私の一枚

ゴミ山を探る子供の目の輝き サヘル・ローズ“リアルなインド”が教えてくれたエンタメの世界で生きる意味

  • 2018年12月10日

インドで出会った子供たちと

7~8年前、人生初の一人旅でインドへ行きました。きっかけは、「旅をしなさい」という母の言葉。私は子供の頃、住む場所がなくご飯も食べられない貧しい経験をしました。今では食べる物に不自由していませんし、住む家もあります。でも、世界にはまだそうではない人たちもたくさんいるのだから、日本の環境に慣れて感覚がマヒしてしまう前に世界を見てきてほしい。それが母の願いでした。

それまで私が想像していたインドは、いわゆる「ボリウッド映画」のような、いつも踊っている明るく陽気な人たちの国というイメージ。でも実際に行ってみると、想像をはるかに超えて格差が激しかった。貧しい側の人々が生活する町を旅して、川で体を洗ったり、ハエが沈んでいるようなタピオカジュースを飲んだり、怖い思いをしたり詐欺に遭いそうになったりもしたけれど、そのぶんリアルなインドを見ることができました。だから今、私は自信を持って「インドを旅した」と言えます。

人生が変わったことで私の感覚はマヒしていた

とても印象的だったのは、子供たちのキラキラと輝く目です。日本にいる同じぐらいの年齢の子と比べると体の大きさがあまりにも違うし、履いている靴も着ている服もボロボロ。ゴミがたくさん捨てられている場所では、男の子たちがそのゴミの山から食べられるものや着られるものを必死に探していました。嗅げるような状況じゃないぐらい強烈な臭いなのに、そこでふざけて笑い合っている彼らの目は希望に満ちあふれていました。

満たされた環境の中にいると、夢を描くことをやめてしまったり、目標を忘れてしまったり、その環境に慣れてしまったりすることもあるじゃないですか。自分の夢が「わからない」と答える子も多いですよね。でも、物がない環境の子供たちに「夢は?」と聞くと、明確に答えるんです。お医者さんになりたい、ネイリストになりたい、歌手になりたい、女優さんになりたい、スタイリストさんになりたいって。中には「政治家になって僕たちの環境を変えたいんだ」と言う子もいました。だから学校に通って学びたいと。

でも、彼らのほとんどは学校に行けていません。インドの中でちゃんとした教育を受けられる子供は、ほんの一握りです。学校に行くことが当然の今の世界にあって、教育をこれほど求めている子供が地球の裏側にいたことに、大きな衝撃を受けました。

やっぱり私の感覚はマヒしていたんだと思います。いろんな方に助けていただき、私の人生は変わりました。その環境に慣れてしまうことは仕方のないことだと思いますが、だからこそ、定期的に他の国へ行き事実を目の当たりにすることは、とても大事なことだと感じました。映画や雑誌で知ることもできるでしょうけど、自分の五感で感じたことは一生忘れないですよね。旅をするって、そういうところに意味があると思います。

胸が詰まった、親のない子たちのメッセージ

私は普段からよく人とハグをします。ハグをして肌に触れると、その人の今の状況や思いを感じることができます。私はハグをしてくれる親がいない時期がありましたし、日本に来てからも、お母さんが朝早くから夜遅くまで必死で働いていて、独りぼっちで過ごす寂しい時期が続きました。そんな中でも、たまにお母さんにハグしてもらうと、やっと胸の中に戻れたという大きな安心を感じました。

来日して二年目、九歳当時のサヘルさん

インドでは親のいない子供たちの施設も訪ねましたが、施設の子たちは大人にハグされた経験がほとんどありません。だから、私がハグをしてあげると、もう離れないんです。びっくりするぐらいにやせ細っているのに、力強くギューッと抱きついてくるし、私の手も握って離さない。一人の子が手を握り出すと、二つしかない私の手をたくさんの子が奪い合おうとするんです。「お姉ちゃんは私のものだ」って。それだけ寂しくて、けれど普段はそれを吐き出せないでいるんですね。

