本を連れて行きたくなるお店

列車で味わう駅弁と缶ビールの心地よさ 横浜・崎陽軒の「シウマイ」

  • 文・写真 笹山美波
  • 2018年8月29日

カフェや居酒屋で、ふと目にとまる、ひとり本を読んでいる人。あの人はどんな本を読んでいるんだろうか……。なぜその本を選んだのだろうか……。本とお酒を愛する編集者で鰻(うなぎ)オタクの笹山美波さんは、本の中の物語が現実世界とつながるような、そんなお店に連れて行ってくれます。

  

大人になった今、旅の楽しみといえばお酒だ。旅先のお店で飲むお酒は無論格別だが、移動中の列車で飲むことも好きだ。限られた時間の中で、“楽しめない”お酒を飲む特別さがある。

お酒とアテを何にするかを選ぶ時間も大切にしている。駅の売店には様々な種類が並んでいるのでつい悩んでしまうが、私のお気に入りは、崎陽軒の「シウマイ」。移動時間が短い時は「昔ながらのシウマイ」が6個と、醤油(しょうゆ)と辛子が入った「ポケットシウマイ」を選ぶが、長旅になりそうな時は定番の「シウマイ弁当」にする。これと1本の缶ビールをチビチビ飲むのが大好きだ。

なんてったって、崎陽軒のシウマイは冷めていてもおいしいのが偉い。豚肉はプリプリだし皮はしっとり。干し貝柱のスープと身をタネに使い、いつでもしっかりうまみが感じられるよう工夫されている。

ポケットシウマイ(300円)。小腹を満たすのに丁度いいプチサイズ

横浜駅と移転の歴史と共にする崎陽軒

『駅弁掛紙の旅』は「交通新聞」の連載『掛紙停車』を加筆修正してまとめた一冊。列車が描かれた掛紙のコレクションも特別に掲載されている

崎陽軒のシウマイが誕生したのは1928(昭和3)年。当時の横浜中華街では料理の「突き出し」に焼売(しゅうまい)が出されており、泉和夫さんの著書『駅弁掛紙の旅』によれば、それに注目した崎陽軒は中華街の点心職人をスカウトし、あの「冷めても美味しいシウマイ」を開発。1954(昭和29)年に「シウマイ弁当」を発売するとたちまち人気を集め、今や1日3万食を超えるベストセラー商品に。

シウマイは横浜の名物駅弁だが、実は横浜駅が1872(明治5年)に日本で最初の鉄道駅として今の桜木町駅に開業してから、2回移転していることはあまり知られていない。東海道線が延伸すると立地の難を解決するため、1915(大正4)年に今の高島町駅付近に2代目として移転。だが、10年と経たずに関東大震災で焼失。その後3代目・横浜駅が現在の場所に建てられた。崎陽軒も横浜駅の引っ越しのたび、拠点を移して来たそうだ。

桜木町の公園でシウマイ弁当(830円)を食べた。外でつつく駅弁もまた美味しい。シウマイのほか、俵型のご飯、タケノコ角煮、ブリの照り焼き、かまぼこ、玉子焼きなどが入っている。発売当時から中身はほとんど変わっていない

桜木町駅には初代横浜駅の歴史を伝えるパネルがある(左)。桜木町駅改札内の崎陽軒(右)

駅弁を食べて、街の歴史や変遷を辿る

『駅弁掛紙の旅』では、駅弁の蓋(ふた)にかぶせられている”掛紙”の収集家で元国鉄社員の泉さんが、新宿駅なら「田中屋のとりめし」、横川駅なら「荻野屋の峠の釜めし」といったコレクションを紹介している。

当時の鉄道事情や歴史、観光地も解説されていて、旅のガイドブックとしても楽しめる。私のように本を読みながら駅弁を食べ、ゆかりの駅を学びながら観光するのもお勧めだ。

記憶が正しければ、私が初めて食べた駅弁は東京駅で買った「深川めし」だったと思う。大学時代の夏休み、貯めたバイト代で1人で乗った新幹線の中で食べた。深川めしは東京駅の名物弁当で、掛紙には江戸の漁師の絵が描かれており、渋くてかっこいいと感じて選んだ。

何かの縁か、それはその後、一人暮らしを始めることになる江東区深川の昔の姿だった。その時の掛紙は捨ててしまったが、思い出深い駅弁だ、次に食べる時は掛紙を大切にとっておこう。

持ち帰った「シウマイ弁当」の掛紙をよく眺めてみると、横浜のランドマークが描かれていることに気がついた

新幹線で楽しむお酒は、大人だけに許された至福のひととき

子供の頃を振り返ってみると、家族旅行ではいつも母親の作るお弁当を食べていたので、ずっと駅弁を食べたことがなかった。幼い私が泣きわめくと迷惑がかかるという理由で個室席を使っていたこともあって、好きな駅弁をつまみながら酒を飲む隣の車両のサラリーマンたちが何だか自由に感じられて、憧れていた。

自分が社会人となり、旅行や出張で新幹線に乗るようになると、さっそく駅弁を買ってビールを飲んだ。やっと彼らの仲間入りができたことがすごくうれしかった。

お金も時間もかかるので、いつでも気軽に楽しめることではないが、揺れる列車の中で駅弁を食べてお酒を飲む時間が大好きだ。

車窓の景色を眺めつつお酒を飲んでいると、不思議とエモーショナルな、心地よい気分になれる。行きのお酒は旅の浮かれ気分を盛り上げ、帰りには思い出に浸る感傷的な気持ちを慰めてくれる。

そんな心和らぐ時間が、恋しくてたまらない。

    ◇

崎陽軒 桜木町駅店
京浜東北線・根岸線 桜木町駅改札内
営業時間:8:00-20:30

筆者プロフィール

笹山美波

笹山美波

「東京右半分」に生まれ育つ。編集記者を経て、外資マーケティングサービスのWebプロデューサー、マーケター。ライター。鰻オタク。東京と食に関連する歴史/文化/文学/お店を調べるのがライフワーク。
・ブログ
http://minamii.hatenablog.com/
・Twitter
https://twitter.com/mimi373mimi

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