「コンプラに縛られたメディアなんてつまらない」Zeebraが望む日本のエンタメの変革

  • 文/ライター 宮崎敬太 写真提供/株式会社ソロモン・アイ・アンド・アイ プロダクション
  • 2018年8月8日

  

Zeebraは1995年にヒップホップグループ「キングギドラ」のフロントマンとして日本のヒップホップシーンに登場した。彼の約25年にわたる活動を改めて見つめると、ひとつの事実に気付かされる。それは彼がヒップホップを “可視化”させてきたということ、すなわち日本人になじみのない文化を国内に知らしめ、一般化するよう底上げを図ってきたということだ。

Zeebraは自ら体現してヒップホップのアイコンとなったが、彼の活動はアーティストとしてのそれにとどまらない。シーン活性化の潤滑油になるため水面下で尽力し続け、近年は即興ラップで競い合うバラエティー番組「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日系)のオーガナイザーとしても知られている。

裏方としての活動を拡大させるZeebra。その意図を聞きにいくと、そこにはヒップホップ界の“知将”ともいえる、 表舞台では見せないZeebraの横顔があった。

Zeebra(ジブラ)

1971年、東京生まれ。ヒップホップレーベル「GRAND MASTER」 代表。95年、ヒップホップグループ「KING GIDDRA(キングギドラ)」のフロントマンとしてデビュー。97年にソロ・デビューを果たし、日本のヒップホップのトップランナーとして活躍。2013年、「クラブとクラブカルチャーを守る会」を発足し、改正風営法の施行(16年6月)に貢献。現在、MCバトル番組「フリースタイルダンジョン(テレビ朝日)」のオーガナイズ&メインMCを務めるほか、17年9月からは慶應義塾大学(三田キャンパス)にて現代芸術の講師として教鞭をとるなど、多方面で活動中。

多様性こそがヒップホップ

――「フリースタイルダンジョン」のオーガナイザーにはじまり、音楽レーベル「GRAND MASTER」の運営、ヒップホップイベント「SUMMER BOMB」の主催など、近年のZeebraさんはアーティストとして表舞台に立つより裏方としての活動が目立ちます。

Zeebra ヒップホップシーンにおける俺自身の立ち位置が変わったからですね。今挙げてもらったことみたいに、ちょっと前から全体を仕切る仕事が多くなった。そうすると「Zeebra」というアーティストのエゴが邪魔になるんですよ。だからいまはちょっと楽曲制作はお休みしてる感じ。

それに、ヒップホップにはディディやドクター・ドレーのような出たがりの裏方がいる歴史がある。彼らはもともとトラックを作る人たちで、いわば裏方だった。だけど「プロデューサー」という名目でどんどん表舞台に出てきて、率先してマネーゲームをすることでヒップホップを巨大なマーケットに変えていきました。日本にもそういう人がいたほうが面白いと思うんですよね。

――ヒップホップは「俺がナンバーワンだ」と主張するカルチャーなのに、Zeebraさんはいつも日本のヒップホップシーンを俯瞰しているように見えます。

Zeebra もちろん俺だっていつも自分がナンバーワンだと思ってますよ(笑)。だけどそれとは別に、ヒップホップっていろんな奴らがいることで成立するカルチャーという思いが強い。ギャングみたいなのがいて、もう一方にはインテリジェントな連中もいる。しかも、その中もさらに細分化されている。そいつらがみんな「俺がナンバーワンだ」と主張するから、ヒップホップは面白いんです。「どれか」じゃない。

ところが、国内のシーンにその視点を向けてみると、当時の日本にはサブカルの文脈で語られたヒップホップしかなかった。いとうせいこうさんや、高木完さん、藤原ヒロシさん、スチャダラパー。そして1990年代半ばには「今夜はブギーバック」「DA.YO.NE」が大ヒットした。

俺はもともと六本木でDJをしていて、その後アメリカに渡ってヒップホップを体験したのですが、当時のアメリカと日本の状況を比べるとやっぱり「ちょっと違うな」と思ったんです。多様性こそ魅力のジャンルなのに、なぜか日本ではあの2曲だけがヒップホップと思われている。音楽の善しあしではなく、そのことに違和感を感じました。

――ちょうどZeebraさんがキングギドラを結成した時期ですね。

Zeebra キングギドラのメンバーと出会って、自分も日本語でラップをしようと思いました。そしてやるなら、自分が理想とする状況を作りたかった。当時、アンダーグラウンドなシーンで一番目立ってたのは、インテリっぽいRHYMESTERと、ストリートな雰囲気のMICROPHONE PAGERでした。彼らは仲が悪いわけじゃないし、一緒にイベントに出たりもするんだけど、いい意味で頑固だから微妙な距離感だったんです。それぞれのグループが離れ小島みたいに点在する感じ(笑)。

