言葉の壁を越え共同でゲーム制作 中国・清華大とHAL東京の学生

  • 2018年8月8日

清華大学の学生とHAL東京の学生らがゲーム制作を通じて交流した

世界のテレビゲームの歴史に、日本は大きな影響を与えてきた。“クールジャパン”の代表格として存在感を発揮する日本のゲーム開発は今、中国の名門大学生たちの目にどう映るのだろうか? 8月3日、専門学校HALが「清華大学」の学生を招いて開催した短期留学プログラムの最終日に密着した。

北京にある清華大学は、工学分野で世界トップレベルの大学。HALを運営する日本教育財団と友好協定を締結している。短期留学は昨年に続き2回目。ゲーム業界に多くの卒業生を輩出するHALで、日本のゲーム開発を清華大の学生に体験してもらうことにより、お互いの学生に日本のデジタルコンテンツ分野の理解を深めてもらおうというものだ。

独創的なアイデアでゲームを共同制作

新宿駅前にある50階建ての高層ビル。その25階にあるHAL東京の実習室は熱気にあふれていた。7月末に始まった6日間の短期留学プログラムも、いよいよ大詰め。学生たちは、グループで制作したゲームを発表するための準備に追われていた。

ゲーム制作の重要部分を担った清華大学の学生をHAL東京の学生らがサポート

「スゲー、よくできてるな」「あれ? 動かないよ」「ここキツくない?」といった会話に混じって、中国語も飛び交う。HAL東京のゲーム制作学科の3年生らと、清華大学の学生15人による共同作業。HAL東京に在籍する中国出身の留学生が、コミュニケーションを仲介していた。

取り組んだのは、日本の携帯ゲーム機でのゲーム開発。カリキュラム前半の講義で得た知識などを生かし、オリジナルのゲームをゼロから生み出そうというグループワークだ。企画段階からチームで話し合い、デザインやプログラミングなどを分担した。

実習室の一角で、2人の男子学生が1台の携帯ゲームの左右両側を持ち、交互に体を大きく揺らしていた。テストで遊んでいたのは「手押し相撲」を題材にしたゲーム。足を動かさずに体のバランスで勝負する遊びを、ゲーム機の傾きを認識するジャイロセンサーによって再現した。

従来の携帯ゲーム機と異なる操作のユニークなゲームが完成

「これを市販するのは厳しいかな。夢中になるとケンカになって危ないから」と1人の学生が話す。開発段階ならではの課題はあるものの、1台のゲーム機を2人で操作するというのは、なかなかまねできない独創的な発想だと言えよう。

上の画面で手押し相撲をするキャラクターは、日本ではあまり見ない独特のデザインだ。担当した清華大1年の呂松澤(ロ・ソンゼ)さん(19)は、北京で開催されたゲームコンテストでグランプリを獲得したことがある実力者。普段はプランニングを担当しているが、今回はデザインにも挑戦した。

「HALの学生の技術はすごい。特にプログラミングは心配する必要がありませんでした。今回の留学は短期間でしたが、チームワークを学ぶこともできたので、これを今後に生かしていきたいと思います」

将来はカードを使ったゲームの企画をしたいという呂さん。日本から仕事のオファーがあったらどうするかという質問には「興味のある仕事であれば、ぜひやってみたいですね。その前にまず、私自身が日本語をできるようになることが大切です(笑)」と答えた。

初めてのチームが3日間でゲームを完成

昼休みになり、学生たちは休憩に入った。校舎からは新宿駅前が見渡せ、東京都庁が目の前にそびえる。清華大生の1人は「東京という都市の、生活の質の高さを感じました。生活費は高そうですが」と話す。電車での乗客のマナーに感心する学生がいた一方で、朝の通勤ラッシュに驚いたという学生も。

ゲームの発表を前に最終調整を行う学生たち

居残りで作業を行うグループも多く、学生たちの積極性が感じられる。パソコンの画面に向かって、HAL東京の宗貞史樹さん(20)は頭を抱えていた。担当したのは、個々に作業していたプログラムを結合する、最終的な作業。試行錯誤を繰り返してようやく完成し、一息つくことができた。

「時間が限られていて、最終的な仕様はかなり変わりました。(アイデアを)切り捨てるのは簡単なんですけど、ゲームの面白さをどうやって保つのかを考えるのが大変でした」

アニメを学んでいる清華大の女子学生が、かわいらしい猫のキャラクターを描いた。タイトル画面に登場する猫は、ゲーム画面にはプログラミングの調整が間に合わなかったが、「だるま落とし」方式のゲームとして何とか完成させることができた。

優秀賞を獲得したゲームのプレゼン。ブロック崩しにアイデアを加えて白熱度がアップした

呂さんと一緒にゲームコンテストで優勝した清華大2年の金為開(キン・ウエイカイ)さん(20)は「大学ではゲームプランニングの授業はなかったので、今回はすごく貴重な経験でした。ゲームのレベルデザイン(空間や難易度などの設計)やシステムを、異なるユーザーが受け入れやすいように作る考え方を知ることができてうれしかったです」と話す。

学生たちを指導した教官の佐藤洋平さんは「今回の開発期間は約3日間。本来のゲーム開発は3日や4日で完成するようなものではなく、清華大とHALの学生がチームを組んでたったの3日間で完成したのは、逆にすごいことです。完成しなくても学べたことはあったと思うので、これからに役立てていただけたら」と話す。

クールジャパン発信のカギを握るのは

市場の規模も巨大な中国では、ゲームクリエーターを目指す若者はどんな状況に置かれているのだろうか? HALの中国出身留学生によると、中国国内のゲーム会社への就職は、非常に高い人気の「狭き門」。一方で、ゲームが社会的に悪いものと考える大人も多いそうで、その辺りは一昔前の日本と変わらないようだ。

日本のゲームや文化への人気は根強く、日本で就職したいという学生も多い。HALでゲームやCGなどを学ぶ約6700人の学生(東京・大阪・名古屋の合計)のうち、留学生は約30カ国から1000人以上。中国大陸や香港からの留学生も増えている。

プログラムの初日には「ポケットモンスター」シリーズのプログラマーによる特別講義も行われた(提供:HAL東京)

昨年に清華大の学生として短期留学に参加し、日本で就職した男性(26)は「中国では、日本の陰陽師をテーマにしたスマホゲームも作られています。(日中の人材交流は)今後も増えると思いますが、日本語と就労ビザの問題があります」と語る。

内閣府の「クールジャパン人材育成検討会」は今年3月、アニメやゲームなどクールジャパンの分野で高い能力を持つ外国人に対して、永住権を取りやすくする制度改正を行う方針を取りまとめた。日本文化を海外に発信する人材を増やそうという側面も大きい。

教官の佐藤さんは、日本でのゲーム開発に外国人が加わることに関して、「もう既に始まっているとも言えますし、今後も増えるはずです」と語る。「日本のゲームは国内だけに売るものが非常に多かったのですが、中国などの海外市場に進出したい企業も増えると思います」

グループごとに学生たちは表彰を受けた

ゲーム開発に限らず、仕事を進めるのにコミュニケーションは不可欠だ。通訳だけでは通じにくい部分について、金さんは「企画に関しては絵や図を描きながら、プログラムについてはソースコードによって、コミュニケーションを図りました」と振り返る。

言葉の壁を越えるために、お互いの“共通言語”となりうるものを駆使し、ビジョンを共有する。今回の短期留学プログラムは、双方の学生たちにとって、将来に向けての良い刺激になったようだ。

(文・写真 北林のぶお)

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