インタビュー

若くして海外の名門オーケストラを指揮 「ジャズ作曲家」挾間美帆が語るマネジメントの流儀

  • 2018年11月29日

2016年に米ダウンビート誌の「ジャズの未来を担う25人」に30歳で選ばれ、ニューヨークを拠点に活躍するジャズ作曲家の挾間美帆。日本でもNHKドラマの楽曲を手掛け、さらに坂本龍一やラウル・ミドンといった超一流ミュージシャンへの編曲提供、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の音楽にも携わるなど、ジャンルの枠を超え、世界の第一線で活躍している若きアーティストだ。

自身のバンド“m_unit”での活動だけでなく、メトロポール・オーケストラなど世界最高峰のビッグバンドとの共同プロジェクトや、国内最大のジャズフェスティバルでのプロデュース、ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルとのコラボレーションなどを行う彼女は、個性豊かで、さまざまな国籍やバックグラウンドを持つミュージシャンたちを、どのようにして束ねているのだろうか。多才な彼女に、それぞれの役割での、マネジメントの流儀についてお話を聞いた。

デビューは20代 ニューヨークで評価される「ジャズ作曲家」の肖像

挾間美帆は、マンハッタン音楽院を卒業後、26歳でデビュー作『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』をリリースする。すでに一流のジャズ・ミュージシャンから評価され、1作目からスティーブン・ウィルソンとステフォン・ハリスが、2作目の『タイム・リヴァー』にはジョシュア・レッドマンとギル・ゴールドスタインをゲストに迎えている。年齢や国籍は、その人物の能力をはかる判断材料にならないことの証左だ。腕ききのメンバーを前に、弱冠20代の彼女がタクトを振り、見事な作品に仕上げている。

「もともとニューヨークは差別が少ない街だと思います。始まりから割とニュートラルな状態でジャッジしてくれる。譜面が良く書けているとか、この音楽をいい音楽だと思ったら、そこに自分の力を捧げてくれる感じがします」

挾間はそう振り返る。一方で、彼女は自らのバンドm_unitにも力を入れる。メンバー選びには、挾間美帆なりのこだわりがあった。

「自分のバンドについては、完全に自分のやりたいようにやっています。これはフリーランスの良いところかもしれないですが、m_unitでは、環境も演奏してくれる人もすべて自分で選んでいるんです。いくら演奏がうまくても空気が読めない人は私のバンドには不向きかも。空気が読めて、いい人で、私の好む音色で、その上で演奏が上手な人を選びます。それから、“賢い”ことが重要で、私の定義する賢いというのは、“空気が読めること”にかなり近いんですよ。

譜面の状態をつかむのにも賢さが必要で、ただ書いてあるものを読んで演奏しても“音楽”にはならないはずなんです。『他の人はこういう試みをしている。じゃあ、自分はこういう役割になるんだろうな』ということに、常に自覚的なことが大切。自分がかっこよく演奏すればそれでいい、ではなく、自分の役割をわきまえられることが“賢さ”だと思っていて、それは人の性格にも、演奏にも出ると思うんですよ」

ミュージシャンには「自己主張が強い」というイメージがある。海外ならば、なおさらではないだろうか。バンドリーダーは個性的なミュージシャンと、時にネゴシエートをし、“空気を読みながら”、自分の音楽を形にしていく。

「私は、一度いいと思ったミュージシャンを信じるし、愛するし、価値観が違ったとしても『あなたはそういう風に捉えるんだ、へ~。それはそれでいいかも』と、自分が折れることも多いんです。海外のビッグバンドでは国によってさまざまなリスクがありますが、いつも言われるのは、“何が起きても動じているように見えない”ってこと。もともと転勤族の子供で、転校をするたびにゼロから友達を作り直すので、すごく空気を読んで生きてきたし、そこに命をかけていた部分もあった(笑)。なので、環境に適応するスピードには自信があるし、新しい環境でも動じないんですね。

世界のさまざまな国を訪れて、それぞれの地域によって特性があることは分かっています。彼らの人となりやテンポをつかむのは、むしろ好きなんですよ。たとえば、メトロポール・オーケストラ(1945年にオランダで設立された世界屈指のジャズオーケストラ。ジャズだけでなく、エルビス・コステロからベースメント・ジャックスまであらゆるジャンルと共演し、グラミー賞も多数受賞している)との仕事では、彼らはすごくマイペースなので“焦らせてはいけないこと”を心がけていて、押しつけはせず、提案した上で話し合うようにしました」

