<第64回>発見がいっぱい「銀座建築散歩」
- 2018年11月27日
江戸の時代から人と金とモノを集め続けてきた銀座。その建築も最先端で意欲的なものがあちこちに見られます。普段なにげなく眺めている建物も、きちんとレクチャーを受けながら見てまわると、さまざまな発見があり興味は尽きません。今回は気鋭の建築史家、倉方俊輔氏と巡りました。
銀座の建築散歩、そのスタートは数寄屋橋交差点の角にオープンした“公園”から。1966年に開業したソニービルは、2017年に営業を終了、2018年8月に「Ginza Sony Park」としてリニューアルオープンしました。この実験的な建築を倉方氏はこう解説しています。「ここは2020年までの期間限定の公園。営業終了後ただちに次の建設に移るのではなく、丁寧に解体リニューアルした建物でさまざまな催しを展開する、世界でも前例のない試みです。朝から深夜まで自由に立ち入れる地上部から、かつてのソニービルの構造体に手を加えた地下4階の空間が続いています。かつて交差点に設けられ、さまざまな催しが行われたソニースクエアを立体的に再解釈することで、イベントごとに変わる“体験”の場になっています。新しく設けた階段や吹き抜けは、目的以外の場所やモノに出合わせる工夫。パークと名付けているのは、そんな変化と自由度からでしょう。歴史的で現代的。ソニーらしいチャレンジですね」
数寄屋橋交差点からすぐ、岡本太郎作「若い時計台」の後ろに、数寄屋橋公園に隣接した「中央区立泰明小学校」のゆったりとしたカーブを描く校舎の一部が目に入ります。そこからみゆき通りに面したフランス門、そして正面玄関に移動しましょう。「存在感のある立派な門柱が格式を感じさせますが、そのデザインはとても斬新。取り囲むアーチは直線的で、左右対称ではなく右側は建物の奥に伸びています。重厚感とは逆のスピード感や浮遊感を感じさせ、細部にはネジや歯車を連想させる幾何学模様が連続して使われているのも、アール・デコの特徴です」と倉方氏。美しい校舎と子供たちの元気な姿が、銀座の街に生き生きとした人の営みを感じさせてくれています。
最後は銀座一丁目へ。中央通りを昭和通り方向に曲がった静かな通りにたたずむ「奥野ビル」を訪ねましょう。「昭和の初めに建てられた“銀座アパートメント”という名前の高級アパートメントでした。鉄筋コンクリートの表面が当時流行したスクラッチタイル(くしで引っかいたような細い溝のあるタイル)で覆われています。建設当時は最新だった構成や素材が、時と共に味わいをまし、現代の人々をひきつけています」。現在も多くのアンティークショップやギャラリーなどが入る人気のビルを、倉方氏はこのように解説します。
奥野ビルの魅力をさらにうかがうと……。「当時は珍しかったエレベーターが設置されているのも高級住宅らしい。装飾は少なく、線のバランスや素材感で重みある雰囲気を醸し出しているモダンなデザインです。丈夫で上等でシンプル。それが用途を変えながら使い続けられている、いぶし銀のような魅力につながっています。銀座は今も昔も最先端で意欲的。だから建築に時代の性格が刻まれ、興味深いのです」。建物について知ることで一歩踏み込んだ銀座の魅力に触れることができる「銀座建築散歩」。その楽しみは尽きることがありません。
この銀座建築散歩をはじめとして、ノジュール12月号は「魅了する銀座」を大特集。男女の目的別モデルプランから銀座っ子の行きつけ、名店の銀座物語や最新食事情のあれこれなど、さまざまな角度から年末の銀座をもっと楽しく歩くための情報を盛り込んでいます。スマイルプログラムは特別編として銀座を楽しむイベントも複数ご用意しました。さらに第二特集は「銀世界の雪見露天」。電車やバスを使ってアクセスも楽チンな極上雪見露天風呂が楽しめるスポットをご紹介しています。誌面の一部は、立ち読みページのあるホームページからもご確認いただけますので、どうぞご覧ください。
■ノジュール:鉱物学の専門用語で硬くて丸い石球(団塊)のこと。球の中心にアンモナイトや三葉虫の化石などの“宝物”が入っていることがある。
