&30

楽器としての映像とは!? 新しい音楽体験の予感 落合陽一×日本フィルプロジェクトVol.2『変態する音楽会』

  • 制作打ち合わせレポート
  • 2018年7月27日

打ち合わせする指揮者の海老原光さん(左)、演出担当の落合陽一さん(右から2人目)、ビジュアル演出と演奏を担当するWOWのディレクター近藤樹さん

今年4月、vol.1『耳で聴かない音楽会』を開催したピクシーダストテクノロジーズCEOの落合陽一さん(メディアアーティスト)と日本フィルハーモニー交響楽団のコラボプロジェクトが、この夏、さらに進化する。

『耳で聴かない音楽会』を紹介した&Mの記事はこちら

今回は、落合さんは演出を担当し、楽譜に「映像」というパートを新たに書き加える。その映像の「演奏」は、ビジュアルデザインスタジオWOWが担当。指揮棒を振るのは海老原光さんだ。vol.2のタイトルは『変態する音楽会 テクノロジーの力で生まれ変わるオーケストラと音楽』。

アーティストのライブにもステージの背景に映像が映し出されることは多いし、音に映像を合わせる演出そのものは珍しいことではない。ただし、今回はフルオーケストラの「楽器」のひとつとして映像が「演奏する」という点で、従来のライブや作品とは大きく異なるという。

そして、『耳で聴かない音楽会』で使われた、音を振動や光で感じるデバイス「SOUND HUG」や「Ontenna」が貸し出されるダイバーシティ対応席も用意される。

日本フィルの広報担当の方にいろいろ教えていただいたが、まだオーケストラの形態がどう変わるか、具体的なイメージは抱きにくい。ただ、「行けば今度も面白い体験ができそうだ」という予感がする。

そこで、どんな音楽会になりそうなのかを紹介するため、7月19日に落合さん、海老原さん、WOWのディレクターの近藤樹さんの3人が集まり行われた打ち合わせを取材した。

『変態する音楽会』ロゴ 「ロゴ協力:TBWA\HAKUHODO」

打ち合わせは、落合さんが「映像を入れるフレーズ」だけを指定した楽譜を見ながら進められていく。楽譜というものは通常横書きだが、「映像譜」なので縦書きだ。おそらくアニメの絵コンテに近いものだが、取材時にはまだ具体的な映像が描かれているわけではなくて、あくまで画像がほしい場所が黒い四角で示されて、文字で簡単な説明が書き込まれているだけだった。

 

落合 ここ2週間ぐらい、今回の曲を演奏している人たち(の映像)をじっと見ていて、やっぱリアルタイムで機微がきっちり合っていることが気持ちいいのだということが分かってきた。海老原さんは、「ほーらいくぞパコーン」って指揮棒で合図を出すんだと思いますが、そのパコーンのどこで映像を出せばいいかを理解できていないといけない。そこを話しながらやっていきたい。

いまの段階で作っていただいた映像を、このフレーズではめちゃ弱くしてとか、この馬が跳ねるようなところは4回カチカチってやってくださいというのを絵コンテ上に書き込みながら、練習していけばよいと思っています。

近藤 いただいた映像譜を拝見していると、メリハリや抑揚が重要になっていきますね。今回は演奏するというスタイルなので、当日は指揮をみながら映像のパラメータを操作する感じになると思います。落合さんが持っているイメージをこちらで吸収させていただいて、多分余分になったところや強調したいところをすり合わせたいです。

 

今回の映像譜を作成するにあたり、落合さんは、外国語で歌われるオペラの日本語字幕を表示させる作業を見学しに行ったそうだ。今回の「奏者」として映像が参加するという試みに、最もイメージが近いものに感じられたらしい。

 

落合 ダイバーシティ対応を含めて見学に行ったんですが、字幕を出したり消したりするタイミングのキュー出しする人は、指揮者の動きに合わせて、字幕の指揮をしていました。そのために、オーケストラ譜をピアノ譜に落としたものに、キュー出しのタイミングが書かれている。今回作った映像譜が、それに演出が足されたものにあたります。

