井浦新「若い頃は早く“シワ”の多い顔になりたかった」

  • 聞き手/西森路代 撮影/宮田浩史
  • 2018年8月7日

  

ルックスがいいことは、男の武器なのか――。「見た目」に価値を付与されがちな芸能界で仕事を全うする男性は、自分のルックスをどうとらえているのだろうか。

今年44歳になる俳優・井浦新さんは、その高い演技力はもちろんのこと、かつては「好きなメガネ男子」ランキング1位に輝くなど、ルックスも含めて熱い支持を受け続けている。だが自身は若い頃、「『整形したの?』と言われるくらい変わりたい、老けたいと思っていた」という。井浦さんは、自分の「顔」とどう付き合いながら、「かっこいい大人」になってきたのか――。

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映画の撮影現場に「なんでセリフを覚えていくんですか?」

――井浦さんは19歳のときに、モデルとして芸能活動を始められています。モデルはいわば見た目が武器の仕事と思われがちですが、当時はそう見られることをどのように意識していましたか?

井浦 僕は人からどう見られるかには無頓着でした。モデルの仕事は、いかに服を見せるかが重要です。服をかっこよく見せようとすれば、おのずと極端で自然ではない動きをとらないといけないし、その過程で自意識が崩壊していくんです。そういう仕事をしていたから、自分がかっこよく写るなんてことは二の次になったのかもしれないです。

――1998年に是枝裕和監督の映画『ワンダフルライフ』で役者としての活動を開始されました。役者はまた、モデルとは違った「見られ方」を意識する仕事だと思います。モデルのお仕事では「自意識が崩壊していく」とおっしゃっていましたが、役者はどうなのでしょうか?

井浦 役者の場合はもっと自意識を持っちゃいけないんです。ただ、そう判断できるまでに何年もかかりました。僕が演技の世界に入ったのは、是枝さんとの出会いがきっかけで、そこで実験に参加したというか(笑)。是枝さんの撮影は、何も考えずにただその場にいて、目の前で起きることに反応して自然に出てきた言葉で感情を描くというやり方がベースなので、セリフなんて覚えちゃいけないと思っていたんです。それがはじめての映画の現場だったので、それからしばらくは別の監督の現場に行っても、「なんでセリフ覚えていくんですか?」みたいに思っていました。今思うと、よく大きな事故を起こさなかったな、と(笑)。芝居を苦しいけれどやりがいのある仕事だと思うようになれるまでに、10年はかかりました。

井浦 新(いうら・あらた)

1974年9月生まれ。東京都出身。是枝裕和監督の映画「ワンダフルライフ」(1998年)で初主演。以後、映画を中心にドラマ、ドキュメンタリー、ナレーションなど幅広く活躍。主な出演作品に「ピンポン」(02年)、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(08年)、「空気人形」(09年)、「かぞくのくに」(12年)、「11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち」(12年)、「HiGH&LOW」シリーズ(15年~)など多数。「止められるか、俺たちを」(10月13日公開)が公開待機中。

ファンの求めるかっこよさに応えることは難しい

――井浦さんは2005年に書籍『メガネ男子』(アスペクト)で「好きなメガネ男子」ランキング1位に選ばれたことがあるように、「おしゃれでかっこいい俳優」と見られているように思います。若い頃は、自分の顔をどうとらえられていましたか?

井浦 どうでもいいと思っていたかもしれないです。執着はなかったです。でも、幼く見えるのが嫌で、早くしわがほしくて、わざと顔をぐちゃっとしかめてみたりしていました。「整形したの?」って言われるくらい変わりたい、老けたいと思っていたし、何もしない状態で眉間(みけん)にしわがある顔がかっこいいと思っていました。そういう意味では、意識していたのかもしれません。10代、20代にはその年代ならではの初々しさのような魅力もあるんでしょうけど、そのときはそれには気づけないし、まっただ中にいるときに気づいているのもちょっと嫌ですよね (笑)。

――見ている人やファンの求める「かっこよさ」に応えよう、という気持ちはありましたか?

