私の一枚

本当になりたい自分が見つかった、でも見返すのは怖い木村カエラの人生初ライブ

  • 2018年11月26日

自作の衣装をまとって歌いながら、カメラに向かってピース

人生で初めてステージで歌った高校3年生の時の写真です。場所は学校の体育館。映像とか録音はたぶん残っていないし、見返すのは怖い。あったとしても私は見なくていいです(笑)。

文化祭が終わった夜、生徒が残って打ち上げのようなイベントをやるのがうちの高校の伝統で、そこでの出し物として、バンドをしていた軽音楽部の子たちに誘われたんです。

それまでライブなんてやったことがなかったから、最初は断りました。でも、やると決めてからは当日がめちゃくちゃ楽しみになって、みんなでスタジオに行って練習したりして。中学生の頃から洋服を作るのが好きで、よく自分の服をリメイクして着たりしていました。この時の衣装も、首に巻いている銀色のものとスカート……巻きスカートみたいな、ちょっとチャイナ風のスカート、それは自作しました。

歌ったのは、椎名林檎さんとかGO!GO!7188とか。それとJUDY AND MARYも歌ったかな。見ているみんなからは「カエラ頑張れー!」って声援も飛んできたりして、みんなもう興奮状態。ちょうど秋口で、これが終わるとみんな進路に向かって本気で気持ちを切り替えなくちゃいけない時期。高校で楽しめるのは最後っていう気持ちが、みんなどこかにあったんだと思います。

歌への近道と思っていたモデル活動

もともと歌手になるのが子供の頃からの夢でした。小学6年生の時に原宿でスカウトされて、そこからカットモデルや読者モデルをしましたけど、どれも「歌に近づくためなら」と思ってやっていました。この写真は雑誌『セブンティーン』のモデルになった頃かな。だから「夢まであともうちょっとだ」と自分でも考えていたと思います。

一方では、服飾の学校に進学しようと思っていたんです。でも、服飾の仕事は本当になりたいと思っていた自分じゃない、このまま進学したら絶対に歌の夢が叶えられないと思って、進学をやめました。

このライブが、本当の夢を目指す意思を固める上で、大きなきっかけになったんです。「何を考えてんの?」って親にも先生にも言われましたけど、「夢は追いかけなくなったらなくなるけど、大学はずっとそこにあるじゃん」って、高校生なのに親に生意気言っちゃって。結局、2年間だけ猶予をもらって、なんとか認めてもらいました。

時間的な制限があったから、そこからはもう毎日のように夜中までデモテープを作って、それをいろんなレコード会社に持っていく日々。でも、どこにも拾ってもらえないんです。最初の1年間は何もできませんでした。

2年目に入ってようやくテレビ神奈川の『saku saku』という番組のMCのお話をいただいて、それが音楽番組だと聞いて一気に夢が近づいたと思ったんですけど、それでもぜんぜんデビューできなくて。一度、あるオムニバスアルバムに参加する話があったんですけど、気がついたらいつの間にか違う女の子が歌って発売されていました。

今年、初の絵本を出版するなど、音楽以外でも多彩な活躍を見せる木村カエラさん

タイムリミットがあったからがんばれた

そんな遠回りをしながら1年半が経った頃、もうさすがに時間がないと思って、ある日、「相談がある」と言って『saku saku』のプロデューサーを渋谷に呼び出したんです。こっちからの相談なのに、自分が行くんじゃなくて、呼び出した(笑)。ひどい若者でしたね。でも、そのぐらい必死だったんだと思います。当時、私が信頼できた数少ない大人で、私をわかってくれていて、お父さんみたいな感覚で私に接してくれていた人だったから、とにかく話を聞いてもらいたかったんです。「私には時間がない。どんな方法でもいいから歌を歌えませんか?」って。私、絶対売れるからって言って。

そうしたら、そこから急に話が進みはじめました。3カ月後に『saku saku』の企画で399枚限定のシングルを出そうということになって、ものすごくタイトなスケジュールで準備が始まりました。ジャケットの人面犬のイラストは、『セブンティーン』の仕事をした後に編集部で資料やコピー機を借りながら自分で描きました。

編集部のみんなも「がんばれがんばれ」って応援してくれて。なんとか間に合って発売したら、『saku saku』ファンの人達が並んで買ってくれて、すぐに売り切れたんです。めまぐるしかったけれど、夢がかなう瞬間ってすべてがクルクルと動き出して、なんだかおもしろいなあって、いま振り返ってそう思います。

あの2年、私が頑張れたのは、やっぱりタイムリミットがあったから。子供の時からの夢をあきらめなくちゃいけないという怖さがありました。でも、もし、そのリミットがなかったら、「また次に頑張ればいいか」なんて思いながら、今ごろまったく違う人生を送っていたかもしれないですね。

みんなにも、なりたい自分を見つけてほしい

今回、ドラマやCMのタイアップで歌った曲が集まってきたので、来年15周年を迎える一歩手前でミニアルバムを出すことになりました。そこであらためて1曲1曲を聴いてみると、曲によって声も、キャラクターも、歌詞の内容もぜんぜん違う。曲ごとにいろんな自分がいて、「これは誰?」って私自身でさえ思うような感覚がありました。

でも考え方によっては、なろうと思えばどんな自分にでもなれるということかって、その時に思いました。なりたい自分を見つけることでみんなイキイキできるし、みんなにもそういう自分を見つけてほしい。そういうメッセージをこのアルバムから発信できたらと思って、『¿WHO?』というタイトルにしました。「あなたは今誰ですか?」みたいな。だから、いろんな木村カエラが聴けるという意味での「WHO」と、自分探しという意味での「WHO」。タイトルには、この二つの意味が込められているんです。

大人になって、自分以外にも時間をかけるべき大切なものがたくさんできてきて、あの頃よりも自分だけに向き合う時間は減ったなと思います。でも、あの頃とは違う自分への向き合い方におもしろさも感じます。

今は個性を出しづらい時代だって言われたりもしますけど、もっと自分を見つけて、あなたしか持ってないカラーを出してみようよって。自分にどんどん向き合おうよって、そんなメッセージが伝わったらいいなと思っています。

(聞き手 髙橋晃浩)

     ◇

きむら・かえら 1984年、東京生まれ。2004年6月、シングル「Level 42」でメジャー・デビューし、これまでに25枚のシングル、9枚のアルバムを発表。2013年には自身が代表を務めるプライベートレーベル、ELAを設立。音楽以外にも多彩な才能を発揮し、2018年には初の絵本『ねむとココロ』(KADOKAWA)を出版。最新作のミニアルバム『¿WHO?』には、日本テレビ深夜ドラマ『プリティが多すぎる』主題歌「COLOR」、映画『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』エンディングテーマ「ちいさな英雄」、JRA CMソング「HOLIDAYS」など5曲を収録。

11月21日に発売されたミニアルバム『¿WHO?』(ビクターエンタテインメント/ELA)

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