&(and) MUSIC

若き天才ギタリストRei「偉大なテンプレを疑う」ことで生み出すオリジナリティー

  • 文・宮崎敬太 写真・江森康之
  • 2018年11月9日

  

「めちゃくちゃギターのうまい、ブルースをルーツにもった若い女の子のシンガー・ソングライター」というReiのうわさはなんとなく聞いていた。コムアイ(水曜日のカンパネラ)や谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)らさまざまなアーティストが、彼女の卓越したギタープレーと楽曲を絶賛するなど業界の注目度も高い。

だが、それ以上に気になるのが“ブルースをルーツにもつ”という点だ。筆者はライターとしてかれこれ15年以上ミュージシャンの取材を重ねてきたが、若手女性アーティストでブルースに精通している人に会った記憶がない。その音楽的素養はどのような過程で育まれたのだろうか。Reiに音楽的ルーツを聞いた。

「私たちの世代は時代や国など関係なく、カッコいいと思う音楽を聴いています。私も小学生時代からアヴリル・ラヴィーンや絢香さんを好んで聴きながら、それと同じように、ロバート・ジョンソン(1930年代に活躍した米国の伝説的なブルースマン)も好きでした」

Reiはデビュー前、リスナーとして音楽に親しんでいた過去をこう振り返る。フラットな姿勢で多様なジャンルに接するスタンスは、幼い頃から始まっていた。

「最初に好きになった音楽はクラシック。4歳からクラシックギターを始めて、様々な作品を聴いたり弾いたりして楽しんでいました。次に出合ったのがジャズです。きっかけは当時通っていたニューヨークの小学校のビッグ・バンドで、マイルス・デイビスなどを演奏していました。その後日本に帰国し、インターナショナルスクールへ。そこの同級生にドラムをたたいている男の子がいて、彼に誘われて60年代のロックをカバーする3ピースバンドを結成。彼がドラムで私がギター、ピアノをやっていた私の幼なじみがキーボード、という編成でした。ビートルズやレッド・ツェッペリンなどを演奏し、さらにそこからクリームを知った。クリームは戦前のブルースに影響を受けていたので、そこから私も時代をさかのぼってブルースを聴くようになったんです。同時期に1人で地元のライブハウスに立ち、大人の中に交じって演奏していました」

  

Rei(レイ)

兵庫県伊丹市生。シンガー・ソングライター、ギタリスト。幼少期をNYで過ごし、4歳よりクラシックギターをはじめ、ジャンルを超えた独自の音楽を作り始める。2015年、長岡亮介(ペトロールズ)を共同プロデュースに迎え、1st Mini Album『BLU』をリリース。以降、国内外のフェスに多数出演するほか、17年には日本人ミュージシャンでは初となる「TED NYC」でライヴパフォーマンスを披露。18年、1st Album「REI」リリース。

当時彼女は9歳。その少女が通好みの作品を演奏するものだから、色眼鏡で見られることもあったという。

「当時私はコアな音楽ファンの大人からよく批判されました。重厚な歴史的、文化的背景のあるブルースを、小学校3年生の女の子がライブハウスで演奏すべきでない。どうせ知りもしないでやっているんだろう。君のような年齢の人間はブルースと釣り合わないって。子供ながらに深く傷つきました。そのおかげでCDデビューする頃には批判への耐性がすっかり出来上がりましたが(笑)」

これはブルースに限った話ではないが、熱狂的なファンを持つカルチャーは時として排他的になる。閉じたコミュニティーで自分たちの価値観を煮詰めてカルト化する。そして異なる価値観は排除するのだ。当時の差別的な体験は、Reiの表現者としての姿勢に今も影響を与えている。

「私自身がみんなとちょっと違うものを好きなことが多かった。でも、大して知りもしない人に、好きなものを安易に否定されてとても傷ついてきたから、私はそういうことをしたくない。すべての価値観を肯定したい。自分の知らない音楽なら、その魅力を知りたいと思う。みんながみんな同じものを好きだったらつまらない。同じ社会で共存している、異なる価値観を否定したくない。なぜなら私は自分自身が何かを表現して発信する人間だから」

スランプはロジカルに回避できる

Reiは「ブルースに大きな影響を受けましたが、当時も今も決まったジャンルの音楽をやっているつもりはない」と語る。その言葉通り、自然な流れでたどり着いたブルースや、アメリカのロックンロールをベースにしつつも、どの型にもハマらない自由なポップソングを制作している。

彼女は作詞作曲を行う上で「ルーチンを作らないこと」を信念にしているという。理由は毎回フレッシュな感性を楽曲にインプットしたいから。だが、言うは易し行うは難し。楽曲制作に限らず、どんなことでもある程度自分なりの型を作って、そこにハメていくほうが進行はスムーズになる。

Reiはこれまで7曲入りのミニアルバムを3枚(「BLU」「UNO」「ORB」)とEP(コンパクト盤)を2枚(「CRY」「FLY」)と、決して少なくない数の楽曲を発表しているが、型を作らない制作スタイルを続ける中で、スランプに陥ることはないのだろうか?

