いしわたり淳治のWORD HUNT

「別の人の彼女になったよ」と言い続ける真意とは……? トップ作詞家が絶賛した歌詞

  • いしわたり淳治のWORD HUNT〈vol.11〉
  • 2018年9月20日

  

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の六本だ。

 1 “別の人の彼女になったよ”(wacci)

 2 “金足農”(秋田県立金足農業高等学校)

 3 “「×」はやべえ”(株式会社LEOX代表・服部玲央)

 4 “お部屋探ししかできないもんで”(賃貸情報サイトminiminiテレビCM )

 5 “超いにしえ”(友近)

 6 “無”(中尾彬)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 いま気になる六つのフレーズ

  

歌詞を書く時はキャッチコピーを作るような感覚というのも大事で、聞き手をつかむ一言を書けるかどうかは、作詞をする者の永遠の課題とも言える。wacciの新曲は、「別の人の彼女になったよ」の一言で始まる。なんとも素晴らしい「つかみ」である。

「別の人の彼女になったよ」なんて言葉は、別れた彼女が元彼に言う以外にありえない一言なのだが、だからといってそんなことをわざわざ言う女性はほとんどいないわけで、そう考えると誰もが普段は目や耳にしたことのない言葉ということになる。そんな聞き慣れない言葉なのに、誰もが瞬時に意味が分かって、登場人物たちを取り巻く環境や心情までをも勝手に想像してしまう。コピーライティングとしても素晴らしい一言である。

想像してみてほしい。駅で電車を待っている女の子の写真に、仮に「別の人の彼女になったよ」という文字を載せてみたとする。すると、どうだろう。何げない写真から勝手に物語が立ち上がってくる感じがないだろうか。こういう“勝手に物語が立ち上がってくる言葉”というのは、すぐに見つけられそうで、探してみるとなかなかない。

歌詞は、新しい彼氏はフェスではしゃがないし、余裕があって大人だし、映画を見ても泣かないし、どんなことでも詳しくて尊敬できるし、キスや態度だけじゃなくちゃんと「好きだ」って言うし、けんかもしないし、むしろ怒るところがどこにもない、と新しい彼氏ののろけを延々と続けるのだけれど、それが強がりで、本当は元彼に会いたいと思っていることがだんだん分かってくるシステムになっている。コピーライティング力もあって、展開の技術力もある。これからが楽しみなバンドだ。

【動画】wacci 『別の人の彼女になったよ』Short Ver.

  

今年の夏の甲子園の金足農業の快進撃はすごかった。吉田輝星投手の投球が素晴らしかったのはもちろんのこと、雪国である秋田県代表の公立高校がチーム一丸となって決勝へと勝ち進む姿は見る者の胸を熱くした。そして、それとは別に、スコアボードに映し出される「金」「足」「農」という三つの漢字が醸し出す、素朴さ、温かさ、懐かしさが何とも素晴らしいなと思った。

マクドナルドを世界最大のハンバーガーチェーンに成長させた実業家レイ・クロックを描いた「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」という映画がある。その中で、フランチャイズ化の権利を巡って創業者のマクドナルド兄弟と対立したレイが、なぜマクドナルドという店名にこだわるのかを語るシーンがある。彼は「マクドナルドという店名は、いかにもアメリカらしい、感じのいい、人をひきつける響きを持っている。“クロック”なんて名前の店に誰が来るかって言うんだ」と言うのだ。

「金足農」は、日本人の心を文字としてもひきつけたように思う。出場校のほとんどが私立高校になり(編注:第100回全国高校野球選手権大会は出場56校中、私立48校、公立8校)、県を越えての野球留学も当たり前になった昨今、地元の選手だけで構成された金足農の活躍は、より「純度の高い青春」として日本国民の目に映ったのではないだろうか。素朴さを感じさせる校名が、その熱狂に拍車をかけたように思う。

  

テレビ朝日系のバラエティー番組『激レアさんを連れてきた。』9月10日放送の「小学校に6日しか通わなかったので、ウソみたいに何にも知らなかったけど、スーパーマーケットのバイトだけで文字や常識を学び、超やり手の社長にまで上り詰めた人」の回でのこと。

“石を投げればヤンキーに当たるほどのヤンキー密集地帯”で育ったハットリさん(株式会社LEOX代表・服部玲央さん)は、15歳まで自分の名前もひらがなでしか書けず、漢字もカタカナもまったく読めない、計算は指10本でできる範囲の足し算引き算しか出来ない、という状態でスーパーで働き始め、そこでの仕事の中で、漢字(商品ポップを書く)、計算(在庫管理)、理科(水は冷やすと氷になるのか!とか)などを学んだのだそう。

そんなハットリさんだから、初めて計算機に出会った時、もちろん感動したのだそうだが、怖くて「×」が押せなかったらしい。掛け算の存在を知らなかったため、これは押してはいけない、“「×」はやべえ”と思っていたのだという。何だろう、そのピュアな視点は。

