佐藤可士和「神は細部に宿る」 今治タオル事業で仕掛ける新たなブランド戦略

  • 2018年11月8日

Photo:Satoshi Osaka

日本を代表するクリエーティブ・ディレクター佐藤可士和さんが、10年以上前から手がける「今治タオル」のブランディングプロジェクトで、新たな仕掛けを始めた。

トップクラスのヘアメイクアップアーティストである中野明海さんとコラボレーションして「“美容”に着目した肌と髪にとことん優しいタオル」を製造、10月31日から販売を開始した。今後も形を変えて、さまざまなコラボ企画を展開していくという。

産地・今治をブランディングし、価値のベースとする戦略(マスターブランド戦略)で成果をあげた佐藤さんが、次に設定する目標はどんなものか。前回のブランディング論に関してのインタビューに続き、その手法に迫る。

Photo:Satoshi Osaka

佐藤さんが2006年にブランディング・プロデューサーに就任した今治タオルは、産地と製品の認知度の飛躍的な向上に成功し、2010年、過去十数年下落し続けた生産量がプラスに転じている。

佐藤さんは「タオルといえば今治と思われるレベルに達することができた」と自ら分析する。産地ブランドとしての「今治タオルブランド」を確立した次のフェーズとして、タオルメーカー各社の存在感を際立たせていくブランディングに注力する中で実現したのが、中野さんとのコラボプロジェクトだ。

コラボでは、中野さんが監修し、今治タオル工業組合に所属するメーカー4社がそれぞれの技術や個性を生かして美容機能の高いタオルを製造した。

10月末に都内で開かれた発表会では、各社のオリジナルタオルが展示され、触れてみると、確かな違いが感じられた。

  

今治タオルのメーカー4社と中野さんが開発したタオル

(左から順に)
MURAKAMI PILE:洗濯を繰り返しても柔らかさが持続する優しい素材が魅力
ONARU TOWEL:毛落ちの少ない特殊な糸を採用し、肌になじむ柔らかさを追求
WATANABE PILE:表面がモコモコとした独自加工で暖かさが感じられる
ORIM:肌摩擦を極限まで軽減したなめらかな肌触り

発表会に出席した佐藤さんは「中野さんから“部屋の中に置いても様になる感じにしてほしい”とかなり難易度の高いお題をいただきました」と笑いながら振り返った。吸水性など質の面はもちろん、消費者のライフシーンを彩るスタイリッシュさを意識して監修したという。

「カラーはベーシックな白に加え、アッシュピンクとグレーの3種類。ピンクとグレーを採用したのは、ピンクは鏡越しに肌が奇麗に見える効果が、グレーは自宅をスタイリッシュに彩る効果があるからです」(中野さん)

当初のリリースタイミングを後ろ倒しにし、納得いく仕上がりになるまで徹底的にクオリティーを追求する中野さんの姿勢に、佐藤さんも驚いたそうだ。

「今までは戦略的に団体戦を仕掛けていた。これからは各メーカーの個人戦になる」

佐藤さんは今治タオルプロジェクトについてこう説明する。次のフェーズで目指すものと、中野さんとのコラボを選んだ理由を聞いた。


10年かけてタオルメーカーをブランド化していく

――今回、中野明海さんとコラボした経緯を教えてください。

佐藤 今治タオルのブランディングプロジェクトを始めて今年で13年。最初の10年で「今治タオル」というマスターブランドを確立することができたので、次は一つひとつのメーカーのブランド育成を考えていました。フランスのボルドー地方にさまざまなシャトーがあるように、今治が個性豊かなタオルブランドが集う地域だということを訴求していくイメージです。

Photo:Satoshi Osaka

メーカーをブランドとして認知してもらうには、製品を消費者にどう届け、どう楽しんで使ってもらうかを考えなくてはいけない。そこには、各メーカーの強みを最大限引き出せる人が必要になる。そこで思い浮かんだのが中野明海さんでした。

中野さんはメイクアップアーティストとして第一線で活躍するプロ中のプロ。女性が魅力を感じるタオルの質やデザインを考える上で、彼女の審美眼には絶対的な信頼を置いていました。それに加えて、彼女は子供の頃からさまざまなタオルを使い分けていたというタオル好き。極めて高いレベルのプロ目線とユーザー目線を兼ね備えた人で、消費者を驚かせるタオルを作るのに適任でした。

彼女は僕の予想をはるかに超えるこだわりを発揮して、正直驚きました。彼女がいたからこそ、メーカーが自分たちではたどり着くことができなかった境地に到達できたことは間違いありません。

――具体的にはどのような点にこだわったのでしょうか?

佐藤 「使ったときに奇麗に見えること」はかなり意識しました。今の時代はコミュニケーションのスピードが早く、ビジュアルを中心にやり取りが進んでいく。したがってビジュアルコミュニケーションを前提にインパクトのある製品を作らないと勝負できません。中野さんは、タオルそのものをスタイリッシュにするだけでなく、タオルとユーザーをセットにしてインパクトのあるビジュアルを生み出すことを考えていました。それが「タオルを使ったときに肌が奇麗に見える」ということ。ユーザーがこのタオルを使っている写真をInstagramに投稿したくなるかどうか、その視点は大事にしました。

――大のタオル好きであることも中野さんとコラボする決め手になったそうですが、ブランディングを考えるうえで、熱量の高い相手と組むことが重要なのでしょうか?

佐藤 それは時と場合によりますが、マニアックな人が強みを発揮することは少なくありません。「神は細部に宿る」といいますが、日本には微差を楽しみ、味わう文化があります。微差を追い求めるためには、そのモチーフに対する強い愛着が不可欠です。その意味でも今回、中野さんは、彼女にしか感じることのできない細やかなポイントを徹底的に追求し、オリジナリティーの高いタオルを作ってくれました。

Photo:Satoshi Osaka

――「今までは団体戦で、今後はメーカーごとの戦いになる」というお話がありました。ブランディングの第2フェーズはどのくらいで完成するのでしょうか?

佐藤 まあ10年はかかると思いますよ。第1フェーズも、まず業界の風向きを変えることに4年、土台を揺るぎないものにするまでに10年かかりました。これはその他のフェーズでも変わりません。まだ発表できる段階ではありませんが、次の10年に向けて現在さまざまな施策を考えています。今後もみなさんが驚くコラボレーションを仕掛けていく予定なので、楽しみにしていてください。

(文・&M編集部 下元 陽)

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