インタビュー

阿部サダヲ「2回死ぬかと思った(笑)」平成最後のロック・コメディー

  • 映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
  • 2018年10月9日

主人公のロックスター、シンを演じる阿部サダヲさん

“驚異の歌声を持つ”ロックスターと“声が小さすぎる”ストリート・ミュージシャン。対照的な2人が繰り広げるハイテンション・ロック・コメディー『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』。今作でカリスマ・ロックスター、シンを演じているのが阿部サダヲさんだ。

出演作はシリアスからコメディーまで幅広く、数々の個性あふれるキャラクターを多彩に演じてきた阿部さん。ロックバンド『グループ魂』のボーカルとしても活躍する中、カリスマロックシンガーを演じるのに「難しさもあった」と言う。撮影時のエピソードや共演した吉岡里帆さんとの裏話、自身のコメディー観について語ってくれた。

【動画】完成披露試写会で阿部サダヲさん、吉岡里帆さん、千葉雄大さんらキャストが絶叫!(8月22日)

『やらない理由を探すな』というメッセージ。「僕もやらない理由を探しちゃう方。この気持ちは、すごく分かる気がする」

監督は、映画『インスタント沼』『俺俺』やドラマ『時効警察』を手がけた三木聡監督。構想7年をかけたオリジナル作品となる今作では、ロック・コメディーという新たな三木ワールドを開拓。オファーが来た時、「主役とは思ってもいなかった」と本音を明かす。

「監督は、ずっと“近い存在”だったんです。監督が参加していたバラエティー番組や演出した舞台を見ていましたし、三木さんの作品に松尾(スズキ)さんやうちの劇団の人も出ていたので、勝手に近くにいると思っていました。近いカテゴリーというか。

ずっと監督の作品には出たいと思っていたので、正直うれしかったです。もし出るとしても飛び道具的な感じの役かなと思ったので、主役をやるとは思ってもいませんでした。ストーリーも僕が想像していた三木さんのイメージと違って、全体としてストレートでロックだと感じました」

「声帯ドーピング」で4オクターブの音域をカバーするシンと「声が小さな」ストリート・ミュージシャンの明日葉ふうか(吉岡里帆)(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

阿部さん演じるシンは、4オクターブの音域を操り、すべての人をとりこにするカリスマ・ロックスター。その歌声の秘密は“声帯ドーピング”。ストリート・ミュージシャンふうかが秘密を知ったことで、2人の距離は縮まっていく。

「シンはロックスターでありながら、意外と真面目でいいロッカーなんです。お酒を飲まない、たばこも吸わない、女を抱いたりもしない、そして自分を見せない人。役者で例えるなら、演じる時のスイッチのオンオフみたいな。素の部分を残しておきたいという気持ちが、きっとシンにもあったんじゃないかと思います。唯一、素の自分を出せたのがふうかだった。ロッカーの仮面をかぶって、妹に似たふうかを助けていたのかもしれません。

実は、三木監督もお酒を飲まないし、たばこを吸わないんです。監督はシンに自分を重ねているんじゃないかと思ったこともありました。映画の中で、『やらない理由を探すんじゃない』っていうセリフがあるんですが、監督自身の経験から重ねた部分もあるらしくて。娘さんに宿題をやれと言ったら、『宿題は後でやる。今テレビを見ているから』と返され、『テレビを見てるって、やらない理由を探しているだけだろ』と。僕もやらない理由を探しちゃう方。でも結局やるんですけど、この気持ちはすごく分かる気がします」

レコード会社の担当・坂口(千葉雄大・右)(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

楽曲の作曲はHYDE。「無理だよ! と思いましたね(笑)。お客さんは『グループ魂』を知らない人だと勇気づけて仕上がりを聴きました」

カリスマ・ロックスターとしてステージに立つ、シンのメイクや衣装も個性的。「2時間かけて仕上げた」渾身(こんしん)のメイクと圧倒的なパフォーマンスで、シンになり切っている。

「メイクした顔が面白かったから、すぐに写真を撮りました(笑)。まさかこんなふうになると思っていなくて。衣装やメイクは、僕のアイデアは一切ないんです。メイクすることで違う自分になれるというのはありますね。

『グループ魂』でもボーカルをやっているので、被りたくないというのは一番意識したところ。革ジャンを着て、リーゼントだったらやりづらいと思ってましたが(笑)、シンは普段、ジャージーに革靴という変わった格好でホッとしました。実は、僕の地毛は茶色っぽいんですけど、一度黒を入れて、それに青を入れて染めているんです。あまり分からないけど、そんな細かいこともやっています」

(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

特に難しかったのが、歌うシーン。劇中で歌う『人類滅亡の歓び』は作曲をHYDE、作詞をいしわたり淳治が手がける。一度聴くと忘れられない、キャッチーでパワフルな楽曲が作品を盛り上げる。

「デモテープを聴いたら、歌っているのが『HYDEじゃん!』って(笑)。無理だよと思いながら、やっていましたね。レコーディングで何度も撮り直したんですが、どんどん声がかれていって。叫んでいる部分だけでも、相当テイクを撮りましたから。ボイストレーナーの方に来ていただいてやったりもしましたが、やっぱり難しかったです。映画を見てくれるお客さんは『グループ魂』を知らない人が多い! と自分を勇気づけながら、完成したものを聴きましたね(笑)。

