サザンオールスターズ“社会風刺アニメーションMV”の舞台裏 映像作家・大月壮に聞く

  • 2018年10月11日

大月壮氏

今年でデビュー40周年を迎えた国民的ロックバンド、サザンオールスターズ。今年6月にリリースした3年ぶりの新曲「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」は、社会風刺を盛り込んだ歌詞と、その世界観をアニメーションで表現したミュージックビデオ(MV)で大きな話題となった。

【動画】サザンオールスターズ – 闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて(Full ver.)

池井戸潤原作の映画『空飛ぶタイヤ』の主題歌として書き下ろされた同曲は、サラリーマンの過酷な生存競争の現実を抽象的に描写 。「自分のために人を蹴落として 成り上がる事が人生さ」など、サザンらしいアイロニーのこもった訴えが聴き手の心をつかむ。

またサザンとしては初の全編アニメーション作品となったMVについて、ボーカルの桑田佳祐本人がラジオ出演した際に「気に入っています」と称賛。7月12日に公開した公式YouTubeチャンネルの再生回数はすでに500万回再生を超え、コメント欄にはファンによる2000件以上の書き込みがあり、作品の解釈を巡っても様々な意見が寄せられ、大いに盛り上がった。

デビュー40周年に、強烈な社会風刺を込めたアニメーションMVを世に出した背景とは――。この“話題作”のミュージックビデオの監督を務めた、映像作家の大月壮にその舞台裏を聞いた。

サザン初のアニメーションMVはこうしてつくられた

大月壮氏

映像作家・大月壮。個性的なアイデアと一癖あるユーモアを盛り込んだ作風で知られ、2012年には動画作品『アホな走り集』で、文化庁メディア芸術祭入選を果たした。また最近ではVRやドット絵などの先鋭的な手法を取り入れつつ、環境問題などをテーマに社会性を加味した作風に移行している。

そんな大月にサザンの新曲MVの監督の話が舞い込んだ。

「新曲の監督をお願いしますというお話がプロデューサーの方からありまして。後々になって聞いたみたところ、サザン初のフルアニメーションMVということで“守りに入らず、攻めていこう”という意向があったようです。やはりデビュー40周年という節目ですし、久しぶりの新曲ということで、世間にインパクトを与えるための手段だったと思います」(大月)

映画の原作は池井戸潤によるベストセラー小説。実話を元にした大手自動車メーカーの不祥事、そしてそこで表出する人間の正義と不正との葛藤を描いている。 その映画を桑田は「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」という曲で表現。MVをつくる上で、その曲からさらに“新しい表現”を生む必要があったと大月は振り返る。

「今回の曲は映画のタイアップとしてつくられているのですが、映画の『リコール問題・不正』という題材から、曲は『弱肉強食のサラリーマン社会』へと視点が展開していたので、その二つの視点をMVとして踏襲しつつ、2018年の今、つくる意義のあるMVにしたいと思いました。原作・映画・曲、すべてに通じて描かれている“人間社会の負の側面”を主軸としながらも、やはり原作から10年以上経っていることもあるし、『世代を超えて若い人にも響く作品にしていこう』という話になりましたので、若者にも共感の得やすい現代な風景——具体的にはスマホのメッセンジャーアプリでの過剰なやり取りや、仕事中にネットサーフィンしてサボる会社員の姿など——をMVのモチーフとして加えました。そうすることで、桑田さんが伝えようとしているメッセージと、社会経験の少ない若者たちとの“接点”がつくれると思いましたし、昔の事じゃなくて“今の事”というのを強く打ち出せたと自負しています」

人が人の足を引っ張る。自分の欲のために、人を蹴落とす。そうした人間の負の側面は、何十年、何百年前も変わらないと大月は強調する。

「桑田さんの歌詞を聞いて最初に想像したのは芥川龍之介の『蜘蛛の糸』でした。地獄から抜け出すチャンスをもらった罪人が“卑しさ”によって機会を失う。今も100年前も変わりがないのだなと思いました。また企画案を考えていた今年の春は、財務省が森友学園との土地取引をめぐる決裁文書を改ざんした問題で、当時の理財局長が証人喚問された時期でもありました。原作は民間企業内での不祥事ですが、問題の根っこの部分は同じだと思ったんです」

ミュージックビデオより

さまざまな捉え方ができる歌詞が想起させる「愛」

大月壮氏

MVを制作する数カ月の間で、桑田本人とも意見を交わしたという。

「最初にお会いしたのは、絵コンテを並べたビデオコンテをつくった時点。直接会った際にいくつかアイデアをいただきました。人間味や哀愁の表現を加味していく狙いで『このシーンで顔のアップを入れたほうがいいんじゃない?』『電車でサラリーマンが寝ているシーンで、最後に倒れたほうが哀愁を感じるし面白いんじゃない?』などというアイデアをいただきました」

桑田が思い描く世界観を、どう解釈すればより多くの人に届くものになるのか。大月は悩んだ。なかでも最後まで大月が悩んだのは、「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」の「愛」とはなにかということ。殺伐とした歌詞の中にあって、「愛を込めて」という言葉がどういう意味かなかなか理解できなかった。

「本当は愛なんて込めてないんじゃないのか、とさえ思ったくらいです(苦笑)。現にMVは、卑しい人間の蹴落とし合いの競争の結果、大都会に死体が折り重なってピラミッドがつくられていくという残酷な内容で、その結末の後のせめてもの救いとして、競争に参加していなかったであろう1人のサラリーマンに光が差す、というストーリーです。この“愛”の解釈については悩んだ末に、『人を蹴落とすのも人間。そういうところも含めての人間味、哀愁。その全てを愛したい……』ってことなんじゃないかって。この部分については桑田さんの本心はわかりませんけど、桑田さんって、どこかそんな達観した視点を持っているのかもしれないと思いまして」

受け手の想像力をかき立てる楽曲、そして映像作品。YouTubeのコメント欄では楽曲やMVについて、自分の人生と照らし合わせつつ様々な意見が飛び交う。

「コメント欄は面白いですよね。受け取り方がちょっとズレている人がいたり、そういう人に『そうじゃねーよ』って言っている人がいたり。その中で『風刺は届かせたい人には届かないもの。だからといって風刺作品は無意味なわけじゃないんだよ。同じ気持ちの人には届くから』とか書き込んでいる人がいて、思わず“いいね”を押しちゃいましたよ(笑)」

自身の関わった作品が、そのような形で議論を生んでいることを、どこかうれしそうに語る大月。見るものによって、いろいろな解釈ができてしまう今回のMVは、作品が受け手の悩みを投影して、切実に訴えかけるものがあるからだろう。MVという枠を超えて、まるで映画のような重厚さを持ったこの作品を、みなさんはどう解釈するだろうか?

(敬称略)

公式サイト:https://southernallstars.jp/

大月壮(映像ディレクター/映像作家)
1977年神奈川県生まれ。POPかつ奇抜な作風で知られる、映像作家、映像ディレクター。
モーショングラフィックス・アニメーション・実写映像・ゲーム・VR映像など様々な制作方法を身につける。MV、企業用PR映像を中心に活動。2018年より環境問題に関するクリエイティブチーム「NEWW」を環境アクティビストの清水イアンと立ち上げる。オリジナル作では2009年にニコニコ動画で発表された「アホな走り集」が大ヒット、海外でも話題に。2012年には「アホな走り集/カンボジア編」が第15回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門で入選。
公式HP:http://0m2.jp/

文/高岡謙太郎

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