俺は多様なヒップホップシーンを作る必要性を感じていたから、彼らの間に入ってちょっとずつつなげていったんです。当時もキングギドラが一番だと思っていたけど、いろんな奴がいて、いろんな音があって、いろんな人生観がないと、意味がない。みんなでヒットしないと。「フリースタイルダンジョン」にいろんなキャラのラッパーが出てくるのも同じ発想です。

  

コンプラに縛られたメディアなんてつまらない

――「フリースタイルダンジョン」の影響で、ようやく日本に本格的にヒップホップが根付き始めています。ですが、世界的に見ると日本はまだヒップホップ後進国です。例えば、韓国ではヒップホップが国民的ヒット曲になったり、防弾少年団(BTS)がアメリカのビルボードチャートで1位になったりもしています。これから日本でさらにヒップホップを広めるためには、何が必要だと思いますか?

Zeebra メディアの状況を変えたいんですよね。最近の日本のエンタメは、海外と比べてちょっと独特だと思う。メディアは視聴者に合わせてコンテンツを作ってるでしょ? 昔はそんなことなかった。例えば、小林旭さんと石原裕次郎さんが銀座でレースしたりね。その日は銀座で飲んでる人たちもみんな公道に出てきて、2人がスポーツカーでレースするのを見て熱狂してたんですよ。もうぶっ飛びまくってる。でもエンタメなんだから、俺はそのくらいめちゃくちゃやればいいと思う。「みんなと同じ」なんてクラス会でいい。

――でも今の日本で同じことをしたらすぐにSNSで炎上してしまいますよね。

Zeebra 今の民放はコンプラ(企業コンプライアンス)に縛られすぎだと思う。例えば、ニュース番組やワイドショーは公平中立でなければいけない、とか。

仮に俺の投稿が「素晴らしい意見だ」とバズったとします。リツイートや「いいね!」が何千付いたとしても、必ず反対意見がちょっとある。ワイドショーはそのちょっとしかない反対意見も、賛成意見と同等に取り上げるわけです。公平中立を意識しすぎて。スポンサーは面倒を嫌がるから忖度(そんたく)してるんだろうけど、そんなことしてたらワイドショーなんて成立しないと思う。自分たちで取材して正しいと信じたことを伝えればいい。それが彼らの仕事だと思う。

ちなみに今の若い子たちは、本当にテレビを見ないんです。実際、うちの中3と高1の娘たちもYouTubeしか見ないし、20歳そこそこのBAD HOPの連中もそう。彼らにプロモーションのタイミングでテレビ出演の話を持ちかけたら、「それ、意味あるんですか? 俺らの周りでテレビ見てるやつなんていませんよ」と言われてしまった(笑)。でもやつらは完全なインディーズなのにZepp Tokyoでのワンマンライブのチケットを即日完売させてますからね。テレビの人たちも、コンプラなんて気にせず、自分たちが信じることを突き詰めればいい。そうしないと、近い将来本当に誰もテレビを見なくなると思います。

――オールドメディアに悲観的なZeebraさんが、ウェブラジオ「WREP」を立ち上げたのはなぜですか?

Zeebra 単純に行きすぎたコンプラから解放されたヒップホップ専門メディアが必要だと思ったからです。アメリカではヒップホップ専門のラジオ局がたくさんあるし、ラッパーは頭の切れる連中が多いからラジオに向いてる。確かに最初は「今時ラジオを始めるなんて狂ってる」と言われましたよ。でもね、実情はかなり好調で、放送中にほぼ必ずTwitterのトレンドワードに入る番組もあるんですよ。

  

別にテレビのすべてが悪いとは思ってません。ただ、若い子が求めるエンタメが今のテレビの中にはもうない。これは“コンプラワールド”に対する、若い子たちの無意識のアンチテーゼだと思う。自主規制ばかりのコンテンツがつまらないから、自然と新しいメディアに移行してるんです。

新しさを受け入れられない感覚は俺自身もよくわかります。だけど現実はもう違う。先日、スケボー、BMX、ブレイクダンスなどのイベントが地方で3日間開催され、そこに若い子を中心に8万人も集まった。ストリートスポーツってテレビや雑誌では特に話題になっていないけど、TwitterやYouTubeではめちゃめちゃ盛り上がっていたんです。この一件は「ダンス文化推進議員連盟」の会合でものすごく話題になりました。大人たちの知らないところで時代が変わっていたんです。イベントの主催者も会合に参加されていて、「私たちはもっと若い人の感覚に寄り添っていかなくてはいけない」と話していました。

大人たちは若者の価値観を受け入れなくてはいけない

――日本での防弾少年団の人気も、メディアは完全に後追いでしたしね。TwitterやYouTubeを中心とした水面下では、ファンたちが数年前から彼らを熱烈に応援していました。

