インタビュー

詩人をしながら映画の世界に 海外からも注目される新世代の監督・中川龍太郎

  • 2018年8月18日

大学在学中に初監督した『Calling』がボストン国際映画祭でいきなり「最優秀撮影賞」を受賞。2作目の『雨粒の小さな歴史』はニューヨーク市国際映画祭で入選、2017年には『四月の永い夢』がモスクワ国際映画祭で「国際映画批評家連盟賞」と「ロシア映画批評家連盟特別表彰」のW受賞を果たすなど、世界から注目を集める映画監督・中川龍太郎(なかがわ・りゅうたろう)さん。高校在学時から詩人としても活動している中川さんに映画監督を始めたキッカケ、作品に対する思い、影響を受けた映画を聞いた。

――監督は高校在学時から詩人として活動していたそうですが、なぜ映画監督を始めようと思ったのでしょうか?

高校生の頃、自分の中で気持ちがあふれて表現しづらいものをノートやプリントなどに書いていました。心の中の葛藤やモヤモヤを自分に対してや当時好きだった子に向けて“渡せない手紙”として書いていたんです。

そのまま渡したら痛い奴になってしまうと思ったので、作品として活字で発表すれば、自分の気持ちがマイルドに伝えられるのではないか、と思い、雑誌や新聞に投稿したり、出版社に持っていったりしました。

詩は基本的に一人で書きますが、その表現だけでいると、僕の場合は社会との接地面がなくなるのではないかという不安がありました。映画は人と関わって創るものなので社会との接地面ができる。だから大学に入ってから映画を撮り始めました。

映画は多くの人と関わり、周りの人の才能を作品に取り込むことができます。行き詰まった時は、何かを原作にしたり、インスピレーションを与えてくれる被写体をもとに撮ったり、様々なアプローチが可能です。自分と対話する以外の向き合い方があることで可能性が広がると感じました。

――これまでの映画作品が生まれた過程を教えてください

第28回東京国際映画祭(2015年)の会場にて。中川監督(右から二番目)の右隣にはTokyo New Cinemaの代表、木ノ内輝さんの姿がある

母校の慶応義塾大学には、あまり映画の文化がなく、俳優さんは早稲田大学の演劇の人たち、スタッフは日本大学芸術学部の学生さんを呼んで、自分ができないことをカバーしてもらいました。バイト先で知り合った人に紹介してもらったり、中学時代の同級生の伝手を頼ったりしました。直接、会って好きになった人と一緒に映画を作りたいという想いは今も昔も変わりません。今のTokyo New Cinemaの代表の木ノ内輝さんと知り合ったのも、木ノ内さんが高校時代の同級生のお兄さんだったのがきっかけでした。

>>木ノ内輝さんのインタビューはこちら

2014年の第27回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門に正式出品された『愛の小さな歴史』という作品は、学生時代に本当に低予算の中で作りました。次に制作した『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2016年)は大学時代に自分に映画を撮るきっかけをくれた親友の死を題材にしています。実際に自分が感じた気持ちを作品の中で表現したいと思って作ってきました。

――これまでの中川監督の映画は「死」と「再生」を描いた作品が多い印象ですが、一番表現したいことは何でしょうか?

監督の友人の死を題材にして作られた『走れ、絶望に追いつかれない速さで』は疾走感のある作品 ©「走れ、絶望に追いつかれない速さで」製作委員会

“死”について描きたいと思っています。“死”を描くことは、すなわち“生”を描くことでもあります。人は成功しようが、失敗しようが、絶対に平等なのはいつか死ぬということです。その中で何を語り、どのように生きるのかが大事なのではないでしょうか。いつか死ぬことをわかりながら生きているのは、動物の中で人間だけだと聞いたことがありますが、そういう意味では「死」というテーマは“人間”らしいものなんでしょうね。

それでも、ただ暗い作品になってしまうと、多くの人に見てもらえなくなってしまいます。宮崎駿監督や黒澤明監督の作品には死生観が表現されていますが、しっかりとエンターテインメントとして成り立っています。そのように、なるべく多くの人に見てもらえる作品を作りたいですね。作品は自分の私生活からしか出てこないものがあり、自分が感じたことと、作品の中で表現することをすり合わせる作業が大変ですが、常にベストを尽くしたいとは思っています。

――中川監督が影響を受けた映画はありますか?

