いしわたり淳治のWORD HUNT

チャットモンチーへ「心からおめでとう」 元プロデューサーいしわたり淳治が賛辞

  • いしわたり淳治のWORD HUNT〈vol.9〉
  • 2018年7月13日

  

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載は、いしわたりが気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。候補となる言葉は、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなど、さまざまなジャンルから選ばれる。

今回は、この7月をもって解散するロックバンド「チャットモンチー」の作品タイトルからルー大柴の英語ネタまで、五つの言葉が挙がった。

いしわたり淳治 いま気になる五つのフレーズ

  

チャットモンチーの武道館でのラスト・ワンマン・ライブを見てきた。最後のワンマン・ライブだというのに、思い出の曲を思い出のアレンジのままではなかなか演奏せず、過去の曲を大胆に打ち込みにアレンジし直したり、今まで一度もやったことがない生のストリングスと共演したり、全20曲、めまぐるしく演奏の形態を変えながら、最後の最後まで挑戦と冒険をやめない姿勢がいかにも彼女たちらしい終わり方だなと思った。

2005年の彼女たちのメジャーデビューが、私のプロデューサーとしてのデビューだった。“子が生まれたときに親が生まれる”の言葉通り、右も左も分からない手探りの毎日の中で、彼女たちからは本当にたくさんのことを学ばせてもらった。振り返っても彼女たちには感謝の気持ちしかない。

彼女たちのラストアルバム『誕生』の収録曲「the key」に「好きな人ができる日は 未来のはじまり 未来のはじまりだよ」というフレーズがある。その通りかもしれないなと思う。彼女たちと一緒に音楽を作っていた頃、私はチャットモンチーの世界一のファンだという自覚があったし、そう思っていたからなのか、彼女たちとの仕事をきっかけにほんの少しずつ未来がはじまって、どうにかこうにか今がある。

解散ではなく完結という言葉を選んだ彼女たちに、心からおめでとうと言いたい。全部やりきったと言えるまでやったなんて、本当に素晴らしいこと。おめでとう!

  

7/3放送「マツコの知らない世界」(TBS系)の「マツコの知らないエメラルドハンターの世界」の回でのこと。エメラルドハンター清水雅弘さんが、とんでもなく巨大なエメラルドの石や超高額なアクセサリーを紹介するたび「こちらとても“爽やか”な大きさですぅ」「お値段はとっても“爽やか”ですぅ」と繰り返していた。その百戦錬磨の軽妙な口調と鉄壁の営業スマイルが空恐ろしい。

でも、この“爽やか”という表現。大きいとも小さいとも、高いとも安いとも言っていないわけで、言いにくいことをこんなにも分厚いオブラートで強引に包むやり方があるとは知らなかった。

なるほど。これからは言いにくいことを“爽やか”のオブラートで包んでみるのもいいかもしれない。買い物で値切りたいときは「もっと爽やかな値段にして頂けませんか?」と言い、原稿の締め切りを延ばしたいときは「もう少し爽やかな締め切りになりませんか?」と言い、仲のいい人だけで集まりたいときは「次回はもっと爽やかなメンバーで集まりませんか?」と言う。そう考えると、使い道は無限にありそうだ。ただ、相手にまったく伝わらないだろうから、結局“爽やか”の意味を説明させられるという、ものすごく“爽やかな”地獄がやって来るとは思うけれど。

  

チョコレートプラネットが面白い。なるほど、「どんだけー」「背負い投げー」「まぼろしー」「すっからけっちー」みたいな、今までIKKOさんが言っていた謎の言葉のあれやこれやは、本人が使っているときは未完成で、芸人がモノマネしたときに完成するものだったのだな、と思うほど。

というのも、IKKOさんの一連の謎の言葉は、いまいち正しい使い方がよく分からず、見ていて困惑することも多かった。特に「すっからけっちー」に至っては使い方どころか意味すら見当がつかない。こんな世の中に存在しない言葉が普通に大声で発せられて、画面に字幕になって出てきて、皆が訳も分からず笑っているなんて、冷静に考えても、ものすごいことだと思う。

