天才人語

「総合力で澤部に勝てる芸人はいない」ハライチ岩井勇気の相方論

  • 聞き手:斎藤岬 写真:小島マサヒロ
  • 2018年10月17日

  

2009年、『M-1グランプリ』決勝に突如現れ、「◯◯なやーつ」のフレーズで一躍注目を集めたハライチ。結成13年目を迎えた現在、ツッコミの澤部佑は年間477回(2017年、エム・データ調べ)のテレビ出演を果たす超売れっ子になった。

一方、ボケの岩井勇気は長らく“じゃない方芸人”にくくられてきたが、『ゴッドタン』(テレビ東京)での活躍や、趣味のアニメ関連の活動、そしてラジオ『ハライチのターン!』(TBSラジオ)におけるフリートークの面白さなどから、あらためてその才能を評価されるようになっている。芸人からも支持が厚く、業界内にもファンが多い岩井に、「天才だと思う人は誰か」と尋ねた答えは、やや意外な人物と、意外すぎる理屈だった――。

構造がわかってしまうと「天才」と思えない

  

――今回、岩井さんが挙げられた「天才」は澤部さんということで、ちょっと意外に感じました。

岩井 あんまり人に憧れることがないんですよ。基本的に、人がやっていることをやりたくないというか、みんながしのぎを削っている方向には行きたくない。「この人みたいになりたい」って目指しても、その道には絶対的にその人物がいるんだから。それに、誰かの名前を挙げたとしても、絶対誰かしら俺より詳しくて語れる人がいるでしょうし。「じゃあ俺が語れる身近なすごい人って誰だろう」と考えた時に、澤部だな、ってなりました。

一回「すごい人だな」と感じても、分解して、その人の思考回路やそこに至るまでの過程、構造がわかっちゃうと天才だとは思わないじゃないですか。逆に、仕組みがわからないところがある人は魅力的だし天才だと思える。俺は澤部にそう感じている部分があるんですよね。

澤部 佑(さわべ・ゆう)

1986年生まれ、埼玉県出身。お笑いコンビ「ハライチ」のツッコミ担当。2005年に幼稚園からの同級生・岩井勇気とコンビを結成し、09年「M-1グランプリ」決勝初進出。以降、独特のツッコミで一躍ブレーク。バラエティー番組で引っ張りだこに。『相葉マナブ』『探偵!ナイトスクープ』(共にテレビ朝日系)、『日本人のおなまえっ!』(NHK)、『なりゆき街道旅』(フジテレビ系)などレギュラー多数。

――幼稚園からの幼なじみで、コンビを組んでいてもまだ謎めいた部分がある、ということですか?

岩井 どう説明したらいいんだろう……メディアに出ている澤部って、明るくてバラエティー対応がうまくて、テレビに出るタレントとして重宝される存在じゃないですか。そういう人って普通は、逆に「闇があるんじゃないか」とか「実はプライベートでは嫌なヤツなんじゃないか」とか、ギャップを求めて詮索(せんさく)されがちだけど、澤部にはそういうところがない。その理由を考えた時に、「誰も澤部のプライベートとか真の姿に興味がない」ことに気づいたんです。

――視聴者が澤部さんの中身には関心がない、と。

岩井 そうです。たとえばラッピングされたプレゼントがあるとするじゃないですか。澤部って、ラッピングがめちゃめちゃきれいなんですよ。それでみんな「うわー、きれいな包みだな」ってすごく感心するし、まじまじと見る。ところがあまりに包みがきれいだから、そこに気を取られて誰も中身まで興味がいかないんですよね。

  

岩井勇気(いわい・ゆうき)

1986年生まれ。お笑いコンビ、ハライチのボケ、ネタづくり担当。芸能界きってのアニメ好きとして、『ハライチ岩井勇気のアニニャン!』(TBSラジオ)パーソナリティーの他、『ハライチのターン!』(TBSラジオ)、『熱波』(テレビ埼玉)、『おはスタ』(テレビ東京系)、『ハライチ岩井勇気のアニ番』(ニコ生)、『オーラル・ジョブズ』(スペースシャワーTV)、『全力部活!E高!』(AbemaTV)などのレギュラー番組を抱える。「小説新潮」(新潮社)、「TVBros」(東京ニュース通信社)でコラム連載中。

――岩井さんはその中身を「天才」だと思っている、ということですか?

岩井 そこは順番に説明しますね。まず澤部って、ファンがいないんですよ(笑)。「澤部“も”好き」って人はいるかもしれないけど、「一番好き」っていう人はいない。同世代でいったら、澤部はいちばんテレビに出ていて、売れてる芸人だと俺は思いますが、「ゴールデンのバラエティーにいっぱい出たい」という意味ではなく「澤部みたいになりたい」って芸人を、ひとりも聞いたことがない。芸人がよく、「澤部は六角形(レーダーチャート)でいったらきれいな六角形だな」って言うんです。それって、見方を変えれば何も一番ではないってことですよね? でも総合力でいえば、今澤部に勝てる芸人は1人もいないと思うんですよ。

――たしかに澤部さんのバラエティー番組での活躍は、総合力があってのものだと感じます。

岩井 ただ、澤部の返しや振る舞いやリアクションのパターンって、ほとんどがどこかで見たことあるものなんですよ。いや、全部と言ってもいいかな。とにかくあいつは、どこかで見たものを吸収してアウトプットするのがうまい。

――岩井さんがそれに気づいたのは、いつ頃なんでしょう?