多国籍で個性豊かなミュージシャンたちを、いかにマネジメントしてきたか

徹底的に空気を読んで、的確な解決策を引き出し、その場をまとめて形にすることで結果を残してきた。それが挾間美帆の、プロフェッショナルとしての仕事なのだろう。そんな彼女にとって、2017年に開催された国内最大のジャズフェスティバル・東京ジャズはかなり大きな試練だったはずだ。ヨーロッパの超一流ビッグバンドのDRビッグバンド(1964年にデンマークで設立されたヨーロッパ屈指の名門ビッグバンド。マイルス・デイビスやスタン・ゲッツらジャズの巨人との共演歴も多数)をバックに、国内外の有名ミュージシャンが1曲ずつ入れ代わり立ち代わりゲストで入る、派手(でなかなかに無謀)な企画≪JAZZ 100年プロジェクト≫をプロデュースし、そして指揮をして、彼女は見事に成功させた。

「あの時は三つの性格を使い分けていました。デンマークのDRビッグバンドは面識がなくて、リハの時点で私を信用していないことは分かったし、同時に『この現場がかなり緊迫していることを彼らは分かっていない』とも思ったんです。彼らの前では、歩くスピードもゆっくりして、せかさないよう努めました。

日本人のミュージシャンに対してはすごく丁寧に、たくさんお辞儀をしていました。そうすることで、『私はビッグバンドの一員で、あなたたちがゲスト』という構図を見せることができました。デンマークのビッグバンドのメンバーには『なんであんなにペコペコしてたの?』って言われましたが、企画における、私の立ち位置を理解してもらうためだったわけですね。

逆にアメリカ人はみんなばらばらで頓珍漢だったので(笑)、言うことをはっきり言って、まとめる。お国柄ですが、彼らに対してはなめられないように指示をしっかりして、具体的に解決できる策を出していました」

大御所には周到な根回しを プロデュースを成功に導くために必要なこと

ジャズシーンの巨匠である、91歳のサックス奏者、リー・コニッツ。この大ベテランは、その年齢やキャラクターゆえ、こういった企画の中で決まった役割を演じさせるのは難しい(ことは、ジャズファンはわかっていた)。そのリー・コニッツがステージできちんとソロを演奏して、ビッグバンドと共演する。求められた役割を確実に演じた姿には、多くの観客が驚いたはずだ。

「リー・コニッツに対しては、まず外堀から埋めましたね(笑)。彼のバンドメンバーが別のライブのために来日していたので、バンドの中で彼が最も信頼をおくドラマーのジョージ・シュラーにコンタクトをとりました。リー・コニッツは高齢だから、何かにつかまっていないと舞台袖まで来られないような状況だったんですね。本番ではジョージにステージまでアテンドしてもらって、『○○を演奏してね』ってささやいてから、送り出してもらうことにしたんですよ。あらかじめ、どんな曲なら吹きたいかということもヒアリングしておきました。リハも全くできていなかったし、何の曲を吹き始めるか予想もできなかったので。……というような策を打ったら、なんとかうまくいきました」

話を聞くと綱渡りが続いているようだが、そこには一つ一つのことに対して事前に策を打ち、成功するパーセンテージを少しでも上げるような対処をしたことで、成功につながっていることがよくわかる。つまり相当な根回しや準備をすること、そして的確なアドリブや機転によって、あらゆるステージや企画を形にするのが彼女なりの流儀ということか。そんな挾間が新作アルバム『ダンサー・イン・ノーホエア』を完成させた。今作に関しても、<作曲家>の立場ではなく<プロデューサー>の立場で、どんな試みをしたのかを語ってもらった。そこにはやはり、用意周到な彼女らしさがあった。

「ゲストのリオネル・ルエケ(ハービー・ハンコックのバンドメンバーでもある、世界最高のギタリストの一人)は何年か前に、一度会っていて、面識があったんです。彼が2017年の東京ジャズで、チック・コリアのバンドで出演していて、そのバンドに私のバンドのメンバーもいたんです。彼に頼んで、『ミホを覚えているかい、数年前のレコーディングで一緒だったみたいだけど』と改めて紹介してもらったんですよ。その時に、ここで話したほうがいいだろうと思って、『来年自分のアルバムを作るんだけど、あなたに1曲演奏してほしい』って言ったら、『ああいいよ、メールちょうだい』って」

