小川フミオのモーターカー

美しいボディーの魅力がいまも色あせないアストン・マーティンDB4GTザガート

  • 世界の名車<第238回>
  • 2018年12月3日

この写真のクルマはふだん使いされているのだろう、オリジナルにはなかったはずのバンパーがわりのバーをつけている

アングロ・イタリアンという言葉がある。英国とイタリアの協働で作られたクルマのことだ。1960年に発表された「アストン・マーティンDB4GTザガート」はその代表例である。美しいボディースタイルを持つスポーツカーで、いまでも大いに魅力的だと思う。

1959年に発表された「アストン・マーティンDB4GT」をベースに開発されたモデルで、軽量化されたスペシャルは61年のルマン24時間レースにも参戦した。

ルマンに出走した3台のうち2台はエンジントラブルで早々にリタイアした。最後の1台だけは走り続けたが、最後の24時間めにバッテリーのトラブルでリタイアとなってしまった。惜しい結果である。

3連のパワーバルジをもったロングフードと、力強く盛り上がったリアフェンダーがすごい迫力

アストン・マーティンDB4GTザガートは、英国のアストン・マーティンの工場からシャシーがミラノに向けて船で運ばれ、カロッツェリア・ザガートがアルミニウムをたたいて作ったクーペボディをかぶせてつくられた。

出来上がったクルマは英国に送り返され、最後に英国でまた手を入れた後、顧客に引き渡された。すべてのクルマがそうやってつくられたわけではなく、アストン・マーティンによると、ミラノで最後まで仕上げられた車両も5台ほどあるそうだ。正確な台数はメーカーも把握できていない。

当時はデザイナーという言葉はほとんど存在しなかったが、ザガートではまだ見習いの立場だった、当時23歳のエルコーレ・スパーダというひとが、基本的なボディーの造形を担当した。

カロッツェリア・ザガートが手がけたアルミボディーを持つ

スパーダが手がけた“名車”は多い。アルファロメオのジュリエッタSZや同TZ、ランチア・フルビア・スポルトといった美しいスポーツカーは一例である。BMWに在籍したこともあり、2代目7シリーズ(1986年)や3代目5シリーズ(87年)をデザインした。

DB4GTザガートは頭が大きくて、テールにいくにしたがって下にさがっていく、いわば逆くさび形のサイドビューが個性的で、リアフェンダーはボディービルダーのようにふくらんでいた。後輪駆動車だけあってパワーの象徴である。

審美的にはリアクオーターウィンドーが大きすぎてバランスがよくないのだけれど、レーシングカーにとって視界のよさは生命線だ。周囲がよく見えないと怖くて速度が出せないのである。そのために美より機能を優先したのだろう。

全長は4270ミリ、全高は1270ミリ

3670ccの直列6気筒エンジンは、高圧縮比にツインプラグ化でレーシングカーなみの高出力を狙っていた。スタンダードモデルでも314馬力ととてつもないハイパワーである。さきに触れたようにルマンなどレース用にも数台の、より軽量ボディーのクルマも製作されたと記録にある。

予定生産台数は25台だったが、63年までのあいだに19台しか作られなかった。そこで後年、91年(!)に4台が、さらに92年に2台が製作された。それらを「サンクション(承認)II」および「サンクションIII」と呼ぶ。

レースに出るためのクルマなので装飾ははぶかれているが、美しさがあるダッシュボード

現在のアストン・マーティン・ラゴンダ(正式社名)を率いるアンドリュー・パーマーCEOに、先日、インタビューする機会があった。そのときCEOは「1913年にクルマづくりを初めて現在にいたるまでアストン・マーティンが黒字になったのは4年間しかないんですよ」と教えてくれた。

すごい話だが、それでもアストン・マーティンは生き抜いてきた。このDB4GTザガートのようなアイコンを作って、それで人々から愛されてきたせいといってもいいだろうか。この場合、“愛”とはお金、出資の意味だけれど、それを引き出せるのも、このメーカーの魅力ゆえだ。

フロントフェンダーにはエンジンルームの熱気ぬきの穴が空けられ、ザガートの「Z」が大きく飾られている

当時のレースの風景

写真=Aston Martin Lagonda提供

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PROFILE

小川フミオ(おがわ・ふみお)

写真

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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