ローカルヒーロー

ローカルヒーロー:下里健城編 人と町につながりを作るクリエイティブ農家

  • 文・写真 ミネシンゴ
  • 2018年9月4日

いま、自分の暮らし方を考えて、朝晩ずっと都市に身を置くことに違和感を覚える人も少なくありません。美容師から会社員を経て、自身が編集する美容文藝誌「髪とアタシ」をはじめとした、カルチャー誌の編集者として生きるミネシンゴさんもそのうちのひとり。東京を拠点に仕事をしながらも、8年間住んでいた逗子から三浦半島の三崎へ移り住んだミネシンゴさんが、新しく出会う人や街の景色は、これからの暮らし方をそっと教えてくれます。

    ◇

三崎に引っ越して10カ月が経った。人との出会いは突発的に生まれる。そう感じるのは、事務所兼蔵書室「本と屯(たむろ)」ができてからだ。自分の居場所が住居とは別に、固定された場所にあること。町に開かれた状態を保っていることで、そこに集まる人たちがいることを知った。週末営業と謳(うた)っているものの、なにかと気になって自分自身が一番「本と屯」している。平日になんとなく開けて原稿を書いたり、郵送手配をしたり。午前中は猫しか通らない商店街も、昼過ぎになるとわらわらと人が出てくる。

つい先日、高校の同級生が突然来訪した。おそらく10年ぶりの再会だと思う。ぼくのSNSを見て、なんの連絡もせずに、突然現れた。友達の縁も有効期限があるように思えて、ぼくも今まで連絡しないでごめん、という気持ちになった。

人とのつながりはそれぞれの長さや太さでつながっていて、切れかけているものもあれば、放っておいても問題ないものもある。メンテナンスに気を配っていなくても、どんどん新しい紐が増える。

それぐらい人との出会いは突発的に生まれていく。

  

今回の主人公・下里健城くんとの出会いは、第2話で紹介した岩崎さん(「ぼくを三崎に連れてきてくれた人」参照からの紹介だったと思う。三崎に来て初めて「農家さん」と友達になった。鎌倉や逗子に住んでいたときはなかなか出会わなかった一次産業に従事している人たちと、この町ではよく出会う。自然を相手に仕事をする人たちは、とにかくかっこいい。Tシャツの袖をまくりあげて、真っ黒に日焼けした顔、くわえタバコをしながら「もうキャベツ運ぶの疲れましたよ」なんて言っている。代々農家の次男坊で、車の塗装屋の仕事を辞めて、実家の農家を継いだ。

  

彼と会うと、いつも子供に戻ったような気分になるのはなぜだろう。土を踏み、時間ができれば海へ潜りに行ってサザエを採ってくる。愛犬のエリーと戯(たわむ)れて、レゲエを聴きながら野菜の仕分けをする。まるで川の流れのように、滑らかに時間が過ぎていく。没頭、とはまた違った自分だけの時間がしっかりと、脈々と流れていることがわかる。

  

彼は人のスケジュールではなく、自然のスケジュールに合わせて生きている。太陽の浮き沈み、雲の流れ、風の強弱。普段ぼくが感じないことを感じながら生きている。

自分はその感覚を忘れてしまったのか、それとも感じようとアンテナを張っていないのか。感じようとすれば感じることができるのか。見ようとすれば、見えるのか。そんなプリミティブな感覚に、彼に会うといつもなる。

  

「軽トラに乗って畑いきましょうよ」

彼の誘いを受けて荷台に飛び乗った。地面に転がっている石をタイヤが踏む感覚を感じて、細く頼りない自分の腕にため息をついて、荷台の縁につかまる。

でっかい空と、畑から見える海を見て、この土地に引っ越してきてよかった、なんて思う。感じようとすれば感じられるこの感覚に、久しぶりにうれしくなった。三崎に引っ越したのに、相変わらずファストライフを送っている自分は、いとも簡単に感化されてしまう。

  

「野菜には、いじめていいやつもいれば、めっちゃかわいがってやんなきゃいけないやつもいるんすよ。トマトはいじめ抜く。水もなるべくやらず、肥料も最低限。逆にきゅうりとかは優しく接します」

野菜を育てたことがない自分にとって、これも目からウロコ。全部優しくしちゃいけないんだ。

「うちの親父は誰もやっていないやり方で大玉スイカを作っている。何十年も農家やってても、収穫率20%のときもある。未来のことなんてわかりませんからね。今目の前のことやるだけす」

  

そんな健城くんも、未来のことを見据えた活動をしている。自分の農場を会場にした音楽フェス「M town Festival」を昨年から開催しているのだ。

下里家の長男の大樹さんがDJということもあり、採れたて野菜のBBQや三浦産の果物を使ったドリンク、地元のお店も出店するフェスだ。そもそものきっかけは、下里家がある三浦市宮川町で、若い人が減って地元のお祭りが開催できなくなったこと。彼は、なんとか違う形で祭りの文化を継承したいと考えた。

そして企画された「M town Festival」は、地元の子供も参加できるような音楽と食の融合を目指した。昨年は200人以上の人が参加した。今年も9月に開催される。

  

何もなかったところから、野菜をつくる。誰もやっていないやり方で挑む。それも予測不能な自然を相手に。

農業はとてつもなくクリエイティブな仕事なんだと腹落ちした瞬間、健城くんはまぎれもなく“ローカルヒーロー”だと感じた。分断ではなく、つながりを生む仕事。自然と地元を敬愛して、新しい風を吹かせる。三崎にはまだまだ、ローカルヒーローがたくさんいるはずだ。

M town Festival
2018年9月8日(土)9日(日)
https://mtownfestival.wixsite.com/mtownfestival

アタシ社より刊行された写真集「南端」

写真集「南端」
(アタシ社)

筆者プロフィール

ミネシンゴ

ミネシンゴ

夫婦出版社アタシ社代表 編集者
1984年生まれ、神奈川県出身。
美容師、美容雑誌編集者、リクルートにて美容事業の企画営業を経験後、独立。
「美容文藝誌 髪とアタシ」、渋谷発のメンズヘアカルチャーマガジン「S.B.Y」編集長。
渋谷のラジオ「渋谷の美容師」MC。web、紙メディアの編集をはじめ、ローカルメディアの制作、イベント企画など幅広く活動中。
8年住んだ逗子から、三浦半島最南端の三崎に引っ越しました。
アタシ社の蔵書室「本と屯」を三崎の商店街で12月にオープンさせた。
・Twitter
https://twitter.com/mineshingo
・アタシ社
http://www.atashisya.com/

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