド力が高まったかのように見せることも可能ですが、そんな借り物の成果は、一瞬で消え去ってしまいます。やはり時間をかけて、自分たちの存在意義やアイデンティティーをしっかり固めて、それを時代に合った形で届けていく。そこに尽きます。

2006年から現在まで手がけている今治タオルブランドのブランディング・プロジェクト。キーコンテンツは「白いタオル」

今治タオルブランドのオリジナルマーク&ロゴ(画像左)。ロゴデザインは店舗にも用いられている

――今は変化の時代と言われています。3年の時間を費やす間に価値観の変化が起きてしまう恐れもあるのでは?

佐藤 そこは変わるところと変わらないことがあります。例えば「安くて良いものが欲しい」「正確な情報に触れたい」といったことは人間の根本的な欲求と言ってもいい。おそらく5年後も10年後も変わらないでしょう。ブランディングの最初の3年は、大多数の人が求める普遍的な価値を築くための土台作りの期間。そこで築いた価値は、時代の流れに左右されるものではありません。

一方で、情報の受け取り方は時代の流れとともにどんどん変わっていきます。先ほどの「一点物」に対する評価の変化がまさにそれ。有田焼自体の本質的な価値は変わりませんが、今の時代は「一点物」という付加価値を乗せることで、より強固なブランドになっていく。もはやブランドとはあらゆる価値の総合的な産物であり、本質価値、付加価値と分ける意味はなくなりつつあります。

――例えば“インフルエンサーマーケティング”なども付加価値を乗せる手段として有効とお考えですか?

佐藤 情報があふれている時代に、いわゆる“目利き”の判断に頼るのは自然なことだと思います。おそらく消費者も明確な判断基準を持てていないでしょうから。これは見方を変えれば、今、世に出回るプロダクトやサービスは、質の差が小さすぎて、消費者には違いがよく分からないということでもあると思います。

考えてもみてください。今どき飲食店でマズくて食べられないようなところなんてなかなかありませんよね? どこも味のクオリティーは一定程度に高い。ならば100軒食べ比べてお気に入りを見つけるか?……と言われたら、それはさすがに無理。じゃあ、実際に食べ歩いた人に聞きましょう、というのは自然な流れです。その役割を担っているのがインフルエンサーであり、彼らの評価は立派な付加価値です。

  

ただ、昨今、「インフルエンサーマーケティング」という手法がある種の“型”と見なされるようになりました。この型が消費されて古くなってしまった場合、本来「目利きのオススメ」という付加価値だったものが、一転して時代遅れのマーケティング戦略というマイナスイメージに転換してしまい、ブランドの魅力を損ねてしまうことにもつながります。

ブランドとは、どこまでいっても相対的なもの。常に相対的に価値のある情報を見極め、それを際立たせる戦略をとらないと今の消費者は振り向いてくれません。

その伝えていくべき価値はどんどん多様化しています。だからこそ、今の時代においてブランド構築に不可欠なのは、あらゆるプロフェッショナルが一緒になって総合的に価値を作り上げることです。まさに「共創」の時代なのです。

(文・&編集部 下元陽、撮影・野呂美帆)

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ

Pickup!