洗濯機にミシンにドラム…“内”と“外”をつくらないカフェ「喫茶ランドリー」(東京・墨田)

  • コミュニティー2.0
  • 2018年8月21日

喫茶ランドリー

東京都墨田区千歳2丁目。両国駅と森下駅の間に今年1月に突如現れたカフェが、いま注目を集めている。店の名は「喫茶ランドリー」。その名の通り、店内に洗濯機が置かれているちょっと変わったカフェだ。

客層は幅広く、それぞれが思い思いの時間をすごしている。オシャレな若者が本格コーヒーを楽しむかたわらで、ビジネスパーソンたちが打ち合わせする。ドラム式洗濯機の横で電子ドラムをたたく男性がいるかと思えば、店内に流れる心地よいBGMをプレイするDJの姿も。談笑しつつ洗濯物をカゴに詰め込む主婦のそばで、元気な子供たちが走り回る。大きな窓から差す日の光が心地よく、店内は柔らかな空気に包まれている――カフェというより「地域の人々の憩いの場」といった趣だ。

「お客さんが自分なりに使える私設公民館を作りたかった」

「喫茶ランドリー」は、株式会社グランドレベル代表取締役の田中元子さんが、とあるビルオーナーから事業相談を受けたことをきっかけに生まれた。墨田区千歳にある築55年の古いビルをどうにか活用したいという相談だった。この地域の住民でもあった田中さんが悩み抜いた末、考え出したアイデアは、「1階に、あまねく人々にひらいた家事室付きの喫茶をつくる」というものだった。

田中元子さん。1975年、茨城県生まれ。独学で建築を学び、建築コミュニケーター・ライターとして活躍してきた。2016年、建物の1階の企画・運営・デザインを行う株式会社グランドレベル設立

「この辺りは工場とか倉庫が多い地域だったのですが、10年ほど前からマンションへの建て替えが進んでいきました。ただ人口は増えているはずなのに、どういうわけか人通りが増えない。街としては、より生気を失っていく状態でした。なぜか? 元凶はマンションのエントランスホールにある――私はそう考えていました」

増え続けるマンション。その1階には、エントランスホールと駐車場しかないので、結果、通りはまさにただの通り道となり、周辺住人の顔が見えにくくなっている。それこそが街の活力を奪っているのではないか。田中さんは街の“課題”をそう捉えていたという。

「そんな折、『このビルをどう転用すべきか』という相談をいただきました。まず私が考えたことは1階を顔の見える場所にするということ。私は、街に住む人たちが、お互いを認識できている状況が、すごく重要だと思っています。たとえ直接的な関わりを持たないとしても、お互いの存在が視認さえできていれば、交流につながっていく可能性が生まれますから。住民が行き交い、滞留ができて、それが街からも見えて、お互いに『いろんな人がいるなあ』と感じられる私設公民館のような空間。そのとき、旅先のデンマーク・コペンハーゲンで出会ったランドリーカフェを思い出したんです。日本にもあんな場所があるべきだと思って、『じゃあ1階をランドリーカフェにしてしまおう』と思ったんです」

東京の住民は年齢や性別などで分けさせられている

多種多様なワークショップが開催される一方、誕生会やママ友の会といったアットホームなイベントにも使われている

ネットやSNSでのコミュニティーが一般化した今、リアルなコミュニティーが見直されつつある。事実、日本全国でそうしたコミュニティーづくりをしようという動きは活発だ。

しかし、「コミュニティーづくりそのものには全く興味がない」と田中さんは即答する。

「コミュニティーづくりを第一の目的にすると、どうやっても“内”と“外”ができてしまいます。もちろんいつも同じメンバーが来てディープな話をするサロン的なコミュニティーを否定するわけではありませんが、そこである種の壁ができてしまうと、それはもはや『公共』ではなくなります。私が目指すのは、閉ざされたサロン的空間ではなくて、あくまで『公共』の場。喫茶ランドリーは“内”と“外”の境界線をなくして、誰もが交流できる場所にしたかった。また、ふらっと来てくれた方が『ここなら私も何かできそうだ』と感じてくれるような空間にしたかったんです。だから、萎縮してしまうほどオシャレにならないように、バランスを考えつつ空間をデザインしました。それと、人間って真っ白な紙を渡されて『自由になんでも描いて』と言われると困ってしまう。でも、ちょっとした絵や補助線が引いてあるだけで、能動性を発露できるようになると思うんですよね。そういう意味では店内に置いた洗濯機も補助線の一つ。普段は家で孤独に家事をこなしている人たちが、能動的に他者と関わるきっかけになればいいと思ったんです」

4人いるアルバイトスタッフも元々はお客さん。お店のあり方に共鳴してやってきたのだとか

田中さんが理想としているのは、あくまで「誰もが偶発的に、自由につながることができる公共の空間」。もっとも喫茶ランドリーには(開かれた場所ゆえに様々なクラスターの人が訪れるため)小さなコミュニティーが無数に存在している。しかし、それらは個別にあるのではなく、緩やかにつながりあっているようにも見える。田中さんがしつらえた空間が、そうさせているのだ。

「コペンハーゲンのランドリーカフェもそうですが、外国には赤ちゃんもオフィスワーカーも、高齢の方も、いろんな人たちがひとつの空間にいる状況が普通にあります。ところが東京の商業施設のほとんどは、年齢や性別で細かくターゲティングされている。私たちは無意識のうちに、いる場所を分けさせられているんですね。それは、あまり健康的な状態とは言えません。喫茶ランドリーは、最初から人の顔が見える、あらゆる人の居場所にしようと思っていました」

田中さんは、「1000人がマンションに引きこもっている街よりも、100人が外に、街に出てきている街の方がよほど豊かだ」と語る。そのために必要となってくるのが公共的な場所というわけだ。

「喫茶ランドリーで示したこのモデルは、東京のここだけでなく全国でもつくることができると思っています。美味しいものとかオシャレなものを『提供する』『消費させる』場所は他にいくらでもあるので、私たちは『参加する』『自分なりに使う』ということを大事にしていきたい。極論、運営は地域の人に任せてしまってもいいかなって思っています。地域の人の判断で、たとえばカフェがお好み焼き屋になっていたとしても、公共の場として機能していれば、それで全然OK。むしろ理想です」

今現在、東京と神奈川の2カ所で新たな1階スペースをプロデュースするプロジェクトが始動しているという。グランドレベル(1階)に血を通わせ、人と人が交流できる公共の場所にするという彼女らの新しい試みは今始まったばかりだ。

>>喫茶ランドリーの写真特集はこちら

喫茶ランドリーを運営する株式会社グランドレベルの田中元子さんと大西正紀さん

喫茶ランドリー
住所:東京都墨田区千歳2丁目6−9 イマケンビル1F
営業時間:10:00〜20:00
公式サイト:http://kissalaundry.com/
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/kissalaundry/

取材・文/吉田大
撮影/今井裕治

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