「やり続けることが大事なんだ」 ものづくりの現場が主催するアートイベント「鉄工島FES」、2年目へ

  • 2018年10月24日

コムアイさんとSIDE COREは北嶋絞製作所でアート作品を展示する

東京都大田区にある人工島・京浜島は、夜は猫が主人となる。都から工業専用地域に指定されているため、住宅は建っていないからだ。

この島では、ロケットや人の体内に使用する医療器具といった超精密機器を構成する部品も製造される。これらはすべてを機械で大量生産できるものではなく、熟練した技術を持つ職人たちが一つひとつプライドをかけて作り上げているのだ。

そんな京浜島で、音楽とアートのイベント「鉄工島FES」が11月4日に開催される。これは、東京の臨海部・天王洲アイルに本拠を置く倉庫会社・寺田倉庫と京浜島内外の地元企業などで構成される鉄工島FES実行委員会の共催で昨年スタートしたイベントで、今年が2回目となる。

京浜島に2016年に誕生した滞在制作型アートファクトリー「BUCKLE KÔBÔ」を中心に、島内の計4会場で、石野卓球(電気グルーヴ)、∈Y∋(ボアダムス)といった世界で活躍するミュージシャンたちのライブに加え、SIDE COREやコムアイ(水曜日のカンパネラ)らによるアート作品の展示が行われる。

滞在制作型アートファクトリー「BUCKLE KÔBÔ」

失われつつある職人の技術

京浜島と「鉄工島FES」が結びついた背景には、町工場の職人たちの置かれた厳しい現状がある。京浜島の歴史は、1960年代後半に始まる。当時の日本は高度経済成長期で京浜工業地帯は活気に満ちていたが、同時に公害も深刻な社会問題になりつつあった。そのため、住宅地から近いために、騒音や振動などの影響が大きい町工場が、この人工島に集団移転することになった。

当時の日本は、ものづくりの技術で世界から評価されるようになった時期にあたり、島にはどんどん新しい工場が建ち、職人たちも増えていった。

会場のひとつ、北嶋絞製作所で作業する職人たち

「鉄工島FES」の実行委員会代表で、島内にある株式会社須田鉄工所の代表取締役・須田眞輝さんは京浜島の変化についてこう話す。

「わたしがこの島に来たのは1976年。それまでは蒲田で製缶業の町工場を営んでいました。当時は高度経済成長期の真っただ中だったので、いろんな企業の工場があったし、人もたくさんいました。でも我々のような製造業は景気の波をダイレクトに受ける。今は最盛期と比べたら企業の数は半分くらいになって、それぞれの従業員も3分の1くらいになってしまった。この島も最初は製造業しか入れなかったけれど、いまは産業廃棄物を処理・リサイクルする会社や倉庫がほとんどです」

「鉄工島FES」の実行委員会代表の須田眞輝さん

須田さんがアートと関わるようになったのは、ひょんなことがきっかけだった。

「いまはアトリエになっている『BUCKLE KÔBÔ』(フェス会場の一つ)は、昔は別の会社の鉄工所だったんですよ。そことうちが最初に京浜島に入って来た。当時はまだ他には工場も何もなくて、羽田空港がよく見えたんだ(笑)。でもその会社さんは撤退してしまった。だからうちが土地を買い取って、職人さんたちに戻って来てもらったんです。そしたら寺田倉庫から『アーティストたちのアトリエを作りたい』というお話をいただいて。鉄工所の半分をアトリエに改造したんです」

鉄工所のルーツは鍛冶屋

ライブ会場のひとつになる酒井ステンレス第二工場の外観

BUCKLE KÔBÔも、アートプロジェクト「TOKYO CANAL LINKS」(HANEDA-TENNOZ)のひとつだ。今回のフェスで作品展示を行うSIDE COREをはじめ、さまざまなアーティストたちが作品を制作している。

須田さんが、アートプロジェクトに協力することにした理由には、どんな思いがあるのだろうか。

「私たちの仕事は爆発的にもうかるわけではないけど、すごく安定している。もの作る仕事って絶対なくならないからね。機械だけでは作れないものもたくさんあるし、そもそも機械を動かす部品だってどこかが作らなきゃいけない。だけど職人の数は減る一方で、若い子たちはやりたがらない。それは単純にこの仕事のことが知られていないから、という理由も大きいと思う。わたしらは元をたどると、刀とかを作っていた鍛冶(かじ)屋なんです」

「昔はどの村にも鍛冶屋が一つあって、農機具や包丁とかを作っていた。でも今はそういうのは全部機械が作っちゃうし、刀鍛治だけじゃ商売にならない。だから現代の鍛冶屋は溶接をしたり、機械の精密な部品を作ったりしている。だから『鉄工島FES』で実際にわたしたちがどういうことをしているのか見てもらいたい。そしたら、1万人の中から、1人ぐらい鍛冶屋に興味を持ってくれるかもしれない。私たちは、やり続けることが重要だと思っています」

工場と職人と野良猫

今回は須田鉄工所をはじめ、平日は普通に稼働している工場も舞台となる。須田さんは「『鉄工島FES』の前までに工場を掃除しなきゃ」と笑う。

現役の工場の中は、クレーンや作業用機械など、置かれたもののサイズが非日常的に大きくてダイナミック。通常のライブハウスとはまったく異なる体験ができそうだ。さらに会場には写真家・花坊さんが撮り下ろした京浜島の職人たちの表情を捉えたポートレートも掲示される。

ライブ会場のひとつとなる酒井ステンレス第二工場で、職人たちのポートレートを撮影する写真家の花坊さん

また、会場の一つとなる北嶋絞製作所で展示されるSIDE COREとコムアイさんによる作品は、音と写真によるインスタレーションになる予定という。実際2組は何度も工場に足を運んでいる。

打ち合わせの際も、コムアイさんは無邪気に工場の中を歩き回り、さまざまな加工品からアイデアを膨らませていく。そこにSIDE COREのメンバーや北嶋絞の職人も加わり、わいわいと楽しそうに意見交換をしていたとのこと。工場の中には危険な機械も多いが、できるだけ普段通りの工場が体験できるように工夫するそうだ。

打ち合わせに参加するコムアイさん

また、この島には野良猫がたくさん住み着いている。彼ら彼女らはみな伸び伸びと暮らしていて、工場の人たちとも良好な関係を築いているようだ。須田さんは取材が終わると「猫の餌やりがあるから」と工場の奥へ向かった。するとどこからともなく猫たちがやってきて、気づけば須田さんの周りには猫だかりができていた。

鉄工島にはたくさんの猫が住んでいる

昨年初めて「鉄工島FES」を開催した際、須田さんは猫たちが音に驚いて逃げ出してしまわないか、心配していたという。しかし猫たちは逃げ出すことなく、このイベントを受け入れた。それを見て須田さんも「『鉄工島FES』はいいイベントだ」と確信を持ったという。

現在、鉄工島FESはチケット販売中。公式サイトはこちらhttps://tekkojima.com/

(※作品のタイトルや内容などは変更になる可能性があります)

当日参加する人は、音楽や芸術が、日本が世界に誇るべき「ものづくり」の現場と融合する姿を目にすることができそうだ。武骨な工場には、そこには洗練された美はないかもしれないが、培われた伝統が感じられる。

もしかしたら、鉄材の隙間から猫たちがこちらをのぞいているかもしれない。それが京浜島のありのままの姿だ。

(文・宮崎敬太、写真・和田咲子)

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