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経済至上主義に失望する二人の編集長がメディアを運営する理由 石井リナ×NEUT平山潤

  • 2018年11月27日

  

社会問題からセックスまで。現代を生きる女性に様々な選択肢を提案するエンパワーメントメディア「BLAST(ブラスト)」。その運営会社であるBLAST Inc.のCEOを務めながら、SNSコンサルタントとしても活躍する石井リナが、ミレニアル世代にフォーカス。

特に1990年前後に生まれた人は、インターネットネイティブな環境で培った柔軟な感覚で、様々な新しい働き方に取り組んでいる。学生時代にガラケーを持ち、インターネットの普及とともに育ってきた人々は、どんな価値観を持ち、何を思考しているのだろうか。世代の狭間(はざま)に生まれ、時にハブとなり得る「ミレニアル世代」を深掘りする。

今回は、2018年10月にリニューアルしたWebマガジン「NEUT Magazine(ニュートマガジン)、以下ニュート」の編集長・平山潤と対談。変化し続ける環境の中でメディアを運営することは、決して楽な選択肢ではない。それでもメディアの価値を信じ、開拓し続ける二人の編集長が語るのは、「メディアの未来」という耳に優しいトピックだけではない。旧来の友人同士だからこそ、二人の話は「経済至上主義への失望」や「体温のこもった願い」まで広がっていく。

  

「こういう人もいるよ。あなたも何がしたいのか考えてやってみたらいいんだよ」っていうメッセージ

石井:最近、ジャーナリストの安田純平さんが解放されたよね。専門知識はないから詳しい見解は伏せるけれど、「自己責任論」が巻き起こったことがすごく印象的で。

平山:そうだね。いろんな意見があるのは健全なことだけど、彼が過去にした政府を批判するような発言が炎上して、その発言について彼を批判している人もいる印象だった。何かについて判断する時って、一度立ち止まって考えなくちゃいけないよね。一つの側面だけを見て断罪しちゃうのは、ネット文化の怖いところだと思う。

石井:彼はジャーナリストで、危険地帯に入ることを自分で選択しているけれど、それは社会において重要な役割でもある。いくつもの側面がある出来事なのに、個人に対して人々が束になって批判を投げつけるのは、冷たいし悲しいよね。「社会に迷惑をかけるな」という同調圧力の強さに一因があるのかもしれない。私たちがそれぞれ始めたメディアは、そういう過度な同調圧力に対する問題提起をしているのかもなって。

平山:まさにそうだよね。ニュートは社会問題をテーマにしているけれど、それを大々的に言うわけではなく、「個人」のストーリーにフォーカスしている。真面目な人だけが社会について考えるのではなく、生活の中で違和感に気づいたら誰もが声をあげていいはずだし、自分が生きやすい社会を考えるのはすてきなこと。

例えば、女の子が坊主にするのだって一つの選択だけど、「坊主は男の子の髪型」とか周囲の目線にバイアスがかかってしまっていることがあるから、躊躇(ちゅうちょ)してしまう人もいる。「あなたがやりたいなら、いいよね」っていう、相手を尊重する姿勢を持つことが大切で、それがニュートラルな視点。「こういう人もいるよ。あなたも何がしたいのか考えてやってみたらいいんだよ」っていうメッセージを伝えたい。

石井:ニュートという名前は、そこからきているんだよね。

平山:そうそう。多様性は、その前提にニュートラルな視点がないと成立しない。「多様性が認められるべきだからってヘイトスピーチもOK」っていうのは違うよね。誰かの存在を否定するアイデアは多様性として解釈されるべきではないと思う。多様性や自由を拡大解釈すると、誰かが生きづらい社会になってしまうこともある。そうではなくて、基本的に他人を尊重する限り、「なんでもありではないけれど、いろんな人がいていい」っていう、ニュートラルな視点を持つことが、最初のステップかなって。

  

石井:偏っている認識や考えを水平な状態にするために、個人のストーリーを取り上げているんだね。ブラストは女性にフォーカスしているけど、固定観念を覆してバイアスをなくしたいという点では、かなり近いと思う。人生にたくさんの選択肢があるってことを伝えたい。例えば家族のあり方。子供を作るにしても、精子バンクを活用して1人で出産する生き方だってある。働き方だっていろいろ。「こういうこともできるかもしれない」って、選択肢の幅を広げていきたいな。ニュートは最近リニューアルしたけど、印象的な出来事はあった?