フェスで一緒になったタイミングで、仕事相手にオファーするライトさ、そして、したたかさ。彼女の頭の中には常に先のプランがあって、チャンスがあればそれを逃さずにものにする。その未来を視野に入れた行動によって、新作に収録されている「Somnambulant (+ Lionel Loueke)」という曲は生まれたわけだ。

「ホールイベントなど大きなプロジェクトを例に挙げると、プロデュースするなら2年くらい先のことを今、考えなければいけないんですね。だから、今年も11月や12月に時間を作ってもらって、彼らに2年先のプロジェクトをプレゼンしなければならない。そういうのも私の仕事になっています。

私たちのような仕事だと、興行的にどうしたらそのプロジェクトが形になるかどうかを見極める力はすごく重要だと思います。突拍子もない提案をされた時に『お金を出してくれるならぜひやります』と言うだけじゃなくて、自分がいい形でその興行の一部となることのできる状態にしなきゃいけない。もし企画が合わないと思ったら、合うようにプレゼンをして変えていかなければいけないし、そういうことを考える目線も、アーティストであったり、こういった音楽をやる人間には必要だと思っています」

(文・柳樂光隆 写真・山本華)

挾間美帆 (Miho Hazama)

国立音楽大学(クラシック作曲専攻)在学中より作編曲活動を行い、これまでに山下洋輔、モルゴーア・クァルテット、東京フィルハーモニー交響楽団、シエナ・ウインド・オーケストラ、ヤマハ吹奏楽団、NHKドラマ「ランチのアッコちゃん」、大西順子、須川展也などに作曲作品を提供。また、坂本龍一、鷺巣詩郎、グラミー賞受賞音楽家であるヴィンス・メンドーサ、メトロポール・オーケストラ、NHK「歌謡チャリティコンサート」など多岐にわたり編曲作品を提供する。そして、テレビ朝日系「題名のない音楽会」出演や、ニューヨーク・ジャズハーモニックのアシスタント・アーティスティック・ディレクター就任など、国内外を問わず幅広く活動している。

2012年、マンハッタン音楽院大学院(ジャズ作曲専攻)への留学を経て、メジャーデビュー・アルバム『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』(ユニバーサル)リリースによりジャズ作曲家として世界デビューを果たす。このアルバムは『ジャズ・ジャパン』誌年間アルバム大賞(新人賞)を受賞。2015年に2枚目のアルバム『タイム・リヴァー』(ユニバーサル)をリリース。2016年には米ダウンビート誌の「未来を担う25人のジャズアーティスト」にアジア人でただ一人選出されるなど高い評価を得ている。2017年5月にシエナ・ウインド・オーケストラのコンポーザー・イン・レジデンスに就任し、“ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017”に初出場。同年9月には“東京ジャズ2017”のジャズ生誕100周年記念ステージのプロデューサーという大役を務める。

2017年10月にはオランダの名門メトロポール・オーケストラ・ビッグバンドと共演。生誕100周年を迎えたセロニアス・モンクのトリビュート・コンサートを、挾間自身の指揮でオランダ国内4都市にて敢行。その中でアムステルダム近郊のビムハウスという街で行われたライブの模様をレコーディングしたライブ・アルバムを2018年2月にリリース。

【主な受賞歴】
2011年 ASCAPヤングジャズコンポーザーアワード受賞。
2011年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。
2012年 『ジャズ・ジャパン』誌年間アルバム大賞(新人賞)
2014年 第24回出光音楽賞を受賞。
2015年 BMIチャーリー・パーカー・ジャズ作曲賞受賞。

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■2018年11月21日〈水)発売
『ダンサー・イン・ノーホエア』(3,000円 + 税)
[収録曲]
01. トゥディ、ノット・トゥディ
02. ザ・サイクリック・ナンバー
03. ラン
04. ソムナンビュラント
05. イル・パラディーゾ・デル・ブルース
06. マジャール・ダンス
07. ロスアンゼルス・オリンピック・ファンファーレ& テーマ
08. ダンサー・イン・ノーホエア


■挾間美帆 m_unit
“ダンサー・イン・ノーホエア”リリース記念ライブ
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/miho-hazama/
2019年2月6日〈水)
東京 南青山 BLUE NOTE TOKYO
1st 開場 17:30 / 開演 18:30
2nd 開場 20:20 / 開演 21:00
チャージ: 7,000円(税込 / 飲食代別)

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