小川フミオのモーターカー

これぞスポーツカーの傑作 ポルシェ911ターボ

  • 世界の名車<第218回>
  • 2018年7月2日

米国とカナダをまたがって開催されていたCAN-AMレースなどで活躍した917/10などで蓄積したターボ技術を応用

ポルシェ911ターボはスポーツカーの傑作だ。この表現に対して“ちょっと待て!”と異を唱えるクルマ好きは、あまりいないのではないだろうか。

1973年にプロトタイプが発表されたとき、世界中のクルマ好きはびっくりした。当時は、まだターボチャージャーでパワーアップという概念はあまり知られていなかったからだ。

ベースになった911は最高出力150馬力だったが、ターボは260馬力もあった。大きく張り出したリアフェンダーと、テーブルのごとき巨大なリアスポイラーが強烈な印象を与えた。

いまもこのクルマ(の写真)を見ると、デカいエンジン音と、硬い乗り心地と、猛烈な加速を鮮烈に思い出す。僕は最初乗ったとき、そういうすべてに、驚かされたものだ。

張り出したフェンダーに大きなスポイラー……911ターボといえばこの角度がもっとも特徴をとらえている

ボディーの剛性感も高くて、走行距離がだいぶ延びていても、新車のようにビシッとしていた。「ターボ(911ターボをみんなこう呼んだ)は作りにもお金をかけている」とファンは言っていたが、納得できた。

マニュアルギアがずっと4段だったのも特徴だ。5段になるのはたしか1989年の最終型でようやく、である。ただし企業ポリシーというよりギアボックス開発コストの問題だったようではあるけれど。

70年代に最高速が時速250キロとうたわれていた

「私たちはレースをやっていたので、燃費と性能の面でメリットがあるターボチャージャーは未知の技術ではありませんでした」

1950年代から70年代初頭までポルシェの経営に携わっていた、創設者の息子フェリー・ポルシェの言葉が専門書に記録されている。

「戦争中、戦車のために設計した空冷ディーゼルエンジンでも、ターボチャージャーの経験を積んでいましたから」

連綿とつづく歴史が911ターボとして結晶化したのも、おもしろいではないか。自動車づくりは経験学といわれるゆえんである。

当初はカレラRSというスポーツモデルと共用の3リッター空冷水平対向6気筒エンジン搭載。77年に3.3リッターエンジンに変更され、最高出力も欧州では300馬力へと向上した。

76年には早くもタイヤサイズが大きくなりオーバーフェンダーも幅広に

後輪駆動だったので、巨大なパワーを受け止めるためリアタイヤは215/50VR15という、当時としては異例なほど幅広でかつ扁平(へんぺい)なものを装着。これがまた迫力を醸し出していた。

ヘッドランプがぽっこり出たユーモラスともいえるフロントマスクは、ベースになった911とほぼ共通で、あまりにパワフルで運転にてこずる面もある操縦性とのイメージの落差が大きかった。

そこがオモシロイところなのである。私見では、スタイリッシュなクルマではない。しかしこれほど魅力的なクルマはそうそうない。

ちょっとこむずかしいことを書かせていただくと、プロダクトデザインの二面性をポルシェは体現しているように思う。

大型リアスポイラーは、ターボチャージャーの効率をよくするため送りこむガスを冷やす役割があり、さらに高速でのリフトを70%抑制する

僕がデザインの傑作と呼びたいのは1979年に発表された「ポルシェ928」だ。プロポーションといい細部へのこだわりといい、他に類のないユニークさといい、見飽きない。

いっぽう911はどうだろう。70年代のモデルをみると4.29mの全長に対してホイールベースは2.27mしかない。

後輪の後ろにエンジンを積んでいるせいでリアオーバーハングが長いのだが、それが長すぎて側面からみると、ホント、へんなスタイルだ。

この基本型が、しかし、1963年から現在にいたるまでクルマ好きを魅了してきたのだ。僕もそのひとり。911(僕のは993型)を所有していたこともある。

要するに、911は眼ではなく、心で慈しむクルマなのだと、僕は言いたいのです。

エンジンが3.3リッターとなったモデルではスポイラーもさらに大型化した

911ターボはそんな“ハート直撃型ポルシェ”の最右翼。僕はこの原稿を書くために資料を見ていたら、欲しい、という気持ちがむくむくと湧いてきた。しかし中古車が高い……。人気はまだまだ衰えていないのだ。

(画像はいずれもポルシェ提供)

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PROFILE

小川フミオ(おがわ・ふみお)

写真

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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