マッキー牧元 うまいはエロい

<63>千円台で本格的な和定食 銀座「三亀」で味わうぜいたくランチ

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2018年10月9日

エボダイの揚げ

銀座で昼に和定食を食べる。そのことがなによりいいのは、夜に1万~2万円はする和食店で、昼には千円台で質の高い定食をいただける点である。

「日本料理 むとう」「ぎんざ・貴舟」「割烹 唐井筒」「日本料理 双寿」「銀座 矢部」などがそんな店で、普段から舌の肥えた銀座の旦那衆に鍛えられているだけあって、実にお値打ちの定食に出会うことができる。「三亀」も、そんな店の一つである。

店前に掲げられた品書きには、こう書かれている。「一品お選び、1350円、二品お選び2000円、三品全部2650円」

日替わりの主菜が、刺し身、焼き魚か揚げ魚、煮魚か煮物と、3種類用意されており、この中より好きな数だけ選ぶことができるのである。

僕はいつも二品を選ぶ。カウンターに一人座って、「今日はなんですか?」と尋ねる。先日は、「コチのあさつき和(あ)え」「エボダイの揚げ」「肉じゃが」であった。むむうと悩み、刺し身と揚げ魚を選ぶ。

お茶をすすりながら、厨房(ちゅうぼう)で着々と料理が進むのを眺める。カウンターは一人客が多く、夜も来ているよという常連の紳士が多い。中には、「刺し身と焼き物をもらおう。それにぬるかんを1本」という御仁もいる。

コチのあさつき和え

刺し身が先に運ばれ、そいつで一人静かに酒を楽しまれている。やがて「焼き物がまもなく上がりますが、ご飯は、ご都合の良いときにお声をかけていただくことでよろしいですか」と、ご主人が尋ねる。紳士は、「いや、いただこう」と返す。

こういう光景があるのも、また銀座である。料理だけでなく、ゆったりと流れゆく大人の時間の中に身を置く。そんなぜいたくがある。

コチのあさつき和えは、しなやかな身で、かみ締めればじとじとと甘みがにじみ出る。エボダイは、身はふんわりと崩れ、頭も尻尾も香ばしくいただける。下に流された、甘辛い汁のほどのよいあんばいが、ご飯を恋しくさせる。その艶々(つやつや)と光るご飯も、白身魚の潮汁(うしおじる)、香の物、小鉢のきんぴらも、手抜きなく、丁寧な仕事が光っている。

白身魚の潮汁

あまりにご飯がおいしくおかわりをした。おかずがほとんどなくなっているのを見たご主人が、「何か少しだけ食べますか?」と聞き、ひじきの五目煮の小鉢を運んできて、「はい、ほんの子供だましですが」と、置いた。

ひじきの五目煮の小鉢

汁がなくなれば、「もういっぱいいかがですか?」と聞く。こういう、こまやかな心遣いがあるのも、この店に行く理由である。

またある日は、ほんのりとあめ色がかったヒラメの刺し身と、ヒレを立て、さあ食べろとばかりに食べ手をあおる、イサキの塩焼きが用意され、ある日は、上品な脂がのったメジマグロの刺し身とマナガツオの照り焼き、タイの潮汁が待ち構えていた。

最近は、こういう真っ当な和定食を出す店が少ない。だからこそ僕は、月に1回は「三亀」が恋しくてたまらなくなる。

銀座「三亀」

銀座「三亀」

昭和21年創業の割烹。渡辺淳一の小説に登場したことでも知られる。昼定食は刺し身と焼き魚、煮魚で。これにご飯、香の物、みそ汁、フルーツがつく。いずれもすこぶる質が高い。

【店舗情報】
東京都中央区銀座6-4-13 KNビル 1F
03-3571-0573
銀座線、日比谷線、丸の内線「銀座」駅 徒歩3~4分
営業時間:12:00~14:00(L.O.13:30)/17:00~22:00(L.O.21:30)*土曜の夜は17:00~21:00(L.O.20:30)

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PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

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1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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