平山:「笹塚ボウル」で開催したニュートのローンチイベントに500人も来てくれて、一つの自信になったかな。笹塚というあまり遊びに行かないような場所に、20代を中心に、30、40代まで感度の高い人たちが集まってくれた。日本版『WIRED』元編集長の若林さんが登壇して「ここにいる人たちがNEUTのコミュニティーで、いま企業が一番求めているのは、こういうものなんだよ。これがお金になるんだよ」みたいなことを言っていた。でも、僕が「皆さんでビジネスがしたくてこのイベントを開いたわけではないです(笑)」って突っ込みをいれたんで、笑いが起きて、いい雰囲気になった。多くの読者に会えたことは、本当にお金で測れない価値がある。トークの最後には、感極まって泣いちゃって(笑)。メディアという共通項を介して人がつながることって、すごくいいよね。

石井:思想を共有した人たちが集うからいいんだよね。ブラストはまだまだ求めてくれる人にリーチしきれていないと思っているところ。メディアという形式にこだわらず、さまざまなやり方でみんなに会いに行きたい。コミュニティーとかコワーキングスペースを作るかもしれないし、ゆくゆくは投資事業もしたい。メディアを軸に様々な展開は考えているんだけど、それって、メディアという事業が単体ではお金につながりづらいっていうことでもあるよね。

平山:そうなんだよ。実は、広告に依存したメディアビジネスにはしたくなくて。自分たちが発信したくないことを広告主にお金をもらったからって記事にしなきゃいけない状況に陥ると、一番大切な存在である読者に嘘をつくことになってしまう。もちろん広告が全てネガティブというわけではなくて、読者も、クライアントも、メディアも、みんなが信頼しあってハッピーな形を目指したいよね。PR記事やバナーなどを掲載する「広告収入」と、読者から月額や記事単位などでお金を払って読んでもらう「購読収入」以外の、新しいやり方を模索しているよ。

  

一次情報を自分で収集することにはメディアとして唯一無二の価値がある

石井:「電波少年」のプロデューサーだった土屋さんという、テレビ業界のレジェンドみたいな人から、「テレビはクリエーターにとって創造しやすい環境だった」という話を聞いたんだよね。CMと番組を明確に分けているから、広告主の意向をくんだ番組内容にする、みたいなこともしないでいいし、人を集める面白いコンテンツを作ることに集中できる。ネットで何かコンテンツを作るときは、ビジネスの側面も両輪で考えないといけないから大変だなって。

平山:なるほど。でも、毎週新しいものを出さなくちゃいけないテレビより、Netflixは時間をかけてコンテンツ制作と向き合えるから、クオリティーが上がるって話もあるよね。

石井:Netflixにはやっぱりグローバルの強みがある。日本国内だけじゃなくて、グローバルを見据えてコンテンツを作っていく方が、ユーザーの規模を考えれば当然マネタイズしやすい。受け手であるミレニアルズはグローバルな価値観を共有しているし。ニュートでやっているコンテンツをグローバルに向けて翻訳したり、バイリンガルでやったりしたら良さそうだね。

平山:この前、John Yuyi(ジョン・ヨウイ)っていうアーティストの子の記事をあげたら、台湾のイラストレーターから連絡が来て、日本語読めないけどコラボレーションしようよ、って言ってくれたよ。そうやってつながれるんだから、コンテンツにボーダーはないのかも。

  

石井:海外も含めて、潤が好きなメディアってあるの?

