いしわたり淳治のWORD HUNT

洗練されたJUJU作品の歌詞 作詞で大事なのは「何を書かないか」

  • いしわたり淳治のWORD HUNT〈vol.13〉
  • 2018年11月22日

  

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の六本。

 1 “カンタンに変わってくひとが いちばん苦手なくせに カンタンに変われないジブンが 誰よりいちばんキライ”(JUJU/作詞:松尾潔)

 2 “パパの顔、触りたくない”(「Dove MEN+CARE」CM)

 3 “チルしてた”(山本ソニア)

 4 “ご飯論法” (法政大学 上西充子教授)

 5 “1番の腹斜筋で大根をすりおろしたい!”(ボディービル大会の掛け声)

 6 “シャみだれキュー”(中村獅童)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 いま気になる六つのフレーズ

  

JUJUさんの新曲『メトロ』のサビの歌詞。まるでどこかのファッションビルの広告コピーのような、無駄のない美しい言葉がすてきだなと思った。

このサビにつながるAメロはというと、「すてきな人ねと言われた私は、混んでもいない地下鉄で席を立って、初めて隣の駅で降りると、知らない世界が広がっていた」という内容で、サビの内容と直接的にはつながっていないところがまた、いいなと思う。大人だなあと思う。こういう歌を聴くと、作詞というのは「何を書くか」の作業だと思われがちだけれど、大事なのは「何を書かないか」の方なんだよなあと、つくづく思う。

もしも、この雰囲気の歌に、日記のように主人公に何があったかを細かく書いたらやぼである。彼女の身に起きた悲しい出来事など、書けば書くほど、主人公の女の子が安っぽい印象になってしまうはずだ。作詞は、リアルさが重要だが、リアルを履き違えると、夢のない歌になってしまう。こんなすてきな雰囲気の歌は、久しぶりに聞いたような気がする。

  

Dove MEN+CAREのCM 。「パパの顔、触りたくな〜いって言われるのが一番イヤですねぇ……」とインタビューに答える四十歳くらいの男性。彼の容姿も服装も背後に映り込んだ部屋もオシャレな印象で、おそらくは、「オシャレに気をつかうなら肌にも気を使いましょう」といったメッセージなのだと思う。

だけれど、どうしても気になるところがある。この男性にすごーく覇気がないのだ。今にも消え入りそうな彼の様子を見ていると、もしかしたら娘たちが「パパの顔触りたくな〜い」と言うのは「肌ケア」ではなくて「彼自身の家族における立場」に問題があるような気がしてしまう。彼は家の中ではぞんざいに扱われているのではないかしら、と心配になる覇気のなさである。でも表面上はオシャレな感じで暮らしているんだよなあ、なんだかなあ、切ないなあ。と思って見てしまう。

このCMを見るたび、もしも自分の子供がこんなことを言おうものなら「はあ? パパはお前たちのために一生懸命働いたから顔がヌメってるんだ! 文句あるか! いいか、二度とそんなこと言うんじゃない!」と頰をごりごりとこすりつけながら立派に怒れるおやじでありたいなと思う。もちろん、しこたま怒った後に大至急、肌ケアグッズを買い込んで、必死で肌ケアをするけれど。でも、まずは。ビシッと言える父でありたいものだなと思う。

  

11月7日放送のバラエティー番組『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)。父親が運送・貿易・不動産の会社を経営していてフランスで育ったというモデルの山本ソニアお嬢様が、普段何をして遊んでいたかという話題になった時、「マリー・アントワネットとかルイ14世とかが幼少期育つためのお城があって、そのお城の隣の公園で、チルしてた」と言った。その公園で友達と特に何もせず、今日あったことや、週末何するぅー?とか話していたのだそう。

チル。SNSなどでは使う人も増えているようだけれど、いざ口に出すとまだ結構な破壊力がある。たぶん、特に何もしていないボーッとしている状況に、ものすごく格好のいいネーミングがついているというのが、おかしいんだと思う。ギャグみたいに感じて、吹き出してしまう。

かつてみうらじゅんさんは「“暴走族”という名前が格好良すぎるから若者が憧れるんだよ。“おならプープー族”とかにした方がいい。“学級崩壊”も“学級ぺろぺろ”にするとか」とおっしゃっていた。たしかに。格好悪い状況に格好いい名前はいけないのだ。