帰り際、子供たちが、自分の写真を必死に私に渡そうとしてきました。その写真はきっと、私より以前に来たボランティアの人が撮ってあげたものです。なぜ彼らが、自分たちの生きた証しであるその大事な、わずか1~2枚の写真を必死に私に持たせようとするのか。答えは写真の裏側にありました。メッセージが書いてあったんです。「私を連れていって」って。

私の場合は、母が私の手を握って孤児院から出してくれました。でも、その時の私にはそれができなかった。胸が詰まりました。だから私は心の中で誓ったんです。「ごめんね、私はあなたの手を握ってここから連れ出してあげられないけれど、みんなの存在をちゃんと日本で伝えるから」って。

この旅に出るまで、私はずっと目の前にいる母を楽にしてあげるためにエンターテインメントの道を選び、お仕事をしていました。しかし、こうして発言して取り上げていただける環境に身を置く以上は、声なき声、届かないこの子たちの声を伝えることこそが役割だと思うようになりました。そのためのお仕事だったんだって、初めて気がついたんです。だから、この仕事を自己満足で終わらせてはいけない。自分がやるべき仕事の意味を見つけた、大きなターニングポイントでした。

世界中に自分の子供たちがいるよう

現在六本のレギュラーを持ち、タレント、俳優として幅広く活躍中

私は今、国内外の子供たちのサポートをいくつかさせていただいています。その一つに、茨城県つくば市にある児童養護施設の支援の活動があります。洋服やおもちゃ、お菓子などを定期的に送ったり、年に一回のお祭りの時に有名な方にお声がけをして一緒に訪問したり。また年末には、お正月に帰る家がない子供たちをイベントに招待しています。帰る場所がない子たちはお正月に施設の中で寂しい思いをしますし、お年玉をもらったこともありません。

ある年の年末、その子たちをバスで横浜に招待して、お昼はホテルでビュッフェを楽しみ、午後は遊園地や水族館に連れていって、夜にまたホテルでご飯を食べるという、みんなが普段経験できないことを企画しました。そして、最後に一人ずつお年玉を渡したんです。みんな「初めてもらった!」と言って喜んでいましたが、すぐ使うのかなと思ったら、「ためるんだ」と。初めてもらったものだから使えないって言うんですね。

ところが帰り際、ある子が「やっぱりお土産を買いたい」と言い出しました。「自分用に買うの?」と聞いたら、今日来られなかった同じ施設の友達のためだと言って、そのお金を使ったんです。私は胸がぎゅっとなりました。本当だったらすごく大切なお金のはずじゃないですか。でもあの子たちは「誰かのために」という気持ちをすでに持っている。それがとてもいとおしくて、以来毎年そのイベントを続けています。

つくばの施設以外にも、自分が育ったイランの施設や、「チャイルドドクター」という子供に医療保険を持たせてあげる活動、インドのアナという子には学校に行く資金を援助させてもらっています。世界中に自分の子供がいるような気がして、なんだかうれしいです。

心を寄り添わせるだけでも立派な支援

時々、「いくらお金を払えば支援になりますか?」という質問をいただきますが、私はお金を払うことだけが支援ではないと思っています。例えば、私は今、海外の施設の子と文通をしていますが、彼らはそもそも手紙をもらうことのない環境にいる子供たちなので、行ったことのない国に友達ができたということだけでも大きな喜びなんです。国内でも同じ。施設で行われる子供たちのお祭りに顔を出すだけでも、子供たちはとても喜びます。そうして心に寄り添うだけでも立派な支援だと私は思います。

支援すべきケースはいろいろありますから、子供の勉強を支えたいのか、医療を支えたいのか、施設に遊びに行くことで子供たちと接したいのか、まずは何をやりたいのかを見つけてみるといいと思います。

子供だけではなく、介護施設や、障害をお持ちの方々のものづくりの職場なども支援を必要としています。まずは、どういう人をサポートしたいのか、どういう人とつながっていきたいかという自分の思いを見つけてほしい。