平山:あんまりないかな(笑)。ほぼ他媒体を見ないし、本もあまり読まないんだよね。人に薦められた本は読むけどね。人に会うことが好きだから、人から直接情報が入って来るんだと思う。これも薦められて読んだ糸井重里さんの『インターネット的』に、そういうことが書かれていて、自分って「インターネット的」なのかもなって思った。

石井:究極の一次情報マンだね(笑)。ネットでは面白いものがすぐに拡散されてスピード勝負になっていくからこそ、一次情報を自分で収集して発信することにはメディアとして唯一無二の価値があるよね。でも、それを判断するには、すごくしっかりした考えの軸がないとできなそう。

平山:そうだね。この世界には社会問題に向き合って活動している人がたくさんいる中で、ニュートでは月に20〜25記事しか配信していないから、編集部はセレクターとしての判断力が日々鍛えられていると思う。ニュートが信じる思想を、自分の声ではなく、自分たちが選んで取材する人たちに、それぞれの言葉で語ってもらうということをしている感覚。リナは好きなメディアってあるの?

石井:いっぱいあるよ。英語は得意じゃないし、そもそもテキストメディアはあまり読まないけど、ビジュアルで気に入ったものはチェックしてる。「Strong Opinions Loosely Held」(https://www.refinery29.com/en-us/medical-doctors-dont-take-womens-pain-seriously)っていう、Refinery21からスピンオフしたメディアがあって、かなりディープな内容を取り扱っているんだけど、こういうことやりたいなって思えるコンテンツばかりですごく好き。

平山:あ、好きなポッドキャストならあるよ。「バイリンガルニュース」(https://bilingualnews.jp/)は大好き!

石井:バイリンガルニュース?

平山:英語と日本語で、バイリンガル形式でいろんなニュースを発信するラジオ番組。視聴者は英語を勉強したくて聞く人が多いんだけど、MCの二人が紹介するニュースが社会派なんだよね。だから、気づかないうちに社会問題を学べるようになっている。バイリンガルニュースみたいなメディアになりたいなぁ。

石井:面白いね。話していて思ったんだけど、これまでの「編集長」って、きっとメディアに詳しい人がやっていたはずだけど、私たちはそうではないよね。メディアを読まない潤くんが、編集長をやる理由ってどういうもの?

平山:メディアは「媒介」だから、ウェブでも紙でも動画でも場所でもいい。コンセプトが一つあれば、どんな形にも変化できるものだと思っているかな。あと、当たり前だけど、メディアは、個人のSNSやブログとは違って、第三者的な視点を持ちながら発信できることが価値だと思う。ニュートは、マスメディアにはあまり登場しない、マイノリティーにカテゴライズされる人の声にフォーカスしてリプレゼンテーションすることで、ニュートラルな立ち位置から、“記事化されていない声”を読者に届けたい。

石井:私も形式にはこだわっていないし、その時一番いいと思った形を選択したい。今後もっと難しい時代に入っていくと思っていて、大手メディアの連載を断って、自分のnoteで発信する人もいるくらい、個の時代が来ているから、メディアはブランド化していかないと難しい。同時に、広めるために適切なプラットフォームを選び、使いこなす感覚も必要だよね。ブラストというブランドの輪郭をしっかり作りながら、いろんなプラットフォームの中に点を打ち、それをつないで大きな山を作れたらいいと思う。メディアの役割が「広めるもの」から少しずつ変化している感覚もあるよね。

平山:抽象的な言い方だけど、僕は“優しい輪郭づくり”を意識していて、しっかり作りすぎると中身が固定化しちゃうと思っている。輪郭を際立たせながらも、様々なものを受け入れる余地を残すことも大事。i-D読んでる人にも、ブラスト読んでる人にも、グリーンズ読んでる人にも、みんなが入れるような余白を作りたい。何かを排除してしまうメディアにはしたくないし、それが結果的に広く読まれるものにつながるんだと思うな。

  

思想に共感して、愛を持ってくれる仲間がたくさんいる。それが財産でありメディアの価値だよ。

石井:少し話がそれるけれど、嫌いなメディアってある?

