いしわたり淳治のWORD HUNT

さくらももこの歌詞に宿る「センスのいいナンセンス」

  • いしわたり淳治のWORD HUNT〈vol.12〉
  • 2018年10月19日

  

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の五本だ。

 1 “ふざけたきみのくちびる青し”(さくらももこ)

 2 “これからはじめてユーミンを聴ける幸せな人たちへ。”(松任谷由実の楽曲配信CM)

 3 “焼酎のノンアルコールビール割り”(オアシズ・大久保佳代子)

 4 “安全のため夜間・就寝時・外出時には窓を施錠してください。”(TOSTEM)

 5 “ギガ放題”(UQ WiMAX)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 いま気になる五つのフレーズ

  

歌詞を書いてアーティストに渡したときに「ここって、どういう意味ですか」と質問されることがたまにある。もちろん、意味のわからないことを書いた覚えはないので説明はできるけれど、説明して納得してもらったところでそれも何か違う気がするので、自分の中のルールとして説明を求められた場合はその部分は書き換えることにしている。

ときどき思う。おそらく作詞家というのはこれまでもこれからも「意味のわかる歌詞」以外書かせてもらえない職業なのだろうなと。アーティスト本人が書いたのであれば、少々意味がわからなくてもそれが味となることもあるけれど、私のような外部の作詞家がわざわざ意味不明の歌詞を書かせてもらうなんてことは滅多にあることではない。

だけれど、世の中にはPUFFYの『アジアの純真』やB.B.クイーンズの『おどるポンポコリン』のように、ナンセンスな言葉の羅列が曲のチャームポイントになっているような歌もある。そういう歌を聴くにつけ、うらやましいなあと、心の中で指をくわえている。

現在オンエア中の『ちびまる子ちゃん』のエンディングテーマ『すすめナンセンス』の歌詞もまた素晴らしい。タイトル通り、ナンセンスな言葉がずらりと並んだ名曲で、中でもいちばん最後のフレーズ「ふざけたきみのくちびる青し」の部分が好きだ。ナンセンスな歌に“腑(ふ)に落ちる着地”なんてものはそもそもないのだから、終わり方は特に難しいと思う。この「ふざけたきみのくちびる青し」は、少し文学的な語感、せつなさ、脱力感、ほほえましい光景、すべてが完璧にちょうどいいなあと思う。なんてセンスのいいナンセンスだろう。作詞はさくらももこさん。心からご冥福をお祈り致します。

  

人から「最近おすすめの映画ありますか」と聞かれることがある。普段から映画は見る方だけれど、急に聞かれるとなかなか思いつかないもので、結局いつも同じような昔の映画を答えてしまう。映画の好みというのは本当に人それぞれで、趣味が合わなければいくらすすめられても退屈に感じるし、期待しすぎるとつまらなく感じたりもするから難しい。

先日、妻と話していて、『フラガール』をまだ見たことがないと言われた。当然妻の性格はよく知っているので「えっ! 絶対好きだし、見た方がいいよ」と言ったあと、「いいなあ、これからはじめてフラガールを見られるなんて……うらやましい」と何げなく口からこぼれた。

それからしばらくしてテレビからユーミンのこのCMが流れてきた。「これからはじめてユーミンを聴ける幸せな人たちへ。」。わかる、わかる、その感じ。

若い頃は「知らない」というのが恥ずかしいことのように思えて、手当たり次第に音楽や映画をあさっていたけれど、今は、知らないことはむしろ楽しみなことだと思うようになった。

だからというわけでもないけれど、私にはこれからの楽しみのために、まだあえて聴かないようにしているアーティストというのがいくつかある。“感動”の時限爆弾のような感じ、と思っている。遠足は当日よりも前の日の方が楽しい、みたいな感覚で、どこかで流れてきてもなるべく耳に入れないようにして、聴きたいけど聴かないようにわくわくしたままで寝かしている。

  

いつかの『金曜ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)のお部屋改造企画で大久保さんが、おしゃれに生まれ変わった自宅で格好つけてお酒を飲んでいて、「それ、何飲んでるんですか」と聞かれたとき、「焼酎のノンアルコールビール割り」と答えた。そのときは、トリッキーな飲み方に笑いはしたけれど、それ以上特に何も思わなかった。

それからしばらく時が経って、自宅の冷蔵庫の中で誰にも飲まれることなくいつまでも居座っているノンアルコールビールを見つけたとき、ふとそのセリフが頭をよぎった。

焼酎のノンアルコールビール割り。なんとなくやってみると、なるほど。これはこれでおいしい気もする。それ以来、店でノンアルコールビールを見かけるたびに大久保さんの格好つけた顔が思い浮かぶようになった。

人の記憶というのは不思議だ。覚えなければいけないことはもっと他にたくさんあるだろうに、こういう「焼酎のノンアルコールビール割り」みたいなどうでもいいことは、覚える気もなかったのになぜか覚えていたりする。

  

築20年近くになる妻の実家のトイレの窓に「安全のため夜間・就寝時・外出時には窓を施錠してください。」と書かれたシールが貼ってあった。こんな基本的なことを注意するためにシールをわざわざ作り、窓の一番目立つところに、20年もの間剝がれない強度ののりでべったりと貼ってあることに驚いた。

これを書く必要があるのなら「ガラスを硬い物でたたかないでください。」だとか、「外気を室内に取り込みたい場合は窓を開けてください。」だとか、他にも書かなければいけないことが無限にあるような気もする。

それでも、こんなシールをわざわざ貼らなければ夜間・就寝時・外出時に窓を施錠する習慣がない人がまだまだ多かった時代がつい20年前にはあったのだなと思うと感慨深い。

おそらく、鍵をかける習慣がなかった頃は隣近所と顔見知りで仲が良かったんだろう。鍵をかけるのが当たり前になるのに比例して、人は自分の心に鍵をかけるのも当たり前になっていったのだろうな。と、トイレで用を足しながら、ふと思った。

  

ギガ放題。冷静に考えると、すごい単語だなと思う。数年前まで、携帯電話の「ギガが足りない」というのは、写真を撮ったけど保存できない、みたいなストレージ容量が足りない状態のことを指していた気がする。それが今ではすっかり、通信制限がかかって動画が見られない、といった通信量の不足を指す言葉に置き換わっている。 “ギガ=通信量”というのが常識の今、「ギガ放題」で「通信量無制限」の意味が成立してしまうということなのだろう。でも、本来なら“何”のギガが無制限なのかが大事なわけで、大事な方が省略されている奇妙さがある。

でも、思えば携帯電話のことを「携帯」と呼ぶのもおかしなことだった。携帯灰皿だの携帯型ゲーム機だの「携帯ウォシュレット」だの、この世に「携帯〇〇」は無数にあるのに、大事な方を省略して「携帯」と呼んでいるのだから。

そういえば。近所の八百屋で買い物をすると「まいど」と言ってお釣りを渡してくれる。おそらくこれも「毎度ありがとうございます」の省略形だろう。となると、いちばん大事な「ありがとうございます」が省略されてしまっているのだから、なんという本末転倒だろう。

日本人というのは何でも省略したがる国民だ。省略のためなら、いちばん大事な部分が失われることもいとわない国民性なのだ、と了解しました。あ、いや、りょ。違った。り。

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PROFILE

いしわたり淳治(イシワタリ・ジュンジ)

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

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