とはいえ、今の時代、来る日も来る日もあくせく働いてばかりいないで、たまにはチルするのも大事なことだ、とは思う。でも。それはさあ、「ボーッとしてた」でいいじゃない。「チルする」みたいな、意識高めの前向きな「ボーッと」は、だいぶ意味が違う気がする。「チルしよう」なんて言われたら、この人たちとは仲良くなれないな、という防衛本能が働いてしまう感じというか、何というか。

  

今年の新語・流行語大賞にノミネートされた「ご飯論法」。簡単に説明すると、

Q. 朝ごはんは食べなかったんですか?

A. ご飯は食べませんでした(パンは食べたけれど黙っておく)。

Q. 何も食べなかったんですね?

A. 何もと言われましても、どこまでを食事の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので……

というような受け答えが、国会での論点をすり替える答弁と似ていると指摘した論法なのだそう。たしかに。国会の質疑応答のあの不毛な感じ。まだ名前のなかった“あれ”に、初めて的確な名前がついた感じがする。

もしかしたらこの論法、私たちも知らず知らずに使っているのかもしれない。例えば、以下のようなよくある会話で。

 Q. 何食べるー?

 A. 何でもいいよー(食べたくないものはあるが黙っておく)。

Q. じゃあ中華でいい?

 A. えーっ。中華は嫌だー。

 Q. はぁ? さっき「何でもいい」って言ったじゃん!

 A. 「何でも」と言いましても、どこからどこまでを選択肢の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので……

私たちが誰かと話していて、イラッとする瞬間、そこには「ご飯論法」のようなものが隠れているのかもしれない。

  

11月7日放送のバラエティー番組『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)でのこと。ボディービル大会の掛け声を特集していた。「キレてるぞ!」「ばりばり!」「しあがってる!」「デカい!」みたいな掛け声は何となく聞いたことがあるけれど、年々すごいことになっているらしく、去年は「肩にちっちゃいジープ乗せてんのかい!」という掛け声が紹介されていて、今年は「1番の腹斜筋で大根をすりおろしたい!」だの、「腹筋6LDK!」だの、「ぱいぱいでか美!」だの、「背中広すぎてパンこねれるわい!」だの、「君の名は!」だの、さらに大変なことになっていた。

こういった「オモシロ掛け声」を浴びている選手たちはどうなっているかというと、当然一切笑うことなく紅潮したキメ顔で平然とポーズを決めている。その様子を見ていると、こんなとんでもない掛け声も、決して「やじ」ではなく、やはりどれも純然たる「応援」として行われているのだなと思わざるを得ない。

思えばサッカーや野球であっても、プロスポーツにおける最高の応援というのは、詰まるところ「選手の名前を、呼び捨てで、叫ぶ」というところに行き着く。見ず知らずの者が人の名前を呼び捨てで叫ぶなんて、普通なら無礼極まりない行為だけれど、プロスポーツの応援という場では、それは無礼ではなく感情の高ぶりとして届くのだと思う。なので、ボディービルの掛け声もその「感情が高ぶった結果」なのだと、飲み込むことにしようと思う。

  

中村獅童さんは、普段から読み間違いが多いらしく、「Wi-Fi」を「うぃーふぃー」と読んでいたそう。そして、「シャ乱Q」は「シャみだれキュー」と読んでいたそう。衝撃である。

バンド名に限らず、それまでに世に存在しなかったオリジナルな造語をネーミングに用いると、往々にして、インパクトは出るけれどぱっと見では読みかたが分からずに人からなかなか呼んでもらえない、という事態に陥りがちである。

その点、「シャ乱Q」は、誰もが聞いたことのない、まったくもって意味不明の言葉、違和感しかない超トリッキーな字面なのに、誰もが初見で「しゃらんきゅー」と読んでしまう、すごいネーミングだなあと思っていた。それなのに、である。「シャ乱Q」を読み間違える人がいたとは。世の中に絶対なんてものはないんだなあ、としみじみ思った。

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PROFILE

いしわたり淳治(イシワタリ・ジュンジ)

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

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