2カ月住み込んで探す“その土地らしさ”  よそ者目線を生かして作る全47都道府県の観光ガイドブック

  • 2018年12月5日

  

行き交う人たちのエネルギーがあふれる東京・渋谷。歩いていると、信号機の音やネオンの光が、耳や目に飛び込んでくる。人混みをすり抜けて渋谷ヒカリエの8階に上ると、街の喧騒(けんそう)は遠ざかり、時間がゆっくり流れているような、静かな空間が広がっている。

この8階にあるイベントスペースで11月15日と16日の夜、柳家花緑さんが出演する「d47落語会」が開かれた。15日に会場を訪れると、150人ほどのお客さんでにぎわっていた。半分くらいを女性が占める。

落語会は3部構成。第1部は着物を着た花緑さんが登場し、古典落語を披露した。

柳家花緑さん

第2部に現れた花緑さんは、赤いセーターにグレーのパンツ姿でイスに座った。洋服とイスという現代スタイルで新作落語を口演する「同時代落語」が始まる。花緑さんの口から出てくる言葉も、いま私たちが普通に会話をするような言葉だ。落語のテーマは「岩手県」。

ロングライフデザインを伝えるために

なぜ、岩手県がテーマなのか。その答えは、この落語会を主催するD&DEPARTMENT PROJECTの活動にある。

D&DEPARTMENT PROJECTは、時代や流行に左右されず、長く作られ、使われ続ける「ロングライフデザイン」をテーマにしたプロジェクトだ。デザイナーのナガオカケンメイさんが2000年に立ち上げた。ロングライフデザインの価値を伝えるため、多岐にわたるアプローチや活動をしている。

まず、47都道府県1カ所ずつ「デザインの道の駅」をイメージした店をつくり、店では作り手と使い手が交流できるワークショップやツアーなどを開いている。

09年からは、47都道府県それぞれにある「その土地らしさ」をデザインの視点で選び出し、1冊につき1県を特集する観光ガイドブック『d design travel』を作り始めた。「必ず自費でまず利用する」「感動しないものは取り上げない」といった編集の考え方に沿って、編集部員が約2カ月間、現地で生活しながら取材をする。

その24号にあたる『d design travel 岩手』が、11月に全国で発売された。

『d design travel』の新刊発売にあわせて、その土地をテーマにした新作のご当地落語をつくり披露するのが、この「d47落語会」だ。

落語会の第3部は、花緑さん、落語を創作した脚本家・藤井青銅さん、ナガオカさんが、その噺(はなし)を振り返りながら裏話を語るトークショーになっている。

披露された岩手県落語のタイトルを尋ねられた藤井さんが「トーブ鉄道の夜」と答え、「台本を花緑師匠に届けたのは、前週の中ごろだった」と話すと、会場から「そんなに直前!」と驚きの声があがった。

左からナガオカケンメイさん、洋服姿の柳家花緑さん、藤井青銅さん。盛岡市でも11月28日、「d47落語会 岩手会場」としてこの落語会が開かれた

『d design travel』を起点に、新たな交流を生み、その土地に実際に足を運んでもらうための仕掛けは、この落語会のほかにもある。

落語会の会場になったホールと同じフロアには、本で取り上げた工芸品や食品などを販売する「d47 design travel store」や、本に掲載した店の仕事道具や商品を展示する「d47 MUSEUM」、地域の食材を使い、その土地の郷土料理を生かした定食が食べられる「d47食堂」などがあり、その土地について五感を使って立体的に楽しむことができるのだ。

現地に行くことが一番いい

このフロアで10月25日には、『d design travel』の編集長・神藤秀人さんらが『d design travel岩手』の取材中のエピソードや感じたことを語るイベントも開かれた。

約80人を前に、マイクを手にした神藤さんは「日本にはすてきなものづくりや食文化など伝え残したいものが色々あります。今は、あらゆるものがアンテナショップや雑貨店、ネットでも買える時代です。現地で作って都会でも簡単に手に入る、それでお互いが完結している状況も起こっている。都会にとってはいいことかもしれませんが、実際にものづくりをしている現地では、ものづくりが廃れてしまいつつあるところもあって、実際に現地に行くことが一番いいと僕らは思っています」と語った。

神藤秀人編集長。「岩手らしさとは何か、東京の方にお伝えしたいと思ったのは七つ。思いが強くて、時間内に伝えきれるか。できるだけ話したい」と語った

『d design travel』ができるまで、も紹介された。

岩手号では7月に岩手県に住む60人に集まってもらい、公開編集会議を開いたという。地元の人に「自分たちなら、どういうところを紹介してほしいか」について意見を出してもらったり、アンケートしたりする。300カ所くらい挙がった「オススメ」を、編集部員が2カ月かけてすべてまわる。

そのなかから、本に掲載している七つの「編集の考え方」や、「その土地の人がやっていること」といった取材対象を選ぶにあたっての方針をもとに選び抜いた場所や人たちだけが、本で紹介されているのだ。

「その土地らしさって何だろう、ということを僕たちは2カ月住み込んで探していきます。現地に入ったときは何も知らないので、少しずつわかっていく。そんな感じです」(神藤編集長)

d47 MUSEUMでは、岩手号で紹介された実物の展示も。『d design travel』編集部員が現地から借りてきて展示した

このトークイベントの後、岩手の食材を使った料理やお酒、ジュースなどが振る舞われる「岩手を食べる会」が続いた。

メニューは「ホタテのクリームグラタン」「三陸海藻のサラダ」「もち本膳」「てんぽ(南部せんべい)」「へっちょこだんご(団子のお汁粉)」「秋野菜のグリル」「柴波町のりんご盛り合わせ」。テーブルに料理がずらりと並ぶ。食べたり飲んだりしているうちに会話も弾む。

ずらりと並んだ岩手のごちそう。「『岩手号』の前に出版された『鹿児島号』のときのイベントに来たら楽しかったのでまた来ました」と話す参加者もいた

わんこそば大会も開かれた。岩手号に掲載されている、盛岡市の「そば処 東家」の給仕たちがこのイベントのためにかけつけた。東家の主人・馬場暁彦さんは「渋谷の高層ビルでわんこそばを振る舞う機会はなかなかない」といい、『d design travel』について「実際に岩手で暮らして、足を運んで、いいものを判断するおもしろい取り組み。そんな取り組みに関わることができてうれしい」と笑った。

現地と同じように「はい、じゃんじゃん」「はい、どんどん」というリズミカルなかけ声も。d47食堂のスタッフも東家の制服を着て給仕として参加した

終了時刻になっても参加者同士が話し足りない様子。イベントは熱気が冷めないまま終了した。

同誌の編集部員たちは、2カ月住み込んで取材を重ね、取材先の人たちと発刊後も交流し続ける。神藤編集長は「今回取材したなかには2カ月で5回くらい通ったお店もあります。結構な頻度ですよね。でもそれによって“真剣につくりたい”という気持ちが相手に伝わったからこそ、できているところもあります。イベントに来てくれた皆さんは、岩手を旅してくれるだろうと感じています。その人たちが現地を訪れたときに、岩手の人が『あの本を見て、来てくれた人だ』と思ってくれたら。そういう循環がいいなと思います」と話していた。

(取材・文 &編集部 大井田ひろみ)

『d design travel岩手』はこちら
https://www.d-department.com/item/2018000100096.html

『d design travel』は現在、次の「高知号」を取材中。高知に関するツイートも
https://twitter.com/d_design_travel

D&DEPARTMENT PROJECT  https://www.d-department.com/

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