変化の時代の生存戦略論

今ビジネスの現場で「モテる」人材とは? 大企業はベンチャー的なエッジを求めている!

  • 尾原和啓×各務茂夫(東大教授)
  • 2018年10月2日

元画像:beer5020 / Getty Images

「共感」をベースにしたつながりが広がる昨今、恋愛、仕事、趣味……あらゆるジャンルで人に“モテる力”が重要視されています。価値観の多様化が進む時代における人を引きつける力とは――。IT評論家尾原和啓さんが識者を招いて語り合います。今回のお相手は東大教授の各務茂夫さん。二人のお話は、ビジネスの現場でモテる人材の条件にはじまり、この時代におけるベンチャーマインドの重要性へと広がっていきました。

今回のゲスト

各務さん

各務茂夫(かがみ・しげお)
東京大学教授、産学協創推進本部イノベーション推進部長。2017年度、大学発ベンチャー創出数245社とトップを独走(2位の京大は140社)する東大の、起業やスタートアップ(ベンチャー)について初歩から体系的に学ぶプログラム「東京大学アントレプレナー道場」で学生らを指導。ミドリムシを活用した食品などの販売やバイオ燃料の研究をする「ユーグレナ」、ペプチド治療薬の発見と開発を手がける「ペプチドリーム」などの東証一部上場企業、Googleに買収されたロボットベンチャー「シャフト」などを輩出。

この時代に重要なのは“ベンチャーマインド”

尾原 「今、国内でもっとも優秀なベンチャーを輩出している東大で、起業家を志す学生らを長年指導されてきた各務さんは、次の時代に”モテる”人材やリーダー像、また彼らを育てる仕組みについて熟知されているのではないでしょうか。そこでまずは、“いまのビジネスの世界でモテる人材の条件”についてお聞きしたいと思います」

各務 「視野の広い、様々な実体験をもった、高邁(こうまい)なビジョンとしたたかさが同居した人物でしょうか。学生らには、“色々な世界を自分の目で見、肌で感じること。何が社会に横たわる問題・課題なのかを知ることが重要である”と指導しています」

尾原 「なぜ東大からこれほど多くのベンチャー起業家が出ているとお考えですか」

各務 「彼らの優秀さもさることながら、長い目で見ると、この時代における起業家としてのロールモデルが出てきていることも大きいと思います。アントレプレナー道場初期のビジネスプラン最終発表者たちのほとんどが起業し、事業が順調になってから、また道場のプログラムに戻ってきてくれます。講師や、メンターを引き受けてくれたり、エンジェル投資家に回る人もいたりします。

つまり、人の連鎖こそが成功の理由でもあり、継続的に起業家を輩出する構造の本質でもあると思います。実際、 米国では成功した起業家は大学に多額の寄付をします。このような好循環が、米国の大学発ベンチャーの起業環境を支えています」

尾原 「僕も各国のベンチャーを見ていると、3周目の法則があると思っています。起業する、つまりリスクをとってでも発明することこそが本当の安定である、というスティーブ・ジョブズ的な精神から起業家が生まれ、その成功者が支援側に回り、支援された人がまた成功して支援側に回る。これが3周もしてくると、もはや起業しないと損、という空気に変わってくる」

各務 「それでいうと私のところは2周目に来たかなという感じはしますね。卒業生は30代半ばくらいになると我々のところに戻ってきてくれます」

尾原 「今や起業家たちの間に、リスクを取った先輩が次の後輩を支援するという風土や循環ができている。各務さんはそこの循環を支えていらっしゃるのだと思います」

各務 「それについては、長く続けてこられたことが重要だったと思います。蓄積されたノウハウが次の起業家を生んでいるのであって、それには10年以上かかります。ところが日本の大学の場合、例えばベンチャー支援を同じ人間が長期間、業務として持続させることが難しい。私の場合、たまたま専任教員であるため、持続できましたが、通常、大学の特任教員は5年くらいしか続けられません。それこそハーバードなら、私のような立場の教授職というよりはスペシャリストとして高給で迎えられているのですが」

尾原 「今後はどのような教育に力を入れていこうとお考えですか?」

各務 「そもそも一番ベンチャー向きなのは、すでに卒業して社会に出て5年、10年と経験を積んだ人たちでもあります。そこで、卒後教育やエクステンションスクール(生涯教育)的なものを、この道場の延長線でできないか考えています。

