インタビュー

「人」への尽きない興味に、突き動かされて 大和田良 写真展「叢本草(くさむらほんぞう) + LIVE HOUSE, TOKYO」

  • 2018年9月21日

  

写真家・大和田良さんの写真展「叢本草(くさむらほんぞう) + LIVE HOUSE, TOKYO」が東京・新宿のビームス ジャパン5階にあるB GALLERYで9月24日(月)まで開催されている。

大和田さんは&Mでも一度紹介したことがあるが、独創性のあるテーマとアプローチ方法、そして1枚のプリントの美しさが海外でも評価されている。

近年、インスタグラムをはじめとしたSNSの普及で、以前よりますます写真というものが身近になった。写真を取り巻く状況の変化にどう向き合い、作品を発表しているのか。大和田良さんの制作姿勢を、さまざまな角度から見つめてみた。

>写真展のフォトギャラリーはこちら

多肉植物とライブハウス、2つの異なる被写体に惹かれて

B GALLERYで開催中の写真展は、次の二つのモチーフで構成されている。ひとつは、広島にある多肉植物の専門店「叢」で扱われている多肉植物を、コロジオン湿板法という技法で撮影したもの。もうひとつは、2014年以降に東京都内と近郊のライブハウスを撮影したシリーズだ。

アルミ板に薬品を塗って撮影された「叢本草」

「LIVE HOUSE, TOKYO」は、フィルムで撮影した写真をスキャニング時に2枚重ねている

――今回の展示は2部制で、前期は多肉植物が被写体ですね。

「叢の多肉植物は見たこともない形のものばかりで、以前から興味がありました。コロジオン湿板は、大昔の技法です。その二つを組み合わせることで、得体の知れないイメージが突然、目の前に現れてくるのではと考えました。

ライブハウスは、2014年に撮り始めました。下北沢の『屋根裏』などには、上京前に東京という街に対して感じていた、憧れの象徴といった思いを強く抱いていました。ただ、途中から自分の好みを入れず、ライブハウスの関係者に聞いた『あそこはカッコいいよ』という口コミをたどりながら撮影しました」

――どんな被写体に興味を引かれるんでしょうか。

「ずっと変わっていないのは、『人』に対する興味です。人そのものを撮影しているわけではないんですが、被写体を通して、人の持っている情熱や生きている時間を撮りたいんですね」

写真家として、どうやって作品を届けるか

広島にある多肉植物店に足を運び、薬品を配合してアルミ板に塗布し、1点モノの作品を丁寧につくる。そして5年近い歳月をかけて、東京とその近郊のライブハウスを回る。インスタグラムをはじめとしたSNSで手軽に写真をポストし、「いいね!」をもらえるようになった今、大和田さんはなぜそれほどまでの手間をかけて作品を制作し、発表するのだろうか。

広島に店舗をかまえる「叢(くさむら)」の多肉植物も会場には展示されている

――カメラの性能の向上やSNSの普及で、写真が身近になった時代と言われています。作品を発表していくのが難しくなったと思うことはありますか?

「まず、WEBメディアが出てきたことで、雑誌は厳しくなりましたよね。雑誌ってもともと実験的な精神が非常に強くあって、昔はわけがわからないことも企画としてやらせてくれたわけだけど。出版業界全体に余力がなくなって、そういった機会を得られることが少なくなっている。

一方で、写真を取り扱う場所自体は増えていると思います。現代美術の世界で、写真の価値が認められてきたというのもあるし、作品を発表する方法は広がってきていると感じますね」

――ネットを使って、気軽に写真をアウトプットすることもできるわけですが、時間のかかる作業にこだわる原動力はどこにあるのでしょう?

