ミレニアルズトーク Millennials Talk

哲学のないメディアに、私たちは踊らされない

  • 塩谷舞✕石井リナのミレニアルズトーク
  • 2018年7月9日

  

女性向けエンパワーメント動画メディア「BLAST」を運営するBLAST Inc.のCEOであり、SNSコンサルタントでもある石井リナが、ミレニアル世代を掘り下げる連載「石井リナのミレニアルズトーク」。ミレニアル世代の中でも1990年前後に生まれた人間は、現在27歳前後。社会に出て数年たち、ネットネイティブで育った柔軟な感覚で様々な新しい働き方に取り組んでいる。

中学時代にガラケーを持ち、インターネットとともに育ってきた環境のミレニアル世代たちは、どういった価値観をなにによって形成してきたのか。バブル世代とジェネレーションZのハザマに生まれ、双方のハブとなり得る存在のミレニアル世代を深掘る。

第5回は、オピニオンメディア「mileiu(ミリュー)」編集長であり5万弱のTwitterのフォロワー数を誇る、塩谷舞をゲストに招き、“メディア化する個人”をテーマにミレニアルズの生態系を紐解いていく。「ニュースよりも、友達のつぶやきが気になる」SNS時代に、ミレニアルズがメディアに求めることは、揺るぎない“哲学”を持っているかどうかだ。塩谷舞と石井リナが、1億総インフルエンサー時代のメディア論を語り合った。


友達の“たわいもないつぶやき”が、オールドメディアの影響力をしのぐ

石井リナ(以下、石井):塩谷さんとは、ぜひ「メディア」についてお話しできればと思っています。ミレニアルズにとってSNSは当たり前の存在で、スマートフォンを触る可処分時間のうち、SNSの使用に費やす時間が圧倒的に多いというデータもある。私たちにとっては、マスメディアよりも、SNSの方が生活に影響を及ぼしていると言っても過言ではないですよね。

塩谷舞(以下、塩谷):お仕事で「個人メディアの時代に何を思う?」と質問をされることがよくあるけど、どのチャンネルをつけても似たようなニュースをやっているテレビよりも、表示される情報が自分の興味関心に最適化されたソーシャルメディアに夢中になるのは、当たり前だと思う。

タイムラインに流れてくる友達の話は、ニュースよりも気になっちゃうよね。そこに元気をもらうこともあるし、「彼女はこんなに頑張っているのに、私は……」なんてやきもきすることもあるし。

  

石井:分かります。今や、SNSが台頭して、もうオールドメディアもSNSのアカウントを持つ時代。オールドメディア特有の信頼度はあれど、「SNS上の1つのアカウント」である点では、個人と同じフィールドに立っていますよね。SNS上でなら、個人がオールドメディアの影響力をしのぐことも、なんら珍しくない。

塩谷:そうだよね。京都芸大に通っていた2009年にアーティストやクリエイターを紹介するフリーマガジンを作っていたんだけど、当時から読者の感想や、広告主からの問い合わせが、Twitterのリプライ欄にバンバン届き始めたの。それはまだ小さな成功体験だったけど、「SNSってすごい!」と、その可能性に感動した。

社員が個人名や企業名を出してSNSで発信することを禁止している企業もあるけど……私が新卒入社した会社は、SNSでの発信に制限がなかった。私は個人としてメディア力を育てていきたかったから、そこも入社の決め手だったかも。

メディアとしての発信力の他にも、SNSで知ってもらえていると、社交辞令や初対面の堅苦しい挨拶なんかが省けるんだよね。常日頃から「私はこんなものが好きで、こんな仕事がしたいです!」と発信しているから、その通りの仕事が集まってくる。精神衛生に良いし、かなり合理的!

石井:ミレニアルズって合理主義なんですよね。「人生一度きりなのだから、これまでの常識や価値観にとらわれず自分の好きなように毎日を過ごしたい」と考える世代なので、無駄なことに費やす時間はない。

「しおたん」は、世の中のニーズに導かれた“現象”

石井:独立して、フリーで仕事をしようと思ったのはどうしてですか?

塩谷:もともと3年で独立しよう、とは決めていたんだけど……。でも独立するきっかけはやっぱり、ブログかなぁ。

私にとってインターネットは「頑張れば頑張っただけ、反響を得られる場」だった。小さい頃からずっと情報発信をしていて、ブログならランキングサイトで上位に表示されたり、フリーペーパーの意見をたくさんSNS上でもらえたり、努力やクオリティーを評価してもらえる環境があったの。でも、仕事で作ったWebサイトは、SNS上での反響がなくて。

  

そこで自分のブログを立ち上げたんだけど、感動したことを熱量だけで書きなぐった記事がひと晩で7万PVくらいまで伸びたことがあって。仕事でお金をかけて作ったものより、無料で書いたブログのほうがずっと、社会的なインパクトがあることに驚いてしまった。そんなきっかけもあり、「個人で勝負しよう!」と思って独立を決意しました。

石井:やっぱり、「個人名で仕事をする」のは、成功体験がないと簡単なことではないですよね。塩谷さんは、ライターになろうと思って独立したんですか?