大学1年の頃に見たチャップリンの『街の灯』、北野武監督の『あの夏、いちばん静かな海。』です。『街の灯』はサイレント映画で、目の見えない花売りの女の子とチャップリン演じるホームレスとのラブストーリーで、『あの夏、いちばん静かな海。』は耳の聞こえないサーファーと女の子のラブストーリーです。

この二作品ともにとてもロマンチックな映画だと思っています。視覚や聴覚といった一つの感覚が「ない」ことによって、よりいっそう、なぜ人間は“人を乞う”のかということを言葉の説明なしに表現しています。僕もシンプルだけど美しい結晶みたいなものを映画で表現していきたい。それはこれからの日本の社会にとっても必要なものだと思っています。

多摩川の支流、野川が登場する『愛の小さな歴史』は父娘、兄妹の愛の物語 ©Tokyo New Cinema

――映画作りにおいてインスピレーションを受けている場所や人物はありますか?

僕はロケ地を大事にしていて、最初にどこを中心にどのような景色を撮影するのか決めます。テレビドラマの主人公は俳優さんかもしれませんが、映画における主人公とは風景だと思います。登場人物は風景の一部として大切なんであって、映画の主体そのものではないと考えています。

僕にとって故郷は特別な場所で、多摩地域や多摩川からよくインスピレーションを受けています。『愛の小さな歴史』に登場する多摩川の支流の野川は、自分の母親が幼い頃、よく遊んでいたそうです。居場所を求めて東京に出てきた若き日の祖父母が住んだのが野川の近くだったのです。そういう続いていく共有された場の力を感じて、物語を作っています。自分の個人史のようなものと作品を結びつけたい気持ちはずっとありました。それで『愛の小さな歴史』は家族の話にしました。

映画のストーリーの型というのはある程度、出尽くしていると聞くことがあります。その中で新しいストーリーを発見することはもちろん偉大なことですが、自分でしか作れないものを作ることそのものにこそ意味があると思っています。「誰を大事に思うか」「何が嫌いか」は己のオリジナルな感情であり、そういうものを作品に取り込むことも大切だと思いますね。

また、キャストはあえて探しすぎないようにしています。これまでオーディションをしたことは一度もありません。何かを探すのではなく、すっと自然な出会いの中で出くわしたものを大切にすくいとっていきたいという気持ちが今は大きいです。

――今後、日本の映画業界が発展していくためにはどうしたらいいでしょうか?

キャプション:「とはいえ、新しい俳優さんとの出会いはいつでもオープンにしていきたいです」と語る中川監督。人との縁を何よりも大事にしている姿勢がうかがえた

宮崎駿監督の映画や是枝裕和監督の『万引き家族』のような、作家性と興行性を両立できる作品を恒常的に生産できる工場があればいいな、と思っています。その工場が「Tokyo New Cinema」になればいいなとは思っています。

映画の内側の物語をどれだけ豊かにするかが大事だと思っています。例えば『となりのトトロ』のストーリーをはっきりと説明するのは意外と難しいと思うんです。しかし、トトロのモフモフ感やお母さんがいなくなるかもしれないという寂しさは、自分の心の故郷の一部のように記憶に残っていませんか? そういう表現の一つひとつが発明であって、そういう丁寧に紡がれたディテールを積み重ねることで、誠実に観客の方と向き合う以外に方法はないと思います。映画の外側の話以前に、まずはその内側がどれだけ豊かなのか、その豊かさに挑戦できる環境はどうやったら作れるのか、が大事だと思っています。

前提として、優秀な人が映画業界にたくさん入ってきてほしいですね。これからの時代における「優秀さ」とは「誠実に生きる能力」のことだと信じています。相手がどう思うかを察したり、何が正しいのかを判断したりするのは、誠実に生きていればわかることだと思います。映画の世界は薄給で厳しい労働環境ですが、できる限り優秀な人が継続して働ける環境を作っていきたいですね。

中川龍太郎(なかがわ・りゅうたろう)
映画監督。1990年生まれ、慶応義塾大学文学部卒。在学中『Calling』がボストン国際映画祭にて最優秀撮影賞を受賞。『愛の小さな歴史』が2014年東京国際映画祭にて公式上映。フランスの映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』にて「包み隠さず感情に飛び込む映画」として評価される。詩人としても活動し、やなせたかし主催「詩とファンタジー」年間優秀賞を最年少で受賞。2015年 TEDx 登壇者。日本映画の新鋭として世界的に注目されている。

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