私の一枚

撮影中は東出さんと濱口監督の二人に恋をしていた 映画『寝ても覚めても』ヒロイン・唐田えりか

  • 2018年8月27日

『寝ても覚めても』のクランクアップ時に。濱口竜介監督と。

昨年の8月末、映画『寝ても覚めても』のクランクアップの時に濱口竜介監督と撮った1枚です。私はヒロインの泉谷朝子を演じました。初めていただいた本格的な映画のお仕事でした。監督は「毎日、朝子を見るのが楽しみでした」と言ってくださって、本当にうれしかったです。

監督に初めてお会いしたのは、この映画のオーディションでした。いつもは気合を入れて「受かるぞ!」と意気込んで向かうのですが、この時はなんだか気が抜けていて「今日はもういいや」なんて思っていました。

オーディションの最中も、監督に「演技を楽しいと思えない」と言ってしまったり、そのくせ「最後に質問は?」と聞かれると「やりたいです!」と答えたり。なぜそんな状態だったかというと、その頃、演技についてとても悩んでいたからです。

子供の頃はモデルさんになりたいと思っていました。高校2年の時、マザー牧場でアルバイトをしているところを今の事務所のスタッフさんにスカウトしていただき、田んぼと山ばかりの千葉の田舎から高校卒業と同時に東京に出ました。

母には「20歳になるまでに仕事の先が見えてこない時や、楽しいと思えていなかったら、ちゃんと将来について考える」と伝えていました。

最初の3カ月ぐらいは「東京ってすごい!」と希望に満ちあふれていました。でも都会の生活に慣れてくると、現実との戦い、自分の無力さとの戦いが待っていました。演技にはどうしても苦手意識があって、頑張らなきゃいけないのに、楽しくない。先輩たちの素晴らしい演技を間近で見ては、同じようにはできない自分に落ち込んでいました。

1日が終わって家に帰り、窓から都心の夜景を見るだけでなぜか泣けてしまう。普段はあまり母に泣き言を言うタイプではないのですが、泣きながら母に電話して、「もうやめたい」とこぼしたこともありました。

そんな時期に受けたのが、『寝ても覚めても』のオーディションでした。

私が演じた朝子は、自分の感情を抑えず、直感で行動してしまう女性です。濱口監督はオーディションでの私の様子には困惑したそうですが、後日、手紙で「他の人になろうとしていない声で話す唐田さんを見て、この人なら朝子の気持ちを表現できるのではないかと思った」と、私を選んだ理由を教えてくださいました。気負わずにオーディションを受けたことが良かったのかもしれません。

©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

監督は、現場ではカメラの横や下から自分の目で演技を見ています。モニター越しだと、役者さんが商品やモノに思えてしまうからだそうです。それを聞いて、監督はちゃんと私を、朝子を見てくれている、と安心できました。

東出昌大さん演じる亮平と麦の恋人役ですから、撮影中は、本当に東出さんに恋をしているような気持ちでいましたが、撮影が終わってから「私、監督にも恋をしていたんだな」と気がつきました。監督のために頑張りたかったし、監督がOKを出してくれるのが何よりの安心感でした。クランクアップの後も、いただいたお手紙を読み返してしまったりしています。

この作品がカンヌ国際映画祭に出品されると聞いた時、びっくりして、もちろんうれしさもありましたけど、「濱口監督なら当然だよな」とも思いました。

『寝ても覚めても』に出演したことで、私は初めて演じることに前向きになれました。ようやく女優としてのスタート地点に立つことができたと思っています。もし、この先仕事で不安になることがあっても、「きっと濱口監督が支えてくれるから大丈夫」って勝手に思っています(笑)。

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からた・えりか 1997年、千葉県生まれ。2014年に芸能活動を開始。2015年、CMに出演し話題に。以後、『こえ恋』(2016年/テレビ東京)、『トドメの接吻』(2018年/日本テレビ)、映画『ラブ×ドック』(2018年)に出演する一方、雑誌『MORE』(集英社)の専属モデルとしても活動。第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された映画『寝ても覚めても』は、9月1日(土)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほかで全国公開。出演は東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)、仲本工事、田中美佐子。

  

9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開

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現場ではニックネームで呼び合おうということになって、東出さんは「でっくん」、瀬戸康史君は「とっち」、山下リオちゃんは「りっちゃん」、伊藤沙莉ちゃんは「さいり」で、渡辺大知君は「だいちくん」。濱口監督は、家で奥さんとしゃべる時だけ、私を「からぽん」と呼んでいたそうです(笑)。

東出さんは、みんなをご飯に誘ってくれたり、「タメ口で話そう」と提案してくれたりしながら、演じやすい空気を作ってくださいました。撮影に入る前の日も、「不安はない? 緊張して寝られないんじゃない?」と優しいメールをいただいたのですが、その時、私はもう撮影が楽しみで仕方なくて、普通に寝ていました(笑)。

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でも、それができたのも、東出さんが居心地のいい雰囲気を作ってくださっていたから。だから本当に感謝しています。

(聞き手・髙橋晃浩)

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