塩谷:いや、全然! そもそも、最初はWebディレクターとして生きていこうと思っていたくらいです。ライティングの仕事以外にも、イベントの企画や展覧会のキュレーション、司会もするし……、「良い人や作品を世の中に伝える」ことが目的だから、肩書にはあんまりこだわらないかなぁ。最近では、代理店の資料に「エンゲージメントの高いライター系インフルエンサー」と紹介されていたこともあるよ(笑)。

世の中の風潮として、私が独立した瞬間は「オウンドメディア」ブームの真っ最中だった。昔から「企業ブログ」は存在していたけど、あらためて “コンテンツ・イズ・キング”の流れで重要視されていました。私も2015年から「THE BAKE MAGAZINE」の編集長も務めているしね。

かつ、インフルエンサー起用がプロモーションの主流になって、その流れでキャスティング候補に挙がることが多くなった。

オウンドメディアブーム、インフルエンサーブームという現象がある。だから、これまでの私は“現象”の一部だな、と思っていて。もし私がいなくても、この流れの中から世に出てくる人はいたはずです。

哲学のない“ハウツー”は、エンゲージメントを維持できない

石井:今は小手先の「ブランディング」も通用しない時代だし、物事を美しく見えるように切り取るだけでは、もう意味がないと思うんですよね。あと、それもなんだかかっこ悪いと思っちゃう。

  

塩谷:以前は「可愛い子」が神格化されていたけど、今は「精神的に依存できる子」がフォローされるよね。めちゃくちゃ可愛くても、 “可愛い”以外の武器がなければ、ファンが増えない時代になったなぁ、と。

石井:ちなみに塩谷さんがフォローしているインフルエンサーには、どんな人がいるんですか?

塩谷:友達を省くと……そうだな、Akaneさんの大ファンです! Instagramで「#英会話」と検索して見つけたんだけど、分かりやすいのはもちろん、動画も面白くって。そのままYouTubeを観たら、そこでは英語が上達するためのマインドを、自身の経験をもとに語っていたの。

ハウツーをばら撒(ま)くことができる人はたくさんいても、その上位概念である哲学を語れる人は、唯一無二の存在になる。だから、彼女が持っている強いマインドに惹(ひ)きつけられてしまって。

石井:有益な情報を伝えるだけでは、エンゲージメントを維持することはできないですよね。発信する情報をフォローしているのであって、その人自身のファンではなかったりする。

塩谷:そうそう、“心のフォロワー”が増えないんだよ。有益情報をばら撒くのって、なんだか「計算っぽい」じゃないですか。特にマス系の女性メディアは、「20代女性といえば、こういう美容が好きなんでしょ?」みたいな、マーケティング臭が透けて見える。もちろんそれは誰かの役に立っているし、「いいコンテンツ」ではあるんだけど。

その点、私はリナちゃんが運営するメディア「BLAST」は素晴らしいなと思う。私が偶然出会ったBLASTのファンの子たちが、「なぜ、BLASTがいいメディアなのか」を熱弁するんだよね。全国に「BLASTは、私のためのメディア」だと思っている読者がいるんだよね。

  

石井:BLASTには、“数字が伸びなくてもやらなきゃいけないコンテンツ”があるんです。メディアに哲学があるので、伝えなければいけないことは、信念をもって作る。そこはいつも、意識しているかもしれないですね。

インフルエンサーはマーケティングの“手榴弾”ではない

塩谷: 最近、若いインフルエンサーの子たちから相談されることがすごく多いです。そもそも“マーケティングの手榴弾”としてインフルエンサーを扱うメディアや企画が多すぎるし、「とにかくインフルエンサーを集めて、写真を撮ってInstagramにアップしたら、帰らされる」といった雑なイベントに、もう飽き飽きしている子は多い。もちろん、そういった「嘘臭さ」は読者にも透けて見えちゃう。

それに、インフルエンサーには365日24時間、フォロワーからリプライやDMが届きます。誰しも、もともとは小さな規模で始めたSNSだから、巨大化したときに「ちゃんと返せなくて……」と消耗してしまったりもする。そうした“インフルエンサーの心のキャパオーバー問題”は、訴えていきたいです。

石井:インフルエンサーにとってみれば、今は“ノーフィルター時代”ですよね。人気者になればなるほど、数十万人の声を一人で一手に受けなくてはいけないので。生活もあるし、頼まれたことをどんどんやっているうちに、心が疲れていきますよね。

塩谷:普通、有名人に会いたいと思ったら、わずか数秒の握手のためにチケットを買うじゃないですか。でも、有名人化したインフルエンサーには、無料の神対応が求められる。そうすることが素晴らしいともてはやされるからね。でも、その間に当人はどんどん消耗しちゃう。

実際、私自身もSNSで消耗してしまって。「フォロワーのため」「誰かのため」を追求し続けると、永遠にタスクが終わらず、本当にやりたいことにも集中できない。そんな時、コルク代表の佐渡島庸平さんから「自分の幸せを作ることが大前提で、その幸せを相手に分け与えてあげられる思考になると、作家性が増すよ」といったアドバイスをいただいたんだよね。

以来、いわゆるハウツー情報のように役に立つことを伝えるのか、自分の哲学を掘り下げて伝えていくのか、どの道で進んでいくかを考えていて。後者はエゴだと思われがちだけど、本当に人の心を動かすのは「魅力的なエゴ」なのかもしれないな、って。

ずっと「誰かの役に立てる何かを」と考えて行動してしまっていたけれど、「自分のために生きた方が、結果オーライになるんだな」と、今は腑(ふ)に落ちている。だから今はクライアントワークを減らして、一旦、自分のエゴを追求していきたいな、と思ってるの。

  

<対談を終えて>
誰もが一台スマートフォンを持つ時代が訪れて早数年、SNSは私たちの生活のすべてを支配した。誰もが情報発信の主体と化し、誰もが“インフルエンサー”になりうる。そして、客観的な事実より、個人の感情に訴えるもののほうが強い影響力を持つ「ポスト・トゥルース」と呼ばれる時代が訪れている。

こうした時代に大衆を牽引するのは、揺らがない哲学を持った個人かもしれない。正解のない時代を生き抜くために、今一度、自分の正義を問いただすことが求められているのだろう。

文:小原光史
写真:小林真梨子

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