インタビュー

マルチな声優の活躍を確信していた鈴村健一 「もっと芸能と声優をボーダーレスにしたい」

  • 文・岩倉大輔 撮影・大和田良
  • 2018年11月27日

  

いま、声優の人気はかつてないほど高まっている。その仕事も、アニメや映画で登場人物の声を演じるだけにとどまらず、大会場でのライブで歌い、テレビに出演し、ラジオ番組でパーソナリティーをするなど、多彩な活動が当たり前となっている。アイドルとの垣根もほぼなくなったようにも見える。

多彩な分野で活動する声優のひとりが、1990年代半ばにデビューした鈴村健一だ。声優としては『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』シン・アスカ役、『銀魂』シリーズ・沖田総悟役、『おそ松さん』イヤミ役など、シリアスからコミカルなキャラクターまで幅広く演じている。そして2008年からは、ソロアーティストとしての活動や即興舞台劇「AD-LIVE」の総合プロデュースを開始し、12年には自ら声優事務所「インテンション」を設立した。

業界のトップランナーは、現在の“声優”という職業ついてどのように考えているのか。鈴村健一のインタビューを2回にわたってお届けする。

今は第何次声優ブームかわからない状態

鈴村が声優を志したのは、90年代前半の高校生の頃だった。ちょうど、声優業界が変わりはじめた時期に重なった。

「声優の仕事にはアニメーション、外画(吹き替え)、ナレーションという大きな三つの柱があり、どちらかといえば“裏方”という認識がありますよね。当時はその認識が今よりずっと強かったのですが、メディアミックス展開が増えはじめ、声優という職業が脚光を浴びるようになってきた時期でもありました。例えば、『はなきんデータランド』(テレビ朝日系のバラエティー番組/89~96年放送)では定期的に人気声優ランキングをやっていて、『鎧伝サムライトルーパー』から生まれた『NG5』という男性声優ユニットが紹介されたこともありました。声優がパーソナリティーを務めるラジオ番組が増えてきたのもこの頃です」

裏方であった声優が一人のタレントとして見られはじめた時代。鈴村自身もまた、マルチな活動ができる声優という仕事に可能性を感じたという。

「声優に憧れる人は“裏方としての声優”に憧れて業界に入ってくることも多いのですが、僕は“声優ってなんでもできそうだ”と思って志した珍しいタイプでした。お芝居もできて、ラジオでしゃべれて、個性も出せて。もしかしたら声優という職業からものすごいスターが生まれるかもしれないという予感もありました」

  

その予感は的中し、この10年でスターと呼ぶにふさわしい声優が続々と登場した。『NHK紅白歌合戦』に6回出演した水樹奈々や東京ドーム公演を成功させたμ'sだけでなく、プライムタイムのテレビ番組に出演したり、広告のイメージキャラクターになったりする声優も増え、世間の認知度も急上昇。声優が「中高生のなりたい職業」ランキングの上位に入ることも当たり前になった。

ただ、声優人気はこの数年で爆発的に盛り上がったわけではない、と鈴村は指摘する。

「NG5の前には『宇宙戦艦ヤマト』の富山敬さん、アラン・ドロンの吹き替えをやられた野沢那智さんという人気声優がいましたし、90年代半ばには林原めぐみさんのCDがオリコン上位に入りました。野沢さんは、うちの親でも知っていましたから。声優になるって話したら、『野沢那智みたいになるのか』と返されるぐらいでした。“第何次声優ブーム”という言葉がありますが、今はもう第何次かわからない状態。時代とともに人気声優が生まれ、ずっとブームが続いていて、進化をし続けた結果として今があると思います」

若手には本業の垣根を越える仕事をたくさんしてほしい

鈴村自身は『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』や『銀魂』などで着実に人気声優の仲間入りを果たし、08年に『INTENTION』でソロアーティストデビューを飾った。しかし、10年前は声優がマルチに活躍することに対し、違和感を持つファンも少なくなかったという。

「“声優は声優として頑張ってほしい”というご意見もいただきました。ただ、僕は絶対に時代は変わると思っていた。そして実際、いま声優はなんでもできる職業として受け入れられています。それは、声優としても歌手としてもパフォーマンスのレベルが高く、さらにラジオで話しても面白いという先達たちがたくさんいたおかげです。マルチにやりつつ、それぞれで高いクオリティーを保てているので、どれも真剣勝負と理解してもらえたのだと思います」

  

ファンの声優に対するイメージが大きく変わったことで、声優志望者の意識も変わった。マルチな活動が“声優として当たり前”と認知されるようになったのだ。

「武道館に立つのが目標という声優志望者もいます。ひと昔前なら『声優は裏方に徹するべき』なんて言われそうですが、僕はすごくいいことだと思います。ただし声優としての活動をしっかりしなければいけませんが。今後は、声優と芸能のボーダーレス化がもっと発展すると思います。若い子には垣根のない仕事をたくさんしてほしいですし、僕自身、声優を芸能の一ジャンルとして当たり前のように受け入れられるような状況を作っていきたいです」

確かに“芸能と声優は違うもの”と思われがちだ。芸能人がアニメに出演したり、あるいは声優がバラエティー番組に出演したりすると、“本来の領分から出ないほうがいい”という意見が必ずといっていいほど出てくる。しかし、“決めつけないほうがいい”というのが鈴村の持論だ。

「声優は芸能の一部であるはずなのに、どこかまだ芸能と別だと考えられている節があります。例えば、顔出しの企画に出ると“芸能人みたいだね”って同業の方に言われることがありますが、『いやいやみんなも芸能人だよ。芸事でお金をもらってるでしょ』と思います。声優がTVドラマに出てもいいし、武道館に立ってもいい。もちろん、歌手だけど声優もできる人が出てきてもいいんです。

声優は裏方。表には出ないという方もいらっしゃいます。それはとてつもなく尊いことだと思います。でも、その逆があってもいいよねとも思います。声優も芸能人の一部だということが当たり前になったら、もっと面白いことができるかもしれないし、新たな才能を開花させられるかもしれない。成長の可能性を自分たちで狭める必要はないはずです。他のジャンルの仕事は声優の仕事にフィードバックさせるべきだし、他のジャンルの仕事も専業の人たちに負けないクオリティーで立ち向かわなければと思います」

声優と芸能の垣根を越える一人のパイオニアとして活動してきた鈴村は、自身の活動の幅を広げるため、そして新時代を担う後進の育成のため、12年に声優事務所「インテンション」を設立することになる。

(後編はこちら)

  

鈴村健一(すずむら・けんいち)

誕生日:9月12日
代表作:『銀魂』シリーズ・沖田総悟役、『おそ松さん』イヤミ、『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズ・聖川真斗、『宇宙戦艦ヤマト2202』島大介など

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