井浦 期待に合わせることは、まあできないでしょうね。もちろん自分の仕事は、人を楽しませたり喜ばせたりする仕事なんですが、それは、監督のため、作品のために、“自分を自分じゃないものにしていった”結果だと思うんです。でも、その作品を楽しんでくれる方が求めるものに、日常の僕が応えていったら、芝居ができなくなってしまうと思うんです。

――それは、そういう型にはまってしまう、という意味でしょうか。

井浦 見た方が「あのときの髪形、しゃべり方がよかったね」と思ってくれるのは、僕が作品に捧げたものに対する評価です。その「よかった髪形」や「よかったしゃべり方」に合わせて僕自身が生きてしまうと、結局、求めていた方にも楽しんでもらえなくなると思うんですよ。人って、同じようなものを二度三度見ると、それを求めていたにもかかわらず飽きてしまうだろうし、僕の演じるキャラクターが全部同じになってしまえば、仕事が来なくなって、楽しんでもらう機会すらなくなるかもしれない。求められること全てに応えられる人は、“スター”なんでしょうね。それはそれですごいことだと思うけれど、僕はそことは正反対のところで表現したいし、それしかできないと思います。

――では、視聴者や観客のそういった反応は、あまり気にされない?

井浦 『ピンポン』や『めがね男子』のころは、今のようにネットですぐに反応が見られる時代じゃなかったし、そういうふうな形で話題になっていることは後になって知りました。でも、求めてくださることはありがたいし、そういうことが劇場に足を運ぶきっかけになって、作品を見て反応をもらえればうれしいです。反応がないということが一番つらいことですから。

だから、その反応を僕が知っておくことも大事だと思います。時代が何を求めて何を評価するのかを知ったうえで、次にどう動くか。それは自分にとってはハードルが上がることだし、何かをまた新たに課せられて挑戦することができるのではないかと。そして、みなさんが求めていることを、その挑戦の中に1ミリくらいは入れるかもしれないし。

僕はどこかアウトローな人をかっこいいと思う

――現在、ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』で先輩ケースワーカー・半田明伸役を演じられています。ややミステリアスで飄々(ひょうひょう)としたキャラクターですが、彼のどこに魅力を見いだし、演じていますか?

井浦 いかに半田さんをかっこよくないように見せるかが、僕の目指すところなのかもしれません。原作では、いつも後輩のためになるようなことを言ってあげる立派な先輩なんですけど、ドラマの半田さんは、漫画の内容がギュッと凝縮されているせいか、最初はよくわからないキャラクターになっていたんです。最初は僕自身も、原作に忠実にやろうと思ってひげをはやしてみたんですけど、途中で、原作に縛られすぎると逆にうまく演じられないのではないかと思い始めて、監督とも話し合って「自由にやりましょう」ということになりました。

ドラマの半田さんは、みんなといるときはほげーっとしているけれど、ピシッとするときはするような人になっていると思います。半田さんのかっこよさは、そこだけで十分じゃないかと思うんです。どちらかというと、この作品の“ゆるキャラ”になっていけたらいいかな、と。

――“ゆるキャラ”ですか。

井浦 半田さんのゆるさは、ヒロインのえみると正反対なんです。えみるは目の前のことに真摯(しんし)で、表も裏もなく突っ走る。半田さんも、ケースワーカーになったばかりのときは、きっとえみるみたいだったかもしれないし、長い経験の中では、心を寄せてきた利用者が亡くなってしまったこともあったでしょう。その結果、いまは情熱をただ一方的に押し付けるのではなく、利用者のケースにあわせて接し方を変えて常に演技をしているようなところがある。そうやって自分をコントロールできるようになったのが、今のほげーっとした半田さんなんだと思うんです。

――今、井浦さんは43歳です。これから50代、60代とさらに年齢を重ねるにあたって、自分の理想像はありますか?

井浦 何をしているか、どんなふうに生きているかが重要だと思います。自分の生き方に責任を持っている人は、同性でも女性でもかっこいい。僕はどこかアウトローな部分を持っている人のことを、かっこいいと思うんです。

例えば、恩師でもある若松孝二監督もそうですし、岡本太郎さんや、葛飾北斎もそう。不良ということではなくて、力に対して真正面から抵抗する側にいて、権力側から自分の表現をしない人たちです。それも、対話をしないのではなく、ちゃんと受け止めて跳ね返す力を持っている人たちがかっこいいと思います。そして、弱き存在をしっかり見つめて、その弱き存在のために何かを表現したりできる人。もっというと、そういう行動をしているにもかかわらず、そんなことを意識もしていない人に憧れますし、そうなっていきたいですね。

  

ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』

(C)Kansai Television

原作/柏木ハルコ 制作/カンテレ 放送/フジテレビ系毎週火曜21:00~
出演/吉岡里帆、井浦新、川栄李奈、山田裕貴、田中圭、遠藤憲一
新人ケースワーカー・義経えみる(吉岡里帆)が、先輩ケースワーカー・半田(井浦新)や同僚たちと共に生活保護受給者に寄り添い、福祉の現場で奮闘する姿を描く

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