マッキー牧元 うまいはエロい

<56>辛さに痛めつけられ、豆腐に癒やされる 感情をかき乱される極上のスンドゥブ(焼肉・韓国料理 韓灯)

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2018年7月3日

今回の主役「スンドゥブチゲ」(1300円)

  • 今回の主役「スンドゥブチゲ」(1300円)

  • 穏やかな甘みで口の中を癒やしてくれる豆腐

  • お薦めは具材をあらかた食べた後にご飯を入れる食べ方

  • 二日間煮込んだテールスープ(1300円)

目の前では、赤い汁が煮立っている。豆腐が白い角をのぞかせ、「早くつぶして」と、卵の黄身が手招きする。もう日本ではおなじみの韓国料理、「スンドゥブ」である。

まずはスープを一口すする。ハフハフと熱さを和らげながら、口へと流し込む。一口目に感じるのは甘さである。いやうまみと言っていいかもしれない。

あさりから出た滋味とタテギと呼ばれる自家製調味料が生み出すコクが、溶け合い、積み重なって、深くも優しい味わいを舌に広げる。

それは決して上っ面のうまみではない。味覚や嗅覚(きゅうかく)を、風味を感じ取る人間本来の感覚の根元をつかむ、うまみである。

そしてその後からゆっくりと辛みがやってくる。辛みは、食べ進むほどに積もっていく。ヒーヒーとなったあたりで豆腐を食べる。豆腐の穏やかな甘みが、口腔(こうくう)内の粘膜を優しくなで、辛みがやや沈静化する。この感じがいい。辛さで痛めつけられたところで、豆腐が癒やしてくれる。怒られながら褒められているような、殴られながら頰ずりされているような、アンビバレントな感情に、もだえてしまう。

それも、基本のうまみが丁寧に抽出されて、味の土台によどみがないからこそ、生まれる感情なのである。

あらかた食べ進んだら、ご飯の出番である。韓国の方は、人それぞれ様々なご飯とスンドゥブの食べ方があるようだが、私はこうである。

ご飯をスッカラ(スプーン)に乗せて、汁に沈め、米に汁を浸透させてから食べる。まだご飯の甘さが感じられる中での辛みの攻撃が、たまらない。これを数回繰り返し、汁がなくなってきたら、ご飯をぶち込む。そしてご飯の白さが消えるまで、混ぜる。

豆腐や米の存在、あさりのうまみ、タテギのコク、唐辛子の辛みの混然一体にコーフンする。あとは一気呵成(かせい)、一心不乱。米一粒、汁一滴無くなるまで突っ走れ。

焼肉・韓国料理 韓灯(ハンドゥン)

あまかざりそう

昔ながらの手間ひまかけた韓国家庭料理を出す貴重な店。私的には、日本一の韓国料理店だと思う。多くの韓国料理店は化学調味料と砂糖に頼ることは多いが、当店は一切使わない。スンドゥブに使うタテギは、黒毛和牛の特殊な部分の脂のみを使い、厳選した韓国唐辛子の粉と自家製ネギ油で、甘い香りとコクを引き出す。これによって辛くも優しく、深い味をした、他とは異なる、本来のスンドゥブが生まれる。
またコリコムタン(テールスープ)は、冷凍牛尾を強火で煮出し、白濁させる店が多い中、高級黒毛和牛の牛尾を使い、二日間かけて沸騰しないように煮込んだ透明なスープが逸品。

【店舗情報】
東京都中央区月島2-8-12 AS ONE月島B1
03-3536-6635
都営大江戸線、地下鉄有楽町線「月島」駅 徒歩1分
営業時間:17:30~23:30(料理L.O. 23:00 ドリンクL.O. 23:00)
定休日:月曜
ウェブサイト:https://handung.owst.jp/

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

写真

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

今、あなたにオススメ

Pickup!