例えば大企業に入ると、入社から10年経った後、本当にその会社で一生務めるのがいいか、その場合はたして残れるのかどうかを考える時期が来ると思います。そういう人に対し、うちの道場は、起業したい学生らと出会う機会を提供できる。道場の学生らには技術やアイデアはありますが、マネジメントの経験はないので、その両者をつなげられる仲介者になりたい。大企業から一度ベンチャーに行けば、前職での経験が生きるし、古巣がお客さんになるケースもある。そういう仕組みをシステマチックに回せないかと考えています」

Cecilie_Arcurs / Getty Images

尾原 「それこそ一度就職して、その後専門ベンチャーをやったほうが、結果的に大企業のなかにもう一回戻って出世コースに加わるなど、キャリアを柔軟に広げていくこともできそうですよね」

各務 「そうですね。大企業の中にベンチャーの風を入れようとすると、まず社内にレセプター(受け皿)、つまりベンチャーに理解があり、受け入れ体制のある人材がいることが重要になってきます。そうなると、一度でも起業したことのある人の経験が生きてくる」

尾原 「しかし、そのためには企業側、経営者がより柔軟になることが求められますよね」

各務 「実際、ここ数年で”自社による自前主義だけではもうダメだ”といって、他社と組んでエッジの効いたものをどう取り入れるか、という議論が各企業でなされてきています。そこに業績が追いついてきている。先に進んでいる企業から業績は出始めています」

尾原 「数字が出てくると、渋っていた他社の経営者も動くわけですね。いかに”早くやらないとうちは遅れてしまう”というような、健全な恐怖感をムーブメントにするかが、非常に大事だと思います。

とはいえ、そういう異文化の人を受け入れたり、それを新しいイノベーションの中心として守り続けたりするのは大変だと思います。レセプターを作れる会社と作れない会社の違いや、こういう人間をレセプターに抜擢すればうまくいくという方法はありますか」

各務 「ポイントはやはり、企業を辞めた人のネットワークをどうまとめ、生かすかですね。マイクロソフトを例に挙げると、同社を辞めた人による起業は数千社にのぼり、彼らは元いた会社と連携しています。つまり彼らはマイクロソフトを含む協業の仕組みを作っているんです。

やはり経営者が、会社を辞めた人が客になるかもしれない、という意識を持つべきだと思います。こういう考え方を、日本の銀行や大企業はもっと持たないといけない。持っていれば、”一度辞めた人をもう一度採用する”ということができるはずです」

尾原 「たとえ会社を辞めた人が起業に失敗したとしても、企業から見ればその失敗に大きな価値がある。なぜなら、その経験があるからこそレセプターにもなれるし、ベンチャーの風を柔軟に受け入れ、橋渡しもできる。起業に成功したなら、一緒に組めばいい。いずれにしても、辞めた人とのつながりを生かせば、ビジネスが加速しますね」

各務 「逆に辞めた側の人が元いた会社と連携するには、実績、成功体験をひとつでも作ること。そうすると、(前の会社の)経営者も新しい動きを決断しやすくなるでしょうね」

《対談を終えて》

この連載の主題でもある「モテ」とは、違う人間同士を接続するもの。かたや「イノベーション」も、遠くにある異質なもの同士を接続し新しいこと生み出すことです。

それを考えると、今の時代ビジネスの世界でモテる人材とは、異質なもの同士を結びつける引力を持ちながら起業家精神や柔軟性にあふれた人であり、レセプターのような役割を担える人といえるかもしれません。

そうした人材の力を引き出すべく、企業や経営者には今、一度辞めた人材をもう一度受け入れるような、柔軟性が求められています。その追い風が吹き始めている中、あえて安全圏から抜け出し、視野を広げ、自分の肌で社会に根ざす課題を知ることこそがモテる人材になるために必要な要素である、ということを各務さんのお話は示唆していたのではないでしょうか。(尾原和啓)

■対談者プロフィール
各務茂夫(かがみしげお)
東京大学教授、産学協創推進本部 イノベーション推進部長。
産学連携、東大発ベンチャー支援、アントレプレナーシップ教育等に取り組み、日本ベンチャー学会理事・副会長等も務める。日本ベンチャー学会第1回松田修一賞受賞(2015年)。NPO法人アイセック・ジャパン代表理事(会長)。

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PROFILE

尾原和啓(おばら・かずひろ)

IT評論家/Catalyst(紡ぎ屋) シンクル事業長、執筆・IT批評家、Professional Connector、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー。京都大大学院で人工知能論を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなどで事業立ち上げ・投資を歴任。13職目を経て、バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディション、Burning Man Japanに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に「ザ・プラットフォーム」(NHK出版新書)「ITビジネスの原理」(NHK出版)。近著に「モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書」(幻冬舎)。Twitter:@kazobara

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