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アウトドアファッションのこれから 先駆者・木村東吉が語る

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  • 2018年11月30日

木村東吉氏

アウトドアウェアが日常着の定番となりつつある。週末だけでなく、ウィークデーのオフィス街でも、コートやジャケット、パンツなどアウトドアブランドを上手に取り入れている男性を見かけることが少なくない。

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そんな中、あの三陽商会が昨シーズンからアウトドアブランド「5LAKES&MT(「ファイブレイクス・アンド・エムティー」)」を立ち上げているのをご存知だろうか。「マッキントッシュ ロンドン」や「ポール・スチュアート」など海外の高級ブランドのイメージが強い三陽商会。なぜ、そんなアパレル大手がアウトドアに“進出”したのだろうか。

そこで、今回は5LAKES&MTのブランドナビゲーターに就任したモデルでアウトドア・エッセイストの木村東吉氏にインタビュー。30年以上にも及び、日本のアウトドアシーンで活躍してきた木村氏に、現在のアウトドアブームについて、また同ブランドが目指すものについて聞いた。

若い人が気軽にかっこよくアウトドアを楽しんでいるのは素晴らしいこと

木村東吉氏

木村氏は20代のころから、『POPEYE(ポパイ)』『MEN’S CLUB(メンズクラブ)』などのファッション誌でモデルとして活躍。30代より世界各地を旅しながら様々なアウトドア・アクティビティに没頭し、その体験・知見を生かして、日本のアウトドアカルチャーを盛り上げてきた。60歳になった現在は山梨県にある富士五湖の一つ・河口湖に拠点を置き、アウトドア関連の執筆や取材、キャンプ教室の指導、講演など幅広く活動している。

35年にもわたり、日本のアウトドアカルチャーを育んできた木村氏は、現在のアウトドアブームについて「ファッションも楽しみ方も多様だし、素晴らしいことですよ!」と笑顔で語る。
そんな木村氏は、今や本格派アウトドアマンとして知られるが、意外にも「この世界」に入った当初は邪道扱いを受けていたという。

「まぁ、オレは完全に『格好』から入っていった口でしたから(苦笑)。憧れたのは1985年公開のアメリカ映画『愛と哀しみの果て』。あの作品でロバート・レッドフォードとメリル・ストリープがアフリカのサファリでテーブルを広げて、クラシック音楽を流しながらフルコースを楽しんでるシーンがあってね。ワインとか開けちゃったりして、もうめちゃくちゃかっこいいわけ。『オレの目指すアウトドアはこれだ!』って直感的に思ってから、そこを目指しましたよ。でも当時の日本のキャンプってシートに座り込んで、カレーやサバ缶を食べるスタイルが主流でしたし、昔気質の“山の人”たちは超ストイックでしたから、僕みたいなスタイルは『邪道だ!』って散々たたかれて(苦笑)。でも、アウトドアって遊びなんですよ。遊びに“道”を求めても仕方ないし、僕は若いころから楽しいようにやればいいんだと思っていました。だから今の人が、気軽にかっこよくアウトドアを楽しんでいるのは、本当にいいことだと思う」(木村氏)

「実はキャンプにハマる以前から、大の料理好きだったんです」という木村氏。当時から、雑誌で料理記事を連載するほどの腕前だった

機能性一辺倒のハイテク系ウェアだけじゃ味気ない

アウトドアマンでありながら、モデルとしても最前線で活躍を続けていた木村氏。山であろうと湖であろうと、ファッションへのこだわりは人一倍だった。ちなみにアウトドアにハマりたてのころは、ウール・ジャケットの上に、マウンテンパーカーを羽織る「ヘビー・デューティー」スタイル(※)。しかしアウトドア熱が高まるにつれ、木村氏の装いに変化が起きる。

(※)「ヘビー・デューティー」:アウトドアスポーツや激しい労働に使われる丈夫で機能的な服をファッションに取り入れるスタイル。1970年代半ばに「POPEYE(ポパイ)」「MEN'S CLUB(メンズクラブ)」などのファッション誌がブームをリードした。1968年にアメリカで発行された「Whole Earth Catalog」に影響を受けていると言われている。

