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ハリケーンランプ職人の別所由加さん「小6から消えない怒りの炎があるから」

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  • 2018年11月15日

  

ハリケーンランプ――。嵐の中でもともした火が消えないと言われることから、その名が付けられたタフなオイルランプだ。かつては戦場や航海時の船舶、さらに馬小屋、ビニールハウスなどで使用されていたアイテムだが、ここ最近のアウトドアブームもあり、一部のファンから熱烈な支持を受けるなどリバイバルしつつある。ところが、国内で流通するハリケーンランプの多くは外国製。多くの国内メーカーがこのリバイバルを前に、撤退を余儀なくされているのが実態だ。そんな中、昔ながらの製法でハリケーンランプを作る若き職人が注目を集めている。

大阪府八尾市に拠点を構える創業大正13年(1924年)の老舗ランプメーカーの伝統を受け継ぐ「WINGED WHEEL」の別所由加さん(29歳)。国内最後といわれるハリケーンランプ職人だ。

八尾市の小さな工房でハリケーンランプ作りを行う

入手するのに1年は待たなければいけないほど大人気のWINGED WHEELのハリケーンランプは、一度火をともすと、安定した火が6~7時間も保たれる。もちろん、ちょっとやそっとのことでその火は消えない。その性能の高さはハリケーンランプが誕生した大正時代にすでに“完成”されていたと言われており、事実これまで一度の形状の変化もなく製造されてきた。

【動画】#500ハリケーンランプ アンティーク色(21000円)

未来が見えない仕事なんかじゃない

WINGED WHEELの前身にあたる「別所ランプ製作所」が、最初にハリケーンランプを売り出したのは1924年前後のこと。元ホウロウ職人だった別所さんの曽祖父が、ドイツ製のハリケーンランプを研究に研究を重ねた末、10年がかりで完成させたという。以降、北米や北欧、アフリカ、東南アジアへと輸出メインの事業を成功させていった。

昭和期に別所ランプ製作所で行われていたハリケーンランプ作りの様子/WINGED WHEEL提供

太平洋戦争を経て、戦後の復興、高度経済成長へと時代が移り変わり、生活に必要な明かりもランプから電気に。輸出事業を撤退し、農業用ハウス栽培用のランプとして国内での新規土壌を築いていったものの、生活の必需品ではなくなった時点で、“先細り”は避けられなかった。

大阪の地場産業として数多く存在していたランプメーカーは、次々と倒産。そして、別所ランプ製作所にも「その日」は訪れた。別所さんが小学6年生の時だった。

「3代目の祖父の時代に会社が倒産したんです。ある日突然、家も会社もなくなりました。この日のことは一生忘れないと思います。それからすぐに祖父の認知症が始まり、会社の再生を託されたのはそれまで会社の経営にまったくタッチしていなかった母でした。当時すでに日本で最後のランプ屋になっていたので、母はなんとか工場をよみがえらせようと必死で奔走しました」(別所さん)

どんな苦悩も前向きに乗り越えてきた別所さん

会社の倒産からわずか1年経った2004年に、別所さんの母と祖父の時代から働いていた工場長、さらに数人のランプ職人でランプ作りを再開。そして2007年にWINGED WHEELという新たな社名で再起を果たす。死に物狂いで働く別所さんのお母さんは、「将来の役に立つから」と、まだ幼い別所さんを取引の営業に連れていくこともあった。そんな母の背中を見て育った別所さんだが、将来工場を継ぐことは考えていなかったという。

「中学、高校とドラムに熱中して、より深く音楽を学ぶために大阪芸術大学へと進学しました。しかし2011年、大学2回生の時にずっとうちのランプ作りを支えてきてくれた職人さんが急死。貴重なハリケーンランプの作り手がいなくなってしまい、何が起きても弱音を吐かない母が『もうダメかも』って。それを聞いた瞬間、『そんなら私がやったる』と。当時は音楽を真剣に学んではいたけれど、どこか燃えきれない部分があったというか、人生のすべてを捧げられると思わなかったんです。それよりも、あんなにつらい思いまでして、母が守りたかったハリケーンランプをどうにか残したいという思いが勝った。ランプ作りを“未来が見えない仕事”だなんて、ただの一度も思ったことなんてなかったし、迷いはありませんでした。今思えば自分の選択肢は、昔から家業しかなかったんでしょうね」(別所さん)

