大御所シェフのいつものごはん

3000円のコースで仏産ムール貝からフォアグラまで! コストパフォーマンスの高い六本木のフレンチ (ブーケ・ド・フランス)

  • 2018年9月14日

  

卓越した技術・味覚・知識を持つ料理界のトップランナーが、行きつけの飲食店を明かす当連載。今回は中國名菜「孫」のオーナー孫 成順さんが通う六本木のフレンチ「ブーケ・ド・フランス」を紹介します。

今回の大御所シェフ

孫さん

孫 成順(そん せいじゅん)さん
中国・北京市生まれ。父も特級厨師(1988年「飲食服務業業務技術等級標準」公布前までの中国における最高位調理人の国家資格)という家庭で育ち、16歳で本格的な料理修業の道へ。中国史上最年少の25歳で特級厨師を取得。91年に来日し、有名ホテルやレストランの料理長を歴任後、07年「中國名菜 孫」を六本木に、10年には阿佐谷店と日本橋店をオープン。テレビの料理番組や調理師学校の講師としても活躍している。

超多忙なトップ料理人が唯一の外食をする店

NHKの情報番組「あさイチ」の “夢の3シェフ競演”や、朝ドラ「まれ」の“謎の中国人シェフ”役で、すっかり有名人になった孫 成順さん。テレビではユーモアあふれるトークで人気だが、その実像は超絶技巧と膨大な知識の持ち主だ。

特級厨師の国家資格には、腕だけでなく中国料理史を講義できるだけの博学が求められ、50歳前後でやっと取れるのが普通。25歳で取得するためには、血のにじむような努力をした。若くして取ったゆえの苦労が多く、その後もいっそう努力した。

いまも「仕事ばっかり」で、テレビの食べ歩き番組以外は外食する時間もない。唯一の例外で、忙しい時間をぬってでも通うのが、フランスの郷土料理を得意とする「ブーケ・ド・フランス」だ。

六本木駅から徒歩3分ほどの距離にあるブーケ・ド・フランス

孫さんが「ブーケ・ド・フランス」を大好きなのは、料理作りを夫の井本秀俊シェフが、サービスを妻の原田陽子マダムが、それぞれ全部一人でやり、一から十まで心がこもっていて「すごく安心できる」から。「よい材料に手間をいっぱいかけて最高においしいのに、値段はびっくりするくらい安いです」と手放しの絶賛だ。

「ブーケ・ド・フランス」は今年で創業20周年。華やかなイメージで見られがちなフレンチだが、がっしりと骨太な料理が楽しめる店として知られている。男性の一人客が目立つのは、オトコが自分へのご褒美として行きたくなる店だからかもしれない。

ブーケ・ド・フランスを切り盛りする井本秀俊シェフと原田陽子マダム

今回、孫さんが注文したのは、3000円(+消費税、サービス料)のランチコースだ。

3000円コースは、前菜が4種類からひとつ、メインディッシュは魚料理と肉料理どちらかをチョイスする。これに突き出しとデザート、コーヒーまたは紅茶と小さなお菓子がつく。つまり、次々と5回も違う皿がサーブされるわけだ。

昼食に3000円と聞くと、一瞬ひるむかもしれないが、5で割ると1皿が600円。テーブルクロスもナプキンも布(ランチタイムは紙で代用する店が多い)なので、非日常のぜいたく気分も味わえる。

高品質な材料、手間ひまかけた調理、行き届いたサービス。三拍子そろったコースを、この値段で提供できるのは、ひとえにシェフとマダムが骨身を削っているからだ。人を雇わず、二人でこなしているからこそ可能。頭が下がる。

いまだに「高い」「入りづらい」「堅苦しい」といった、フランス料理に対する先入観は健在だが、このコースは掛け値なしに高コストパフォーマンスな「食べ得」ランチである。

原田さんは、ウィットに富んだ会話、絶妙な気遣いで人気の名物マダム。フランス料理になれていなくても、肩の力を抜いて食事ができることを保証する。

フレンチ界トップクラスの豚料理

井本シェフがとくに力を入れているのが、豚肉。フレンチ界では、「豚料理だったら、ブーケ・ド・フランス」との呼び声が高い。テーブルの上や棚など、店内のいたるところに豚グッズがところせましと飾ってある。みんな客からのプレゼントだ。

店内には豚の置物がいたるところに。その数は優に50個を超える

今回、孫さんが選んだメインも豚が主役。豚ミンチ肉の中心にフォアグラを詰め、パイで包んで焼く。「パイがサクサクで、肉がとてもジューシー。ソースに酸味があって、さっぱり食べられるね」と、パクパク。おいしいものほど、食べるのが速くなる。