近藤 スタイルはこれに近しいものになると思います。僕はここ(オペラの字幕キュー出しをする人が座っている場所)にいるんでしょうね。

落合 彼らは、指揮者がどれぐらい引っ張るかをちゃんと共通認識としてもっていて、字幕を切り替えるタイミングを図っている。オペラは文字だけですけど、すごく似ているなって。オーケストラの音楽を、翻訳者を一人挟んで映像的なものに直していて、オケを指揮している人を理解している人もいて、事前にどう振られるかは、オケ譜をもとに共通認識を持っている。この字幕が映像に置き換わっても、やれないことはないのではないかと。

落合さんが今回の音楽会のために書いた「映像譜」を見ながら打ち合わせは進む

近藤 1曲目でいうと、イメージとして権力と牧歌的な空気感の対比と混合を出していきたいかなと。指揮者が指揮棒を振っている姿ってどこか権力者のようにもみえるじゃないですか。その動きをそのまま映しこませて権力を象徴させてみたい。あとは、馬が踊っているかのような和やかな雰囲気と、そこの表現をうまくコントロールしたい。

海老原 画像のイメージとしては、もともとのスペインや登場人物のカルメンやホセのキャラクターはあってもいいと思いますが、それですと、「事前にストーリーを知らないとこの曲は聞けません」ということになりますよね。キャラクターの要素は入れつつも、直感的にこの音楽に対して、映像で感じるものを出したほうが、自由に聴くことができると思います。

落合 ちなみに僕は譜面のこの部分に、「昨日何があったんだっけ?」「飲み屋」「セックス」って書いてあります。(一同笑)

海老原 いいです。いいと思います。

近藤 僕もなにかぬめっとした、どろっとした曲だなあと感じていました。

海老原 クラシックの世界では、半音階で下がっていくところは、だいたいエロチックな表現なんですよ。こう、手でなでるような。そう感じさせるものを映像で顕在化できるといいかもしれません。

落合近藤 へえー。

        ◇

落合さんが書いた映像譜をもとに、3人の認識をすり合わせるための話し合いは進んでいく。落合さんが曲を聴いて頭に湧いたイメージを表現する言葉は独特だ。

「ここは牧場と都市構造が交互に表現されているように聞こえる」

「ここからは、ほらおいでなすって!という場面になりますよね」

それでも、海老原さんと近藤さんがそれぞれ曲に対して抱いているイメージとは、どの表現も大きくはずれておらず、打ち合わせがスムーズに進んでいくことが、横から見ていると驚きでもあった。

【動画】『変態する音楽会』制作打ち合わせ

この記事を書くにあたって、当日のネタバレにならないよう、ある程度はぼかすなどの配慮が必要かもしれないと思っていたが、まったくの杞憂だった。ここまで書いた会話は、3人の言葉をそのまま抜き出しているが、当日、日本フィルの演奏とWOWの映像がどのように融合するかはまだ想像がつかない。

ただただ、実際に体験してみたいという気持ちが募る。

打ち合わせ後は、スペイン料理を食べつつ今回の音楽会について鼎談していただきました。後編で掲載します。

今回の打ち合わせは、東京・西麻布のスペイン料理店「フェルミンチョ」で行われた。今回演奏される「ビゼーによる舞踏組曲」(海老原光編曲)のひとつ、「カルメン」の舞台であるスペインにちなんだ。

後編として、カルメンの主人公・ホセの出身地であるスペイン・バスク料理を食べながら、今回のプロジェクトについて3人に自由に語っていただいた鼎談を掲載する。

(文・&マガジン編集部・久土地亮、動画・高橋敦、写真・矢野拓実)

※今回、&マガジン編集部は、クラウドファンディングの「Readyfor」を通して、同プロジェクトの支援者になりました。

<プロジェクト詳細>

日本フィル公式サイト 

https://www.japanphil.or.jp/concert/23302

Readyfor支援ページ

https://readyfor.jp/projects/transforming-orchestra

主催:公益財団法人日本フィルハーモニー交響楽団

協力:ピクシーダストテクノロジーズ株式会社、TBWA\HAKUHODO、富士通株式会社、株式会社プリズム

助成:東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ

Pickup!