つくりびと

情熱と京都の風土が生んだ味 ジャパニーズクラフトジンのパイオニア「京都蒸溜所」

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  • 2018年11月2日

京都蒸溜所の代表メンバー。左から、大西正巳さん(テクニカルアドバイザー)、デービッド・クロールさん(オーナー)、アレックス・デービスさん(ヘッドディスティラー)。

いま、酒好きの間でにわかにブームとなっている国産クラフトジン。そのさきがけとなったのが、2016年10月に発売された「季の美」だ。作り手は、京都市南区吉祥院に小さな拠点をかまえる「京都蒸溜所」。オーナーのデービッド・クロールさんと、テクニカルアドバイザーの大西正巳さんに話を伺った。

日本初のクラフトジンづくり

イギリス生まれのデービッドさんは、大学卒業後に就職した金融関係の企業の研修で1980年代半ばに初来日。32歳だった1995年にその企業を退職し、スコットランドの蒸溜所に投資する形で、もともと好きだったお酒のビジネスに初めて参入した。その後、日本でウイスキー関連の仕事に携わるうちにジャパニーズウイスキーに惹かれ、2006年に日本産のウイスキーを輸出する会社を設立。そして2014年、次なるステップとしてオリジナルの酒づくりに挑戦するため、ふたりの仲間と酒造会社「Number One Drinks」を立ち上げた。

オーナーのデービッド・クロールさん(55歳)。京都はもともと大好きな街のひとつだったという

どんな酒をつくるか模索していた当時、目をつけたのが、世界的にブームとなっていたクラフトジンだった。どこのバーにも置かれているポピュラーなスピリッツのなかで、産地が限定されているラムやテキーラと違い、ジンは基本の材料をおさえてさえいれば、自由にアレンジできる“伸びしろ”のある酒。そして、日本産のクラフトジンはまだなかった。自分たちの考え方、つくり方しだいで大きなプレゼンスを生み出すことができると確信したデービッドさんは、初のジャパニーズクラフトジンの開発に乗り出したのだ。その場所に選んだのは、京都だった。

「日本でクラフトジンをつくるにあたって、和のテイストを最も表現できるのは京都だと考えたのです。雅な雰囲気と歴史にあふれ、なによりも伝統と革新を掛け合わせたクラフトの文化に満ちている。そうした街の背景は、我々がつくりたいものにぴったり合うと感じました」(デービッドさん)

しかし、酒づくりに関しては素人だったデービッドさん。そこで声をかけたのが、十数年来の付き合いがある大西正巳さんだった。大西さんはかつてサントリーに勤め、ウイスキー「山崎」の蒸溜所の工場長も務めたこの道50年の大ベテラン。リタイア後は酒関係のセミナーの講師を務めるほか、洋酒研究家としても活動している。

テクニカルアドバイザーの大西正巳さんは今年74歳。「試行錯誤の毎日がとても楽しい」と話す

「相談相手に大西さんを選んだ理由はシンプルで、大西さんよりもお酒に詳しい人はほかにいないからです。ホテルグランヴィア京都のカフェで落ち合い、『実は京都でジンをつくりたいんです』と打ち明けました」(デービッドさん)

「5年ほど前に登壇したあるセミナーで『次はジンがくる』と言っていたほど、以前からクラフトジンの製造に興味がありました。プレミアムなものをつくれる可能性があって、お客さんを最も有意義にできる。デービッドから聞かされた話は、まさに『これは私の夢と一緒だ』と感じたのです」(大西さん)

こうして、日本初のクラフトジンづくりへの挑戦が始まる。デービッドさんと大西さん、そして、デービッドさんのビジネスパートナーであるマーチン・ミラーさんと角田紀子さんを加えた4人でのスタートだった。

29歳の若きヘッドディスティラー(蒸溜技師)、アレックス・デービスさん。大学で醸造・蒸溜学を学び、イギリスの蒸溜所でジンの生産に携わっていた彼を、デービッドさんがスカウトした

農家を巡って50種類のボタニカルをテスト

ジンは、ベーススピリッツにボタニカル(ハーブ、果皮、スパイスなど)を加えて蒸溜し、最後に水を入れてアルコール度数を調整することでできあがる。

京都蒸溜所のメイン商品「季の美 京都ドライジン」は、京都産の素材をふんだんに取り入れたクラフトジンだ。
設計の指針は、「京都らしさ」「プレミアム」「クラフト」。それを、ベーススピリッツと水、そしてボタニカルを組み合わせて表現する。

一般的な国産ジンではベーススピリッツに焼酎や泡盛が使用されることが多いが、数種類をテストした結果、ほのかな甘みとマイルドな味わいをもつライススピリッツを採用。度数を調整する割り水には、名水として知られる伏見で最も古い歴史を持つ造り酒屋「月の桂」の仕込み水を使用している。個性豊かなボタニカルのフレーバーを調和させるためには、水にこだわる必要があるのだという。