ライブシーンのバックバンドがKenKenさん、PABLOさんで、パフォーマンスが泣きそうになるくらいカッコ良くて。弱気なことを言っている場合じゃない、まさに『やらない理由を見つけるんじゃない』と感じましたね。最後にライブシーンを撮ったのですが、そのおかげでシンという人物になれたのかもしれないと思います。でもその時は必死で、どうやって歌ったのか覚えていなくて。後から映像を見て、おお! と思いました」

(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

ふうかと出会ったシーンと顔型を取った時。「どんどん口の中に入ってくる。2回死ぬかと思いました(笑)」

苦労した場面は他にもある。シンとふうかが出会う場面と、特殊なシーンを撮影するための顔型模型を作る時は、死ぬかと思うほどつらかったという。

「僕の顔の模型を作る時に、型を取ったんです。今まで何度か作ったことがあったんですけど、どれも口を閉じていたんですよ。今回は口が開いているから、口の中に石膏(せっこう)がどんどん入ってくるんです(笑)。もう一つは、ふうかと出会うシーンで顔に水がじゃぶじゃぶかかるところ。あの時も口が開いていて、水がどんどん入ってくるんですよ。どっちも死ぬかと思いましたね(笑)」

ふうか役の吉岡里帆さんとは初共演。秘密を抱えたシンと肩の力が抜けたふうか、対照的な2人が息の合った演技でストーリーを刻んでいく。

(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

「吉岡さんとは初めて共演したのですが、初めてのギクシャク感がなくて。最初に会議室で稽古したのが良かったのかも。あとは、三木作品の“常連”の方がいろんなキャラクターでやってくるじゃないですか。その方たちを見て、2人で『すごいね』と言っている間に打ち解けて、『一緒に頑張ろう!』となったのかもしれません」

三木作品の常連俳優が来て気づいたこと。「力の入っていない感じを見て、『ああ!これが正解だ!』って思うんです」

吉岡さんいわく、阿部さんは“コメディーの王様”。阿部さんがこれまで演じてきた様々な役柄を見ると、その才能は言うまでもないが、コメディーを演じること、コメディー作品への特別な思い入れはあるのだろうか?

「面白いものは好きですね。ただコメディーと言っても、種類が色々ありますから。三木監督の作品は、ちょっと独特の世界じゃないですか。今回やってみて、正直やりきれていない、もっとそこに入りたいというのが今の印象です。撮影日数を重ねるたびに、“正解”たちが来るんですよ。ふせえりさんとか岩松了さんとか常連の方が。その力の入っていない感じを見ながら『ああ!これか!』って思うんです。オーディションシーンに出てくる、“大正解”のエキストラのおばあちゃんも(笑)」

シンの事務所社長(田中哲司・右)(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

「こういう方たちを見ていると、分かっていない方が面白い時もあるんだなと分かりました。全部分かっている人は、逆に面白くないのかもしれないと。年を重ねると、分からないでやる勇気ってなくなるんです。その勇気をもらえた気がします。

コメディーは、自分が笑ったところが一番の正解。監督によると、カナダのファンタジア国際映画祭で上映した時に、シンが自声で『アヴェ・マリア』を歌うシーンで爆笑になったらしいんです。自分としては奇跡的にきれいな声が出た、新たな発見のシーンでもあったんですけど(笑)」

コメディーでありながらロードムービー的な面白さもあり、ラストに向かって転換する2人の関係性もドラマチックで感動を呼ぶ。最後に、映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』へのメッセージをくれた。

「撮影で死にかけて……この現場は自分で命を守らないといけないと思いました(笑)」

「台本を読んで演じた印象より、完成した映画は、いい意味でスッキリしていた。ずっとふざけた話なのかと思ったら、最後にあんな展開になるとは想像できないと思います。ロック・コメディーって、ありそうでないんですよね。『スクール・オブ・ロック』もあるけど、あの感じとも違うし、女の子がボーカルでロードムービーっぽいのも面白い。平成最後のロック・コメディーを、ぜひ見に来ていただきたいですね」

(文・武田由紀子 写真・花田龍之介)

映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』予告

『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』作品情報
キャスト:阿部サダヲ、吉岡里帆、千葉雄大、麻生久美子、小峠英二(バイきんぐ)、片山友希、中村優子、池津祥子、森下能幸、岩松了、ふせえり、田中哲司、松尾スズキ
監督・脚本:三木聡
音楽:上野耕路
主題歌:SIN+EX MACHiNA「人類滅亡の歓び」(作詞:いしわたり淳治 作曲:HYDE)(Ki/oon Music)、シン&ふうか「体の芯からまだ燃えているんだ」(作詞・作曲:あいみょん)(Ki/oon Music)
配給・制作:アスミック・エース
(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会
10月12日(金)全国ロードショー
公式HP:http://onryoagero-tako.com/
公式Twitter:@onryoagero #音タコ

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