平山:あるよ(笑)。嫌いというか、困ったことというか……。とあるメディアに僕が撮った写真が掲載されたことがあって。取材対象者が写真を提供したみたいで、使うこと自体は問題ないけれど、クレジットつけるか、一言あるほうが気持ちいいのになって。取材をされる側はメディアのプロじゃないから、わからないのはしょうがない。でも、メディア側に撮影者に対するリスペクトがないのはよくないよね。僕らが取り上げた小さな活動が、いろんなメディアに広がっていくことには大きな意味があるし、応援したいんだけど、勝手に写真を使われるのは困っちゃう(笑)。

石井:それはNGだよね。表現の手法とか、映像のフォーマットに関しては、著作権では守りきれないところもある。法律的にはどうこう言えないんだけど、自分たちのメディアをブランドとして確立させることを本気で考えて、そこにこだわって運営するなら、「パクリはダサい」っていう当たり前の前提を踏み越えちゃいけないと思う。「広める」ことに特化した役割を持つメディアが別の媒体の記事を転載するのと、ブランドを作ろうとしているのに実際はパクリっていうのは別物で、それぞれ異なる問題がある。意思決定者がお金儲けの部分にばかりフォーカスしちゃうと、メディア全体の方針がずれてしまうんじゃないかな。

  

平山:以前、若林恵さんがWIREDの記事で「道を新しくつくる人は儲からなくて、結局は、道を舗装するヤツが儲けるんだ」と書いていて、すごくわかりやすかった。でも、そうやってうまいこと儲けようとする人に負けたくないよね。

石井:そうなの。だから潤にも頑張ってほしいし、私も頑張るよ。地道に仲間を増やして、みんなで頑張っていこうよ。

平山:取材で直接会って築いた人間関係が一番大事だし、そこでメディアの思想に共感して、ニュートに対して愛を持ってくれる仲間がたくさんいる。それが財産でありメディアの価値だと思う。

石井:お互いのメディアには近いところも多いけど、異なるところをあげると、どういう部分になるんだろう。

平山:そうだなあ。リナはマーケターとして、社会現象に対して目を向けているよね。例えば「ミレニアルピンク」って現象を取り上げて、それがどういうものなのか、経緯も含めて発信している。僕は「ミレニアルピンクって、ミレニアル世代でも好きな人もいれば嫌いな人もいるよね」とか「そういう言葉自体いらないのに」とか思っちゃうタイプだから、自分の媒体では現象よりも個人にフォーカスすることがほとんど。そんなところがリナと違うかな。

石井:なるほど。私はもともと社会学専攻だし、マーケティングにずっと関わってきていて、社会現象を適切に切って、整理して捉えることが得意なんだと思う。企画の立て方の順番が違うのかもね。私は、現象を起点に考えているかも。

平山:ニュートはミレニアルズとか、フェミニズムとか、エシカルとか、マーケティングで使われる言葉をなるべく使わないことが編集部のスタンス。その上でどう伝えられるか、を考えてる。もともと興味のなかった人を巻き込んでいきたくて。

石井:そこは確かに姿勢が違うところだね。面白いなあ。最後にこれからやりたいことについて教えてください。

平山:色々あるけれど、場所を作りたい。もともと僕、飲食店をやりたかったんだよね。

石井:そうなの?

平山:そう。大学に入るつもりも元々はなくて、調理系の専門学校でフランス料理を学ぼうと思ってた。だから飲食店みたいな場所を作ることは、自分の中では一貫してやりたいことでもある。

石井:私も場所をつくりたいと思ってるよ。不思議と近いこと考えているんだね。あと、個人的な話をすると、出産をしてみたい。どのタイミングで、どうやってそれをすべきなのか、なかなか現実的にはわからないけど。

平山:人間が人間を産むって、冷静に考えてすごいよね。10カ月くらい自分という主語が二人分になるわけでしょ。

石井:そうなの。人間が人間を生み出すって大変な偉業だからね。

  

<トークを終えて>

メディア環境の変容に伴って「編集長」の役割も変わり、多様化している。経済合理性を追う者にとって、メディアビジネスは最短ルートではない。それでも二人が編集長であることを選ぶのは、思想を掲げ、社会に語りかけることに意義を見いだしているからで、その視座はどこまでも「人」に寄り添うものだ。数値や金銭で測れない価値を信じ、実直に「人」と「社会」に向き合う仕事には、大きな意義と希望がある。

(文:長嶋太陽、撮影:なかむらしんたろう)

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