これが、仮に「ゲッツ」とか「トゥース」みたいな芸人のギャグなら、意味不明でも成立はすると思う。しかし、IKKOさんは芸人ではない。きっと、急に「すっからけっちー」と言われてもそれがギャグなのかどうか定かでないというところも、見ていて胸がざわつく原因だったのだな、とふと思った。だから、芸人がモノマネにするといかにもギャグらしい見栄えになってしっくりくるのだな、と。

チョコレートプラネットのIKKOさんのモノマネは無敵な気がする。もし仮にスベったとしても“急に変なことを言って変な空気になるところも含めてモノマネしています”という鉄壁の保険もまとっているから。

  

ソフトバンクの「ウルトラギガモンスターほぼデータ使い放題」のCM。タクシーに乗って行き先を告げると運転手が真面目な顔で「ほぼ、安全運転で参ります」と言い、洋服の試着室から出てくると店員が笑顔で「お似合いです、ほぼ」と言う。

なるほど、その視点で昨日の自分の行動を振り返ってみると、「ほぼ友達と、ほぼおいしいご飯を食べ、ほぼ楽しい話をし、ほぼ時間通りに来たほぼ安全運転の終電に乗って、ほぼまっすぐ家に帰り、風呂に入ってほぼきれいになって、ほぼぐっすり寝た」と言えなくもない。この世は“ほぼ”で出来ているのかもしれない。完璧や絶対なんて存在しないのだから、当然といえば当然なのだけれど、私たちはそれを忘れがちだし、むしろ何かにつけて絶対や完璧を求めたり、目指したりしがちだ。

そう考えると「どこまでが“ほぼ”の範疇(はんちゅう)か」がその人の性格を決めていると言っても過言ではない気さえして来る。嫁が“ほぼ”きれいに掃除した部屋を姑が無言でもう一度掃除し直すなんて家は息苦しいだろうし、夫が“ほぼ”値段相応だと思った買い物をいつも妻が高いだの無駄遣いだのと文句を言っているような夫婦もけんかが絶えないだろう。

つまり、人間関係においていちばん大事なのは「お互いの“ほぼ”の程度の合致」なのだと思う。気が合うというのはつまりそういうことなのではないかと私は、ほぼ、ほぼほぼ、思うのだけれど、どうでしょう。

  

昔からルー大柴さんの “ルー語”が好きだ。「やぶからスティック」「バカもホリデーホリデー言え」みたいなことわざ系と、「トゥギャザーしようぜ」「リトルビットつまんない」みたいな会話に英語が混ざる系のイメージだけれど、先日ルー大柴さんは、勝新太郎さんのことを「ヴィクトリーニュー太郎」と呼んでいた。

すごい。たしかに、名前を英語にすると面白い人はたまにいる。いかりやロング介(いかりや長介)とか、小泉ピュア一郎(小泉純一郎)とか、ドルフィン(歌手・イルカ)とか。でも、ヴィクトリーニュー太郎はすごい。英語、二つ入ってるし。さすがルーさん、ベリーグッドなネームをイージーにチョイスできちゃうからエクセレントでリスペクトだなあ。


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PROFILE

いしわたり淳治(イシワタリ・ジュンジ)

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

BOOK

『次の突き当たりをまっすぐ』
筑摩書房/1400円(税別) いしわたり淳治 著

ミニマルな構成にシャープな風刺と驚きの結末が仕掛けられた“ことば”のエンターテイメント。鮮やかな幕切れの連続が読者を虜にする。20万部を突破した前作『うれしい悲鳴をあげてくれ』から10年。“歌詞解説”で話題沸騰の作詞家・いしわたり淳治による筑摩書房ウェブマガジン「webちくま」の連載「短短小説」に書下ろし作品を加えた28編が待望の書籍化。

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