「世の中で、簡単に撮れるようになったと言われる写真というのは、基本的に『消費されるための写真』だと僕は思うんです。インスタにアップされる日常のスナップはある意味、商業写真に近い性質を持っていて、時代の影響を受けやすい印象があります。

僕の場合は、写真家として『残すための作品』をつくっているので、より強い骨組みのようなものが必要になる。長い時間を経ても立っていられるだけの、作品としての体幹の強さが求められるというか。そうすると、コンセプトや作品のクオリティーを緻密(ちみつ)に考えていくことが重要になります。作品に1点モノの価値を持たせたり、数年という年月をかけたりしているのも、時代を超えていく強度を獲得するためなんです」

会場内では、「叢本草」「LIVE HOUSE, TOKYO」の写真集も購入できる

――作品を見る側、つまり受け手側が求めるものも、時代を経て変わってきていると思いますか?

「どうでしょうね。ある被写体を写真にするとき、僕自身は常に新しい表現を提示したいという気持ちで撮影を行っています。お客さんからも『今度は一体どういった作品になるんだろう?』という期待を感じることの方が大きいですし、あまり変わらないかもしれません。

ただ、時代の変化という意味で、ライブハウスを撮影して感じたのは、最近はタギング(スプレーやペンなどで描かれた落書き)やステッカー貼りを禁止する、きれいな箱が増えています。だからライブハウス自体が持つ独特の風景というものが、数十年後には確実に変わっているだろうな、という確信はありますね。今、タバコが吸える映画館ってないじゃないですか。それと一緒で、いずれは昔なつかしい風景になるんだろうなと思います」

――テクノロジーや時代が変化しても、それによって「作品を発表しにくい」と感じることはあまりないのですね。

「むしろ、僕の作品を欲しいと考えてくれる人に対して、直接届けられる環境は以前より整っているのかなと思います。例えば、写真展の会場に置いている写真集について言うと、インターネットを通してどこにいてもモノを買えるような現在の状況がなければ、出版社を通した本の流通を考える必要があったわけで。数千部、数万部というと手に負えないものになってしまうけど、数百部であれば、美術書や写真集を扱いたい書店とダイレクトにコミュニケーションを取って、扱ってもらうこともできる。

写真家としては、『作品を作る』以上に、それを『どうやって人に発表するか、伝えるか』という方法を考える時間の方が求められるのかもしれません。作品を作っても、誰の手にも届かなければまったく意味がないので」

時代の変化をポジティブに捉えつつ、「いかに作品を届けるか」という柔軟な姿勢と、自分の中で決して変わらない強固な軸のようなもの。その両方が写真家には求められるのだろう。今回の展示作品の成熟した静謐(せいひつ)な表現と、うちに秘められた熱量は、写真という表現と真摯(しんし)に向き合う彼の姿勢から生まれているのだと改めて感じた。

24日まで開催されている「LIVE HOUSE, TOKYO」の会場には、「叢本草」も一部展示されている。それぞれの作品の奥にある物語を、ぜひ感じてみてほしい。

(文・山田敦士)

  

>写真展のフォトギャラリーはこちら

PROFILE
大和田良(おおわだ・りょう)
写真家。1978年宮城県仙台市生まれ。東京工芸大学大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。2005年、スイス・エリゼ美術館 「reGeneration.50 Photographers of Tomorrow」展に選出され以降、国内外で作品を発表。2007年、初の写真集『prism』を青幻舎より刊行。フォトエッセイ集「ノーツ オン フォトグラフィー」(リブロアルテ)、写真集『FORM』(深水社)など著書多数。2011年、日本写真協会賞新人賞受賞。
www.ryoohwada.com

EXHIBITION

大和田良 写真展 「叢本草 + LIVE HOUSE, TOKYO」
「叢本草」2018年9月1日(土)~9月12日(水)
「LIVE HOUSE, TOKYO」2018年9月14日(金)~9月24日(祝・月)
B GALLERY(東京・新宿/BEAMS JAPAN 5F)
〒160-0022 東京都新宿区新宿3-32-6
11:00~20:00
入場無料

BOOK ※本会場にて先行発売

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ

Pickup!