「中国料理は豚肉がベースなので、井本シェフの料理はすごく勉強になる。食べると料理に対する気持ちが同じだということがよくわかります」(孫成順さん)

熱々のパイにナイフを入れると、豚肉と洋酒のえも言われぬ香りが立ちのぼる

中心にはフォアグラが。ボリュームも満点

豚の魅力は、内臓も足もしっぽも頭も、捨てるところがいっさいなく、各部分の特徴を生かせるところ。たとえばランチの定番前菜「グルニエール・ド・メドケーヌ」は、豚の胃袋の中に、豚のタンや頰肉、耳などを詰め、スパイス入りの塩水でゆでる。ワインの名産地、ボルドー地方メドックで古くから作られているテリーヌの原型だ。一口にいろいろな食感がミックスされていて、日本人は食べたことのないような“斬新なモツ”の味である。

日本ではなかなか食べられない珍しい前菜「グルニエール・ド・メドケーヌ」

もうひとつの定番「ジャンボン・ペルシエ」は、豚もも肉のハムとパセリを煮こごり風にかためたブルゴーニュ料理。もちろんハムも自家製で、完成までに数日かかる。

突きだしとしてミニサイズの「ジャンボン・ペルシエ」

ランチコースにモンサンミッシェル産のムール貝も!

肉より魚介類が食べたいという人も、ご安心を。前菜とメインディッシュとも、必ず1品は用意している。

今回びっくりしたのは、前菜の「モンサンミッシェル産ムール貝の白ワイン蒸し」。

世界遺産に登録されている北フランスの小島、修道院で名高いモンサンミッシェルで養殖されるムール貝は、フランスで海産物として初めて原産地呼称(AOC)を取得した超ブランド素材。とろけるようになめらかな口当たりで、風味が濃い。これが3000円ランチで食べられるとは!

ムール貝を貝殻でつまむと食べやすい

メインの魚料理、北海道産本マスのコロッケは、ポテトコロッケとクリームコロッケのいいとこ取りで、懐かしい味がして親しみやすい。ソースからはサフランと甲殻類の香りが漂い、コロッケと見事に調和する。

脂がのった本マスの身がたっぷり入ったコロッケ

赤ワインで煮たトマトに、ココナツアイスをのせたデザートには、孫さんもびっくり。

「僕もトマトをデザートに使ってみよう。ワインだと洋風の味になっちゃうから、桂花陳酒(キンモクセイの花を漬け込んだ中国酒)がいいかな」(孫 成順さん)

井本シェフも、孫さんの中国料理を食べては、ヒントを得ることも多いそうだ。

トマトのみずみずしさは感動的。ココナツアイスとの相性の良さに驚く

「一生懸命に働くのが、お客さんへの責任」が孫さんの信念。以前の中国では、日本と同じく徒弟制度の伝統と、職人に対する尊敬の念があり、一人前の料理人になるために厳しい修業に耐えたものだが、「いまの若者は根性がなくてぜんぜんダメ」と嘆くことしきりだ。

だから、なにひとつとして妥協せず、気持ちの入った料理でもてなしてくれる「ブーケ・ド・フランス」は、孫さんがもっとも理想とするレストランのかたちなのである。

料理談義に花を咲かせる孫さんと井本シェフ

   ◇  ◇  ◇

■店舗情報
ブーケ・ド・フランス
東京都港区六本木7-10-3 小林ビル2F
大江戸線、日比谷線「六本木」駅より徒歩3分
03-3497-1488
営業時間:11:30~13:30(L.O) / 18:00~21:30(L.O)
定休日:火曜、第三水曜
ブログ:https://bouquetmme.exblog.jp/
FBページ:https://www.facebook.com/162683753801935/

■大御所シェフの店
中國名菜「孫」本店
http://www.son-seijun.com/
東京都港区六本木7-6-3 喜楽ビルB1F
大江戸線、日比谷線「六本木」駅より徒歩5分/千代田線「乃木坂」駅より徒歩5分
03-5785-3089
営業時間:11:30~15:00(L.O.14:30)/ 17:30~23:00(L.O.22:00)
定休日:なし

□筆者プロフィール
畑中三応子(はたなか・みおこ)
編集者、ライター、フードジャーナリスト。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけるかたわら、流行食関連の研究や執筆も行う。著書に『ファッションフード、あります。――はやりの食べ物クロニクル 1970-2010』(紀伊國屋書店)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』(春秋社)など。

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