Zeebra 韓国は、エンタメを世界標準のクオリティーで作っていますからね。しかもそれを国策としてる。だからアメリカのビルボードチャートに入ったりするんです。一方の日本にも「クールジャパン」があるけど、あれは「日本でしか生まれないものは何か」という発想なんです。特産品にしか目を向けてないから、「アニメ」「アイドル」みたいな話になる。しかもエンタメの質というより、どれだけモノを買わせるか、というお土産産業的発想。あれは最悪です。

俺は若い子がもっとメインストリームに出てこられる環境を作りたい。ちょっと前も20代のアーティストたちが出る比較的規模の大きいヒップホップのイベントに行ったら、パンパンでめちゃくちゃ盛り上がっていたんですよ。しかもアメリカのヒップホップのライブみたいに、観客がみんなラップで合唱しているんです。以前はそんなことあり得なかった。俺は本当に時代が変わったと思いました。

だから今年の「SUMMER BOMB」のラインアップは、ほとんど20代のアーティストです。俺は今30〜40代のアーティストたちがすごく頑張ってきた歴史も知ってるから、年功序列的な気持ちも正直ある。だけど、そういうことを意識してたらもうダメだと気付きました。だから、去年後半から今年前半にかけて話題になった人を集めました。そしたら自然と若いアーティスト中心になったんです。アメリカではもう10代のラッパーがビルボードチャートに入っていたりする。日本でアメリカと同じ状況を作るのは無理だと思うけど、できるだけ近づけないとヒップホップは成立しない。

――ではヒップホップの熱を「クールジャパン」を推進するような人たちに届けるためには、どんなインパクトが必要だと思いますか? AKB48を抜いてオリコンチャートで1位とか?

Zeebra AKBグループは、いわゆるミュージシャンたちとは、ちょっと戦ってる場所が違うと思います。そういう意味では、俺自身はiTunesの総合チャートのランキングのほうを重視している。BAD HOPなんかはアイドルやK-POP勢を抑えて、普通にiTunesの総合チャートで1位になってますしね。さっきも言ったけど、今はメディアもユーザーの関心も多様化しているから、“誰もが知っている”という状況は生まれづらいし、自分の関心の外にある現象を視認しづらい。

そんな状況にもかかわらず、なぜ俺がヒップホップに可能性を信じているのかと言えば、それはこの目で不可能が可能になる瞬間をたくさん見てきたからなんです。例えばN.W.A.みたいに、口を開けば「FUCK」「BITCH」ばかり言ってるようなやつらが大ヒットしちゃったりね。中心人物のイージー・Eなんて、もともとドラッグの売人だったのにホワイトハウスの昼食会に呼ばれたんですよ。あり得ないでしょ(笑)。

彼らの映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」で、警察に止められてるにもかかわらず「ファック・ザ・ポリス」という曲をライブでやっちゃうシーンがありましたよね。彼らがあそこで自分たちを突き通したから、ギャングの存在が許容されている今のアメリカのヒップホップシーンがあるんですよ。

今の俺にはもうそういうことはできないけど、例えばBAD HOPならそれができる。大人たちは若者の価値観を受け入れなくてはいけない。その流れが拡大するよう、若い連中の勢いを広げていくのが今の俺の役目です。革新的なことをするのがヒップホップ。常にフレッシュじゃなきゃダメでしょ。

  

▼イベント情報
タイトル SUMMER BOMB 2018 Organized by Zeebra
開催日程 8月18日(土)開場/開演 12:00
開催場所 東京都江東区・新木場 Studio Coast
公式サイト https://summerbomb.amebaownd.com

▼MAIN STAGE
Awich、漢 a.k.a. GAMI、Cz TIGER、SOCKS、JAGGLA、t-Ace
BAD HOP、KEN THE 390、Weny Dacillo、Pablo Blasta
SALU、JP THE WAVY、JIN DOGG、kZm、般若、唾奇、Young Coco
Yo-Sea and more!!

▼MC
Zeebra
LETY from Def Will

▼DANCE AREA
ダンスバトル
“BREAKIN CREW BATTLE“
[JUDGE] BBOY KATSU1 / FLASH / Original B-BOY CHINO [DJ] MAR SKI [MC] 105
“HIPHOP DANCE BATTLE”
[JUDGE] PInO / STEZO / Yusei [DJ] OBA [MC] HORIE HARUKI

▼DUNGEON STAGE
・Road To Dungeon:テレビ朝日「フリースタイルダンジョン」への出場権をかけたMCバトル
・バトル解説:DOTAMA / MIRI from RHYMEBERRY(アシスタント)
・GUEST LIVE:DOTAMA / D.D.S / TKda黒ぶち / 黄猿

▼ART AREA
cherry chill willによる写真展の開催

*詳しくは公式サイト
https://summerbomb.amebaownd.com

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