こういうセリフを聞くにつけ、やっぱりノンフィクションにはかなわないなぁ、とつくづく思う。私もときどき小説を書かせてもらうけれど、登場人物のセリフはすべて想像して書くわけで、仮に学校に行っていない登場人物が出てきたとしても、“「×」はやべえ”なんてセリフは思いつかないと思う。いやはや。事実は小説より奇なりとはよく言ったものである。

彼は、他にもスーパーで初めて目にしたシャープペンシルのことを「削らないでいい無限の鉛筆」、ボールペンのことを「消しゴムに勝つペン」など、かなり独特な名前で呼んでいた。しびれるなあ。そのセンス。すてきだ。

  

オフィス街のビルの屋上で缶コーヒーを飲みながら、先輩社員がミニミニマン扮する後輩に「どうしてあんなこと言っちゃうかなあ。もっと上手に世渡りしろって。お前って本当に不器用だな」と言う。するとミニミニマンは、うつむいたまま「お部屋探ししかできないもんで」とボソッと言う。

このCMを見て思った。何か失敗したときは真正面から謝るよりも、「〇〇しかできないもんで」と自分の得意なことを悔しそうに言う方が、もしかしたら結果的にその場はポジティブな着地になるのではないだろうか。

例えば、仕事以外のことで何か失敗した時、大工が「家を作ることしかできないもんで……」、美容師が「髪を切ることしかできないもんで……」、魚屋さんが「魚のことしかわからないもんで……」。

日本人は、どこか「不器用」を美徳とするところがある国民性なので、これは本当に使えるような気がする。私もいつかどこかで失敗した時は「歌詞を書くことしかできないもんで……」と言ってみようかしらと思う。

ところで、この「〇〇しかできないもんで」は、おそらく高倉健さんの名言「不器用ですから」に由来していると思うのだけれど、この言葉が2018年現在も皆の日常生活の中で普通に機能しているという息の長さが、あらためてすごいなと思う。ちなみに余談だけれど、今年改定された『広辞苑 第七版』には「高倉健」という言葉が載ったのだそう。広辞苑って面白い。

【動画】不器用な世渡り篇

  

友近さんが時代遅れの価値観を押し付けてくる人に対して、よく「超いにしえ」と言う。この言葉が好きで、私もときどき使う。だからどうってことはないのだけれど、すごくポップで使い勝手がいいので、皆さんも年上の人と話していてジェネレーションギャップを感じたときなどは、笑顔で「超いにしえ〜」と言ってみてはいかがでしょう。近頃世間で話題のパワハラやモラハラといった問題も、おそらくご年配の皆さんの「超いにしえ」な考え方から来ていると思うので、それを軽やかに指摘する意味でもこの言葉はいいと思う。

  

中尾彬さんが作った自分の墓には、名字ではなく、大きく『無』と彫られてあるのだそう。「どうせみんないなくなるんだから」という意味らしい。

お盆時期、墓参りをしながらふと思った。お墓か。自分なら何と刻むだろう。好きな言葉を彫るのも妙に照れ臭い。ましてや、自分の書いた歌詞なんてもっと恥ずかしい。そう考えると、墓参りに来てくれた人へのメッセージを彫るのがいいかもしれない。

例えば、残された家族には出来るだけ長生きしてほしいから『検診』というのはどうだろう。ちょっと珍妙だけれど、墓参りの度に生活を正して、健康に気をつけるようになるかもしれない。あるいは、頑張っているか、良からぬことをしていないか、の意味で『全部見てるぞ』というのはどうだろう。いや、だめだ。怖すぎて二度と墓参りに来てくれないかもしれない。

もっとカジュアルに、『どう? 最近』くらいでいいのかもしれない。墓参りに来てくれた人が、墓石の前で手を合わせて、目を閉じて「どうって、まあ、元気っちゃあ元気だけどさ、聞いてくれよ、こないださあ……」なんて、雑談から入る墓参りは少し楽しい感じもするけど、どうだろう。

 

PROFILE

いしわたり淳治(イシワタリ・ジュンジ)

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

『次の突き当たりをまっすぐ』

次の突き当たりをまっすぐ

いしわたり淳治 著 筑摩書房/1400円(税別)
ミニマルな構成にシャープな風刺と驚きの結末が仕掛けられた“ことば”のエンターテイメント。鮮やかな幕切れの連続が読者を虜にする。20万部を突破した前作『うれしい悲鳴をあげてくれ』から10年。“歌詞解説”で話題沸騰の作詞家・いしわたり淳治による筑摩書房ウェブマガジン「webちくま」の連載「短短小説」に書下ろし作品を加えた28編が待望の書籍化。

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PROFILE

いしわたり淳治(イシワタリ・ジュンジ)

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

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