岩井 小学校で初めて同じクラスになったとき、澤部の言うことにはセンスがあって、同世代のお笑い観ではありえない域にいました。だから俺は「こいつのセンスを超えたい」と思って頑張っていたくらいで。でも大人になってラジオをレギュラーでやるようになってわかったんです。俺はその頃初めてほかの芸人の番組を聴くようになったんですけど、澤部は小学校の頃から深夜ラジオを聴いていたんですよね。そこで得たワードとかお笑い観を吸収して俺らに出していたのが、同世代で聴いているヤツなんかいないからバレてなかっただけ。そのことを芸人になってからも、しばらくはわかってなかったんです。

  

だからしばらくの間、テレビに出るようになってインプットとアウトプットがうまくなっていく澤部を見ていて、「昔は違ったのにな」と思っていました。でも「あぁ、そういうことか」と。「こいつの受け売りはあの頃もう始まっていたんだ」ってわかっちゃって。ただそうなると、「じゃあ結局、芯の部分には何があるんだ?」ってなるじゃないですか。

――それで「中身がない」という結論になった?

岩井 そう、あいつには実体がないんです。たとえば、澤部は洋楽が好きで、俺はスピッツが好きです。俺は「なんで好きなの?」って聞かれた時に、「ボーカルの草野マサムネさんの声が良くて、歌詞が押し付けがましくなくて、ライブで音源からの再現性が高くて、ベースの田村(明浩)さんが暴れるのもよくて……」といろいろ挙げられるけど、澤部が「なんで洋楽が好きなの?」と質問された時に「かっこいい」以外の答えを返しているのを聞いたことがない。つまり、自分の中に説明できるような理由がないんですよ。洋楽に限らずすべてのことに対して、人が「良い」と言っているものをそのまま「良い」と思っているだけで、あいつ自身なんてどこにもいない。つまり実体が「無」なんです。

――あんなにたくさんテレビに出ている人が「無」ですか……。

岩井 そこですごいのが、俺だったらたとえばバラエティーでの振る舞いにしても「こうやれば人に受け入れられる」「みんなはこれが良いと思っている」というのがわかっていても、完全にその通りにはやれません。どうしても“自分”を入れたくなってしまう。でも澤部は「無」だから100%でそれができる。ゆえに総合点がめちゃくちゃ高い。最強のバラエティー芸人だと思いますね。

――相方が「無」だと気づいたことで、コンビの関係性に変化はありましたか?

岩井 それは変わらないです。だけど「なんなんだろう、これは」と、もやもやしていたものが、「そういうことだったんだ」と整理された気はします。でも、完全に解き明かされたわけじゃない。だって、「こんなヤツ、いるの?」って思うじゃないですか(笑)。「無」の部分は理解できないから。憧れとか魅力って、自分にないものを持っていると感じるから抱く感情だと思います。澤部は基本誰にも興味を持たれていないので、その「無」の部分を見つけたことで今、俺が唯一澤部に魅力を感じている状況ですね。天才といえば天才といえるかもって。

――一般的な「天才」の定義とはだいぶ違いますが、岩井さんの理論は理解できました。一方で、ハライチファンの間では、「天才」の称号はどちらかといえば岩井さんに与えられるものだと思います。ご自分ではそこはどうとらえていますか?

岩井 「そりゃそうだろうな」って感じです。どちらかといえばというか、表向きに澤部が「天才」って呼ばれるわけがないんだから。でも俺はたぶん分解可能なんですよ。読み解こうと思えば、内部構造が明らかにできちゃう。まず自分で自分自身の理屈がわかっていますし。澤部は、自分の中身が「無」だってわかってないと思うんですよね。俺、澤部の中身が虚無だって話を今回初めてしていますが、これをもしあいつが読んで「俺って『無』なんだ」と認識した途端、サラサラサラ〜って肉体ごと崩れてなんにもなくなるかもしれないですね(笑)。

  

――じゃあ、ご本人には読まないでいただいたほうがいいですね。

岩井 まあ、いわゆる天才って手品のタネと一緒だと思いますよ。からくりがわからないから他人は興味を持つけど、天才と呼ばれている人も、本人はタネをわかっているから「別に大したことない」と思っているんじゃないですかね。他人も理屈がわかれば「同じことをすれば自分でもできる」と理解できる。だから世の中に本当の天才なんてそうそういないと思います。

ただ、理屈がわかってもやりたくないしできないことはあって、例えばコミュニケーション能力が優れている人や、人付き合いがめちゃめちゃ好きな人はすごいと思います。コミュニケーション能力さえあればだいたいなんでもできますからね。俺は完全にそこにストレスがあるので。

――ただ、ラジオでのトークなどからは、意外と岩井さんより澤部さんのほうが先輩づきあいが悪かったり、学生時代は暗かったりと、内向的でコミュニケーション能力は高くない印象があります。

岩井 澤部は暗いんじゃなくて、なんにもないんですよ(笑)。あいつのコミュニケーション能力って、“澤部”をやっていくうちにわかった「こういうふうにしたらみんなは明るいと思ってくれるんだ」みたいなものを集めて形成しているだけなんで。

――実は澤部さんのほうが闇が深いのでは、と思わされるときもあるのですが、そういうことでもないんでしょうか?

岩井 周囲が「澤部君、本当は闇あるでしょ」って追い詰めたら、闇は出てくると思いますよ。でもそれって、周りが「そうそう、それそれ! やっぱり闇あるじゃん!」って言えるように、求められたから作り出したものなんです。実際あいつの中には闇もなにもないんだから。みんな澤部に踊らされているんですよ。

――そこまでわかっていても、やはり澤部さんを完全に理解できているわけではないと考えているんですね。

岩井 最後の最後まで分解できないところがある気がします。ほかにそんな人を見たことがないから、澤部を見ていると「オリジナリティーがないことがオリジナリティーなんだな」と思って、今までの自分の価値観が崩されますね。

  

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