ふるさと納税限定の#350ハリケーンランプ

別所さんは周りの反対を押し切って大学を中退。2011年、WINGED WHEELに入社した。ここからが本当の意味で「闘い」の始まりだった。

資料も金型も残されてないピンチに直面

手と足を動かす機械の操作には、ドラムでの経験がいかされているそう

1枚のブリキを専用の機械を使って金型でプレスし、手加工で各パーツを組み立てるWINGED WHEELのハリケーンランプ。その行程は300にもおよぶ。驚くことに、別所さんが工場で働き始めた2011年当時、その工程は一切データ化されておらず、1924年以来、職人さんによる“口伝”のみで、連綿と技術が受け継がれていたという。しかも、かつて繁盛していた時代は工程ごとに職人がいたものの、従業員はわずか数名になっていた2011年の時点で、すべての工程を把握している人間は誰もいなかった

「驚きました。ランプ作りに関する資料は一つも残ってなかったんです。『なんで残ってないねん?』という怒りで全身が震えましたね(苦笑)。幸運なことに工場には、何十年も前の職人さんがつくったパーツが残っていたので、それを組み立てていました。でも、その在庫がなくなったら、もう誰も作れない状態だったんですよ……おかしいですよね。とにかく、すぐに全工程の作業を把握しなければいけないと思いました。そしてそれを一つひとつ記録していこうと」(別所さん)

その日から、朝から晩まで工場長にへばりつき、機械と金型がどう動いて、部品が出来上がり、そしてランプが完成していくか……それぞれの工程を確かめつつ、何度も失敗を繰り返しながら、記録を取り続けた。

「気の遠くなる作業でしたけど、自分はできるっていう謎の確信があったんです。元々負けず嫌いな性格なので(笑)」(別所さん)

なお、作業工程を記録したノートは、現在60冊超。それでも、まだ全工程の8割程度だという。

工場での作業をつづったノート

別所さんの受難はまだ続く。あるパーツの在庫がなくなり始めた2014年ころのこと。新たにそのパーツを作ろうと工場内に「あるはず」の金型を捜してみると、つぶされているという衝撃の事実に直面したのだ。

「今でも理解できないし、もう絶望でしかなかった。金型がなければ、ブリキをそのパーツの形にすることができない。すなわちハリケーンランプが作れないわけです。金型を修復しようにも、1個10万円ほどのお金がかかる。しかも修復が必要な金型は30台近くもあった。そこで頼ったのがクラウドファンディング。結果、250万円を超えるご支援をいただいて、金型を修復できることになったんです」(別所さん)

WINGED WHEELの機械を操作するには、熟練の技術が必要となる

ハリケーンランプのパーツは20個ほど。その一つひとつを、プレス機を操りながら作りあげる。しかしこれも一筋縄ではいかない。現在、一般的に使われている金型と違い、WINGED WHEELの“昔ながら”の金型には上下左右を誘導する支柱がついておらず、熟練の技と経験が要されるのだ。頼れるのは自分の目と耳、そして感覚だけ。

「目指しているのは創業時から『これ以上のものはない』と言われてきた“完成形のハリケーンランプ”を忠実に再現すること。新しい機械や金型を使えばもっと楽に、そして量産できるかもしれないけど、理想からは程遠いものになってしまう。変に思われるかもしれないけど、うちで使ってるような古い機械ってみんな生きているんですよね。私が文句を言うと、次の日はへそを曲げて動かなくなるし。ボタン1つで動くような機械じゃないからこそ、一心同体。そういう意味では楽器に近いのかも……。なのでこれからも一緒に、この古い機械たちと人生をともにしたいと思うんです。もちろん、ご機嫌を伺いつつですけど(笑)」(別所さん)

亡き工場長に言われた「もう1人前」という言葉を胸に、日々ランプ作りに励んでいる

まだ、すべての工程を把握しているわけではない。貴重なパーツの在庫が減り続ける中、すべての工程の謎を解き明かし、自分だけで“完成形”を再現するために機械と向き合う日々が続く。

そして昨年、頼みの綱だった工場長が亡くなり、作り手は別所さんただ1人となった。どんな困難も乗り越えてきた彼女に、「つくること」について聞いてみた。

「“向き合うこと”ですかね。うちの場合は、歴史にも自分自身にも向き合わなければならないんです。そもそもハリケーンランプを作るには、おじいちゃんおばあちゃんのような機械と対話をしないといけない。作れる職人が1人になった今は、自分だけで解決しないといけない問題が次々にやってきます。でもそれも乗り越えていけると思います。倒産したことを聞かされた小6の時から、『なんでこんないいものがなくならないとあかんねん』ってずっと怒りを抱えていて、その怒りが今もおさまらないんです。この怒りはこの先も絶対に消えないし、これがあるから今までもこれからもやっていけると思うんです」(別所さん)

【動画】WINGED WHEELのもう1つの人気アイテム オイルランプ18500円~

WINGED WHEEL
http://www.lanterns.jp/wingedwheel/

撮影/米山典子
取材・文/船橋麻貴

WINGED WHEELのハリケーンランプの写真特集はこちら

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