大御所シェフのいつものごはん

世界のトップシェフ、エネコ・アチャさん 日本で行きつけの店を教えてください!

  • 文/畑中三応子
  • 2018年10月4日

撮影:野呂美帆

卓越した技術・味覚・知識を持つ料理界のトップランナーが、行きつけの飲食店を明かす当連載。今回は番外編として、スペイン史上最年少でミシュラン三ッ星を獲得した世界的シェフ、エネコ・アチャ・アスルメンディさんの取材レポートをお届けします。

現在公開中のドキュメンタリー映画『世界が愛した料理人』では、最高の料理、店作り、料理人のあり方を求めて、日本を巡るエネコさんの姿が描かれています。世界トップレベルのシェフの目には日本の食文化はどう映り、どんな店を気に入ったのでしょうか。“食べる人”としてのエネコさんに迫ります。

今回の大御所シェフ

エネコ・アチャ・アスルメンディさん
1977年、スペイン・バスク州出身。2005年、ビルバオ郊外に「アスルメンディ」をオープン。伝統的なバスク料理に独創性と革新性を注ぎ込み、07年にミシュランガイドの一ッ星、10年に二ッ星、12年に三ッ星を獲得。17年には米エリートトラベラー誌「世界のベストレストラン100」ランキングの第1位に輝き、港区六本木に「エネコ東京」をオープン。

高級店から大衆料理屋まで 世界的シェフがハマる日本の食文化

スペインにあるエネコさんの店「アスルメンディ」。エネルギーは太陽光と地熱を、建物にはリサイクル素材を活用し、雨水もリサイクル。生ゴミは堆肥(たいひ)にして農園で野菜やハーブを育て、地元の農家にも提供している

『世界が愛した料理人』は、全編にエネコさんの和食に対するリスペクトにあふれ、日本人として鼻が高くなる映画である。

ミシュラン三ッ星を6年間連続で保持し、「世界のベストレストラン50」で2014年に続き、本年度は2度目の「サステナブル賞」を受賞。

文字通り世界のトップシェフであるエネコさんに、まずは地元スペイン・バスクで日常的に訪れるのは、どんな店かを聞いてみた。 

「昔からやっている伝統的なレストランが多いですが、若いシェフの新しい店にも興味があり、よく行きます。どんな料理にも学びがあって、私は食べる以上に、学ぶことが好きなんです」

普段の食事も仕事につながっているのが、さすが世界のトップシェフだ。

「大好きなことを職業にしているので、プライベートとの線引きはあまりないんですよ。ピンチョス(バスク独特のおつまみ)がおいしい下町のバルや、サガルドテギ(地酒であるリンゴ酒の醸造所兼食堂)で友人たちと楽しい時間を過ごすこともしょっちゅう。バスクは人のつながりがとても強い地域ですから」

そんなエネコさんは、日本の外食文化にはバスクとの共通点があると感じているという。

「日本では料亭から下町の居酒屋まで、高い安いにかかわらず、どこでもおいしいものが食べられることが素晴らしい。また、すし屋、うなぎ屋、そば屋というように、専門店の充実ぶりは驚くばかりです」

すしやうなぎなどの伝統食だけでなく、ラーメン、カレー、ハンバーグ……と、ひとつの料理に特化し、高度に専門的な飲食店が発達しているのは日本の特徴である。

一方、バスクはスペインでもっとも外食の幅が広く、居酒屋ひとつとってもさまざまなタイプがあり、近年ではモダン・スパニッシュ料理の中心地になっている。多様な食が楽しめることでは、日本もバスクも世界のトップクラスといえそうだ。

それではエネコさんは、日本でどうやって店選びをしているのだろうか。

「私にとって、よい店とは楽しい時間を過ごせる店。必ず現地の友人に、おすすめの店と、その理由を聞いて選んでいます。インターネットの情報を手がかりにすることはほとんどありません。友人から教えてもらった店で、東京に来るとよく行くのは、天ぷらの『近藤』とすしの『青空(はるたか)』です」

世界中から客が集まる「近藤」、「すきやばし次郎」で12年間修業を積んだ店主が開いた「青空」、ともに銀座にあるミシュラン二ッ星店である。

撮影:野呂美帆

「あと、京都は本当に好きですね。とくに料亭『菊乃井』の料理は最高です」

高級店の名前が並んだが、探究心は庶民の味にもぬかりなく向かい、チケット制のラーメン屋も行くそうだ。

「ラーメンで大満足しますよ。日本ではどこでなにを食べても勉強になります」

日本の食文化への関心が尽きないエネコさんだが、なかでも心打たれたのは、やっぱりすしと懐石だった。

「すし職人の完璧さの追究、懐石の多彩さは感動的です。また、次世代に伝えようという精神が料理から伝わってくるのがすごい。料理は通訳のいらない言語のようなもので、作った人の人柄や個性、失敗を含めた人生の道のりまでが込められていて、だから食べて感動するのだと思います。料理は、料理人の人生そのものですね」

映画にも登場する「すきやばし次郎」のクルマエビ。職人が魂で作る料理の代表作

料理は「手と頭と心で作る」ものと考えていたエネコさんは、「魂で作る料理」があることを懐石から学んだという。

人が魂で作った一品からは、食卓に上るまでの物語が感じられるそう。料理の魅力は食べてこそわかるもの。「撮って、食べて」がすっかり浸透した昨今、SNSなどを通じて料理の写真を見る機会が激増したが、本当のおいしさはなかなか写真では伝わらないという。

「写真はきれいでも、実際の味とギャップがあることも少なくないのでは? おいしくないものは、見た目で確実に判断できますが、食感や匂いは伝わりませんから、本当においしいかどうか、写真では絶対にわかりません」

エネコさんのように、哲学的に食べるのは難しいが、私たちも普段からなにかひとつ、感動できるような食べ方を心がけてみたいものだ。

□筆者プロフィール
畑中三応子(はたなか・みおこ)
編集者、ライター、フードジャーナリスト。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけるかたわら、流行食関連の研究や執筆も行う。著書に『ファッションフード、あります。――はやりの食べ物クロニクル 1970-2010』(紀伊國屋書店)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』(春秋社)など。

■作品情報


写真
世界が愛した料理人

世界が愛した料理人
9月22日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開中
配給:アンプラグド
© Copyright Festimania Pictures Nasa Producciones, All Rights Reserved.
監督:アンヘル・パラ、ホセ・アントニオ・ブランコ
出演:エネコ・アチャ「アスルメンディ」、マルティン・ベラサテギ「ラサルテ」、カルメ・ルスカイェーダ「サンパウ」、ジョエル・ロブション「ジョエル・ロブション」、石田廣義・石田登美子「壬生」、山本征治「龍吟」、小野二郎・小野禎一「すきやばし次郎」、服部幸應、マッキー牧元、マイケル・エリス「ミシュランガイド」
2016年/75分/原題:SOUL/スペイン/5.1ch/ビスタ/カラー
公開日:2018年9月22日
上映時間:75分

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