これは、自分に合った靴を探すのと同じことです。合っていない靴を履いても足が痛くてすぐ脱ぎたくなってしまう。私自身、施設をたくさん見学させていただき、いろいろな寄り道をしながら、今の支援の形を見つけました。自分に合うものを探していけば、「ああこれだ」という形がきっと見つかるので、焦らずにゆっくりと、自分のサイズに合った支援を探してほしいと思います。

そして、支援を始めたら、何より自分を大事にしてください。私もそうなんですが、みなさんつい自分の肩の荷を下ろすことを忘れてしまうんです。まずは自分が幸せじゃなければ人を幸せになどできません。いろいろな子供に出会ってしまうと「ごめんね」が言えなくなってきて、気づいたら自分自身に負担がかかってしまっていることもあります。すべてを受け入れるのではなく、「これ以上はできない」と線を引くことも、大切なやさしさです。

子供も大人。大人も子供。

今回、フォトグラファーの安田菜津紀さんの写真に私が言葉をつけた『あなたと、わたし』という本を出版することになりました。安田さんは、いろんな国々の子供たちの写真を撮っていますが、その写真の子供たちの眼を見るたび、私はいつも「きっとこの子はこんなことを思っているんだろうな」と想像し、心の中で言葉を添えていたんです。それが本当に形になりました。

年齢を重ねてきて感じるのは、大人になるほど我慢することが多くなってしまうのに、なぜ大人は泣きたくても泣けないんだろうということ。心に年齢はないのだから、私たちはいつまでも素直であるべきだと思うんです。だからみなさんにはもっと喜怒哀楽を出してほしい。大人も子供だから。子供も大人だから。そこには境界線なんてないはずです。

私は詩の中で「頑張って」とは決して言いません。子供の頃の私には、「頑張れ」の言葉がすごく苦しかったから。それよりも、読んでくださる人たちに「ここにも同じ孤独を抱えている人がいる。悩んでいてもいいんだ」って思ってもらえたらいいなと思います。弱くていいし、頑張らなくていいし、泣きたいときは泣いていい。陰(いん)の人は陰のままでいいし、陽(よう)になる必要も背伸びをする必要もない。そんなことが、この詩集から伝わればいいなと思っています。

  

     ◇

サヘル・ローズ 1985年、イラン生まれ。8歳で来日。日本語を小学校の校長先生から学ぶ。舞台『恭しき娼婦』では主演を務め、映画『西北西』や、主演映画「冷たい床」は様々な国際映画祭で正式出品され、最優秀主演女優賞にノミネートされるなど、映画や舞台、俳優としても活動の幅を広げている。第9回若者力大賞を受賞。芸能活動以外にも、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めている。現在、『探検バクモン』(NHK総合)など六つのレギュラーをこなす一方、映画、ドラマ、舞台などで俳優としても幅広く活動中。写真詩集『あなたと、わたし』は日本写真企画より12月15日発売。2019年1月17日~20日、赤坂RED/THEATERにて江戸川乱歩原作の舞台『陰獣』に出演。

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『陰獣』は、生々しくエロチックでありつつ、その裏に隠れている人間の複雑な心理を描いたサスペンスです。今回、私がとてもうれしいと思っているのは、舞台で初めて純日本人として主演をさせていただくこと。着物を着ますし、セリフも昔の言葉づかいなので、私にとっては大きな挑戦です。今までも丁寧な日本語を使うことが自分の誇りだったんですけど、今回はまったく用意していなかった引き出し。でも、これをやることで新しい引き出しが作れるわけですから、楽しみでもあります。見ていらっしゃる方々に、「本当に日本人だ、やまとなでしこだ」と思っていただけるような表現ができたらと思っています。

(聞き手 髙橋晃浩)

舞台『陰獣』は2019年1月17日~20日、赤坂RED/THEATERにて上演

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