「作り方を毎回変えるのは、正直すごくしんどいことです。でもスランプになることはありません。スランプって精神的に落ち込んでしまったり、曲のアイデアが浮かばなくなってしまったりすることだと思いますが、私はその状況を構成する要素を一つひとつロジカルに検証していけば、負担なく回避できると思っています」

  

彼女はさらりとこう返してきた。そして自分の音楽に対する向き合い方について語り始める。

「極端なことを言えば、表現することが目的で販売は二の次。だから曲作りは感情の赴くまま本能的にやります。音楽は芸術ですから。それに私はすごく不器用な人間で『人からどう見られるか』とか『いま世の中ではやっている音楽はなんだ』みたいなことを考え出すと混乱してしまう。だから制作の時はいったんマーケティング的な思考を完全に切り離します。とはいえ音楽を生業にしているので、作品の届け方も当然考えなくてはいけない。だから、まずは表現者として納得できるものに仕上げた上で、その後、その作品を“商品”とするために必要なことを客観的な視点で検討するようにしています。

私にとって制作したり発信したりすることは、一枚の絵を描いているような感覚です。一口に絵を描くと言っても、デッサンをして、ペン入れをして、色を乗せて、背景を描いたり、人物を描いたり、いろんな工程があります。自分の中にあるぼんやりとしたものをまずデッサンして、そこから必要なものを足したり引いたりする。作詞、作曲、パフォーマンス、さらにパッケージ化に至るまでの作業を含めて、一枚の絵を描く一連の行為というか、それぞれが別個の作業ではないんです」

コンプレックスがあったからこそ

Reiは理路整然と自らについて語る。彼女はビル・ゲイツらが出演した人気プレゼンテーション番組「TED」に登場し、ギタリストとしてパフォーマンスをしたが、彼女ならトークで出演しても完璧に番組を成立させてしまうのではないか。そんな感想をそのまま彼女に伝えると笑いながらこんなふうに話してくれた。

「インターナショナルスクールだったので、日本の学校よりはプレゼンテーションの勉強は多めにしたかも。あと、昔から収集癖があって、いろんなものをコレクションしてアーカイブしています。真空管とかミニカーとかツアー先で行った食堂の割りばし入れとか……そういう煩雑な情報を整頓して、研究したり、傾向を見定めたりすることがもともと好きなのかもしれません(笑)。

ただ、言葉に対する人一倍強い執着心を生んだ一番大きな要因は、日本に帰国してから日本語がまともにしゃべれなかったことだと思います。アメリカから帰国したばかりの頃は発音も文法もわからなかった。表現したいことはあるのに言葉を知らない赤ちゃんのような感じ。それが自分の中でものすごくコンプレックスでした。言葉の部分で、私自身の人間としての価値を判断されることがとにかく嫌だった」

  

Reiが音楽を始めたきっかけもコミュニケーションにまつわるコンプレックスだった。

「私にとって音楽はコミュニケーションツールです。楽器を弾く人間は、一緒に音を出すと相手がどういう人なのか、なんとなくわかります。私が楽器を始めた頃、英語も日本語も話せはしたけど、ずっと言葉と心のパイプがうまくつながってないような感覚がありました。自分の気持ちを伝えきれないというか、居場所がないというか。でも誰かとセッションしたり、音楽を通じてお客さんと触れ合ったりしている時は、ちゃんとコミュニケーションできていると思えました」

彼女は、音楽を介したファンとのつながりについて、今望む形をこう語る。

「私たちはピクセルの中で生きているわけじゃない。世の中がどんどんコンビニエントになり、身の回りのあらゆるもののポータビリティーが高くなっているからこそ、“生”であることやモノそのものの価値が逆説的に高まっていると思います。音楽で言えば、私はCDを売ることにすごくこだわっている。なぜなら、パッケージにはデジタルでは感じられないことがあるから。それは、CDの封を開けた時に感じたインクの匂いや、触った紙の質感。もっといえば、お店で美人の店員から買ったとか、すごく雨の強い日だったとかも含まれます。モノには体験が伴う。その特別な体験やモノそのものの価値は未来永劫(えいごう)失われません。だから最終的には良いライブができるミュージシャンが勝てるし、CDのパッケージも細部までこだわった作品のほうが、長い目で見たら生き残っていくのかなって考えています」

どこにも所属しない、無国籍な音楽を作っていきたい

このインタビュー連載では、これまで新しい時代を切り開く様々な20代ミュージシャンに話を聞いてきた。彼、彼女らに共通して感じるのは、自分の限界を自ら決めず、常に成功を疑わない心の前向きさだ。Reiも自身が理想とする姿を明確に言葉にしてくれた。

「私の譲れない価値観は“創意工夫”です。音楽の歴史やしきたりには、ちゃんと理由がある。それは重々承知しているけど、あえてそのテンプレートを疑って自分なりにツイスト(ひねりを加えること)ができるか。それが結果的にオリジナリティーにつながると思う。一工夫が一番大切だと思っています。

私の音楽に価値を見いだしてくれる人もいれば、そうでない人もいる。それは受け手側に委ねています。私は孤高の存在でありたい。どこにも所属していない、無国籍な人間として音楽を作っていきたいなと思っています。自分なりのスタイルを築いて、そこにフォロワーが付いてくるような存在になれれば最高です」

  

▼リリース情報

1st Album『REI』Limited Edition(CD+DVD)

単発

2018年11月7日(水)発売
価格:3,888円(税込)
UCCJ-9217

[CD]
1. BZ BZ
2. LAZY LOSER
3. My Name is Rei
4. Follow the Big Wave
5. PLANETS
6. Dreamin'
7. Silver Shoes
8. MELODY MAKER
9. Clara
10. The Reflection
11. Arabic Yamato
12. before sunrise
[DVD]
『MUSIC FILM #2 “Rei of Light”』

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