「季の美 京都ドライジン」5000円(希望小売価格)。全国の小売店のほか、バーなどでの取り扱いも

そして、ジンの個性を決めるうえで最も重要なのがボタニカル。約50種類もの素材を試し、最終的に11種類に絞り込んだ。日本ならではの素材にこだわり、そのほとんどが農家との綿密なやり取りを通して選んだ京都産の農作物だ。

ゆずは、綾部市にある仕入先の農園で、自分たちの手で収穫。トラックに積んで蒸溜所まで運び、手作業で皮をむいている。しょうがは、地域で有名なしょうが農家に専用の畑で栽培してもらい、現地の洞穴で寝かせたものを使用。鮮度を保つため、蒸溜前日に届けてもらっているこだわりようだ。ほかにもレモン、赤紫蘇、山椒、笹の葉、宇治の玉露などそのラインナップは和を感じさせる個性的なものばかり。旬の素材を使うことに重きを置いているため、これらをフレッシュなまま使用する。

近所の農家から仕入れているレモン。一般的なジンでは乾燥させるが、京都蒸溜所では真空冷凍保存したものを使用

街の歴史を守り続けてきた京都は、閉鎖的でありビジネスの新規参入は難しいイメージが強い。しかしデービッドさんは、「そんなことはまったくなかった」と話す。

「幸いなことに、農家とつながりのある方にサポートしていただけました。そこから数珠つなぎのように農家さんを紹介してもらったのです。京都はコミュニティがすごくコンパクト。だから、すぐにネットワークを広げていけました」(デービッドさん)

「伏見の水は『月の桂』という清酒をつくっている方に分けていただいています。酒同士で競合すると思われるかもしれませんが、そういう概念はきっとなくて、いいもの同士でコラボレーションしたいという気持ちのほうが強いのだと思います。逆を言えば、“京都でつくるお酒はいいものでなければならない”と考えているはず。だからこそ、我々の考えに賛同していただけたのだと思います。農家さんにも、会いに行って『私たちはこういうものをつくりたいんだ』と熱意をしっかりと伝えることで協力してもらえました。なにしろデービッドの、酒つくりに対するパッションはものすごいですからね(笑)」(大西さん)

山椒も京都産。フレッシュなものを冷凍することで豊かな香りが保たれる

素材選びだけでなく、製造方法にもこだわりが光る。ボタニカルはすべてまとめて抽出・蒸溜するのが一般的だが、京都蒸溜所ではこれらを6つにグループ分けし、別々に抽出・蒸溜。それぞれの素材の特徴を見極め、それに合わせて蒸溜・抽出時間、蒸溜のパターン、カットポイントなどを変えることで最も豊かな味わいと香りを抽出することができる。
さらに、彼らのポリシーはジンが完成した後の作業にも表れている。

「製造過程で出る蒸溜後のボタニカルは、本来であれば廃棄しますが、私たちはそれを固体発酵させ、有機肥料として仕入先のゆず農園の畑に戻しています。その土でゆずが育ち、翌年、また私たちが収穫して使う。そこまでやることが、私たちにとっての『クラフト』なのです」(大西さん)

蒸溜所ではデービッドさんの息子、ダグラスさん(写真右)も修行中。「いつか継いでくれたら素晴らしいですね」とデービッドさん

最後に、業界の先駆者となった彼らに「つくること」について聞いた。

「私にとって酒づくりは、子供を産み、育てるのと同じです。瞬間で完結するのではなく、ずっと試行錯誤を重ねながら高みを目指していく。知識や自分の生きてきた歴史を集大成する作業です」(大西さん)

「とても地道な積み重ねですね。大量生産できるものというより、できるだけいいものをつくりたかった。初めての試みだったので、ジャパニーズクラフトジンがどんなものか、誰もわからなかったんです。周囲のサポートやフィードバックを交えながら、少しずつ進んでいきました。コストや手間については置いておいて、まずは『いいものをつくる』ことを優先し、ベストな判断を重ねていく。いいものは、自然と人々に受け入れられていくと思います」(デービッドさん)

「季の美」の発売後、他社からも続々と国産クラフトジンが発表され、水割りやお湯割りといった日本独自の飲み方が生まれるなど、ジンの楽しみ方が徐々に広がっているという。スペシャリストたちが一丸になって生み出した「季の美」。その1滴1滴に、彼らの情熱と信念がつまっている。

国産クラフトジンの先駆け「京都蒸溜所」の写真特集はこちら

京都蒸溜所
京都府京都市南区吉祥院嶋野間詰町15
https://kyotodistillery.jp/

取材・文/平林理奈
撮影/YUKO CHIBA

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