「アウトドアの世界で化学繊維ブームが起きたんです。中でも、軽くて水洗い出来るフリースは画期的でした。オレはカヤックをやるために、95年に河口湖に引っ越したんですけど、当時は速乾性と保温性に優れたポリプロピレンのTシャツしか着ていませんでした。アウターに関しても、60/40(※コットンとナイロンを6対4の割合で混紡した素材)やダウンをやめて、防水・透湿性に優れたゴアテックスだったり水に強い高機能中綿を使ったジャケットを着るようになった。つまり身につけるもの全てがハイテク素材一辺倒になっていったんです」(木村氏)

しかしそんな生活を河口湖で15年ほど続けるうち、木村氏の中に、ある感情が湧き上がってきたという。「機能だけで服を選ぶのはあまりに味気ない」——それはファッションの世界に身を置く者として、ごく自然な感情だった。

「たしかに便利で快適なんだけど、ファッションとしてはちょっとつまらない。そもそも、日本国内でアウトドアを楽しむには、どれもオーバースペックであることにも気づいた。しかもアウトドアがこれだけ一般化して、都市と自然はどんどんシームレスになっている。だったらキャンプやアウトドア・アクティビティを楽しめるレベルの機能は持っていて、そのまま街に着て帰れるファッション性の高い服が一番いい。でも、それがなかったんです。少なくとも自分が満足できるようなものは。じゃ、自分で作ったらどうだろうかと思って、昔からモデルの仕事などを通じてお付き合いがあった三陽商会さんに声をかけたんですよ。ものづくりの技術がたしかなのは知ってましたからね。一緒にアウトドアブランドをやれたら面白いんじゃないかなと思った」(木村氏)

ウェアをきっかけに、アウトドアに興味を持つ人が増えてくれたら

ブランド名は、木村氏が活動の拠点としている富士五湖に由来する(5LAKES&MT提供)

木村氏の提案は、総合ファッション企業として生活者によりそった新しいライフスタイルの提案を打ち出したいと考えていた三陽商会のビジョンと合致する。こうして2018年春夏シーズンからスタートしたのが、木村氏がブランドナビゲーターという形で関わるブランド「5LAKES&MT」だ。木村氏が35年にわたって都市とフィールドを行き来する中で培った経験を踏まえつつ、彼のファッションの原点である「ヘビー・デューティー」テイストを加えた。立ち上げ間もないにもかかわらず熱心なファンが多数存在する現状について、木村氏は「ただ自分が欲しい服を作っているだけ」と笑顔で語る。だが、その視点はもう少し先を見据えているようだ。

「日本の気候って、夏は蒸し暑くて豪雨も降るし、冬なんかも寒くて都市部でさえ結構厳しいもの。ですからアウトドアウェアを着れば快適に過ごせるのは間違いありません。しかも我々5LAKES&MTはファッションブランドとしてスタートしていますから、機能を最優先するアウトドア専門ブランドが“邪道”と考えて作らない、デイリーユースを前提としたアイテムも自由に作れる。まずは気軽に着ていただいて、服をきっかけにアウトドアに参加するようなってくれれば、なんて思っているんです」(木村氏)

キャンプはストイックであるべきという固定観念に反旗を翻し、快適で楽しいキャンプを日本に浸透させたアウトドアマン木村東吉氏。今度はファッションを通じて、キャンプの世界に新たな風を吹かせてくれそうだ。

第1号店でありブランド発祥の地でもある河口湖店で木村氏自ら接客することも(5LAKES&MT提供)

木村東吉(きむら・とうきち)

1958年大阪生まれ。1979年よりモデル活動開始。『ポパイ』『メンズクラブ』等の表紙を飾り活躍。CM、TVにも数多く出演する。20代より、趣味からアウトドア活動を始め、おしゃれで洗練されたオートキャンピングブームの火付け役となる。現在は河口湖に拠点を置き、アウトドア関連の執筆・取材、キャンプ教室の指導・講演 など幅広く活動している。

5LAKES&MT公式サイト
http://www.5lakesmt.com/
5LAKES&MT公式インスタグラム
https://www.instagram.com/5lakesandmt/

取材・文 吉田大
撮影・藤島亮

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